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TMDについて

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1.用語の説明
・TMD:戦域ミサイル防衛(Theater Missile Defense)のこと。

米軍は「アジア・太平洋地域」「中東」「欧州」をそれぞれ "戦域(Theate
r)" と呼んでおり、その地域内の米軍部隊や同盟国に向けて発射された中
距離弾道ミサイルを、迎撃ミサイルなどで破壊しようとするための、防御シ
ステムのことを「戦域ミサイル防衛」といいます。つまり、アメリカの視点
から見てつけられた名前です。
在外米軍と同盟国を防衛するためのもので、対象とするのは射程の短い中・
短距離弾道ミサイルとなります。

TMDは、陸上配備の地対空ミサイル部隊、または海上配備の艦艇部隊と宇
宙配備の捜索センサーなどから構成されています。
陸上配備の地対空ミサイル部隊には、比較的射程の長いものと射程の短いも
のの2種類があります。
射程の長いミサイルは大気圏内または宇宙空間において弾道ミサイルを迎撃
するためのもので、上層システムといいます。
それに対して、射程の短いミサイルは大気圏内の比較的近距離で迎撃するも
ので下層システムといいます。
(自衛隊では、陸上および航空自衛隊の高射部隊が担当します)
陸上配備の上層システムをTHAAD(Theater High Altitude Area Defense)
といい、下層システムには、パトリオットミサイルの改良型であるPAC-3が
あります。
海上配備型は、いわゆるイージス艦を使用するもので、これにも上層システ
ムと下層システムがあります。大きな違いはミサイルの種類です。

・BMD:弾道ミサイル防衛(Ballistic Missile Defense)のこと。

発射された射程300~8000キロの弾道ミサイルを、弾着するまでに探
知し、迎撃ミサイル等により撃墜するための防御システムです。
弾道ミサイル防衛には、米国の防衛をするためのNMDと、在外米軍と同盟
国を防衛するためのTMDがあります。
最近、日本ではこの言葉が使用される頻度が高くなっています。
防衛庁の見解では、我が国自身の弾道ミサイル防衛を研究するにおいて、在
外米軍等を防護するのを目的とした米国固有のプロジェクト名であるTMD
を使用するのは適切でなく、米国にとっての戦域ミサイル防衛であるTMD
という言葉と違う、我が国にとっての弾道ミサイル防衛であるBMDのあり
方について研究をしたいということであり、そこは、はっきり分けた方がい
いだろうということで、呼称を変えて一般的な名称としてのBMDを使用し
ているというものでした。

・NMD:国家ミサイル防衛(National Missile Defense)のこと。

米国本土の防衛を目的とする弾道ミサイル防御システムで、対象はICBM
のようなハワイ、アラスカを含む米国本土を目指して飛んでくる長射程弾道
ミサイルです。
地上配備のレーダー及びミサイルと宇宙配備のセンサー等から構成されてい
ます。NMDとTMDは、いろいろな意味でまったく異なるシステムであり
、我が国が現在取り組んでいるBMD研究が米国のTMDを念頭においたも
のである以上、その違いをはっきり理解しておく必要があります。(後述)

・ABM:弾道弾迎撃ミサイル(Anti Ballistic Missile)のこと。

米ソ冷戦時代に、相手国から発射される弾道ミサイルを核弾頭によって撃墜
することを目的として開発されました。大量に配備されれば双方とも先制攻
撃をためらう理由がなくなって、核の抑止力が機能しなくなる恐れから、米
ソ両国が配備場所、基数の制限(1ヶ所につき10基)、および開発の制限
を約束しました。これがABM削減条約です。

2.概要
1993年、クリントン大統領は、弾道ミサイル防衛(BMD、Ballistic Missi
le Defense)構想を発表しました。
BMDは、海外の米軍と同盟国を防衛するための戦域ミサイル防衛(TMD
)と、アメリカ本土を防衛する国家ミサイル防衛(NMD)の2つから構成
されています。そして、この内のTMD構想に、中国や北朝鮮の弾道ミサイ
ルの脅威下にある我が国の参加が呼びかけられているわけです。
現在のBMD計画は、戦略環境を大きく変えることなく、弾道ミサイルによ
る限定的な攻撃、あるいは、偶発的な事故に有効に対処することを目的とし
、かつ、技術的に実現の可能性があるものとして進められています。
日本が米国と共同で技術研究を進めているものはTMDであり、米国が独
自に開発を目指しているNMDとは目的、システム構成、国際条約上の位
置づけなどが大きく異なっています(後述)。
現在、米国ではTMDシステムとして各種システム、兵器の開発や実験が
進められており、米国以外においても欧州各国、ロシア、イスラエルなど
がTMDシステムを保有又は開発しているところです。

3、NMDとTMDの違い
まず第1に、目的が異なります。前述したとおり、NMDは米国本土を防衛
するものであり、TMDは在外米軍と同盟国を防衛するものです。目的の違
いというのは大きな問題であり、異なる目的で作られる2つのものを同じも
のとして考えることは、大きな間違いを生むおそれがありますので、明確に
分けて考える必要があります。

第2に、対象とする弾道ミサイルが違います。目的が異なることから、必然
的に対象とするものが変わってきます。NMDの対象はICBMのような米
国本土を目指して飛んでくる長射程弾道ミサイルです。それに対して、TM
Dが対象とするのはもっと射程の短い中・短距離弾道ミサイルです。

第3に、システムの構成が異なります。NMDは基本的に陸上配備型であり
、レーダーサイトやミサイルサイトが固定式なのに対し、TMDは、海上配
備型では当然のこと陸上配備型でも移動可能な構成要素となっています。
レーダー、迎撃ミサイルの発射機、指揮管制ユニット等は車載または航空機
に搭載できるようになっており、当然のことながら海上配備型はすべて艦載
装置となっています。

第4に、技術的な水準が大きく異なります。
NMDは開発に要求される技術水準が、TMDと比較してはるかに高いもの
となります。
一方、TMDはNMDと違って、ペトリオットやイージス艦などの既存シス
テムの改良により開発が進められています。
また、NMDはTMDよりも射程の長い弾道ミサイルを対象としているため
、目標の速度も速く、命中させにくいという技術的課題もあります。
最近の米国でのNMDの実験失敗に関連し、TMDそのものや日米共同技術
研究にまでも技術的に疑問である、という議論がありますが、論理の飛躍と
言えるでしょう。

最後に、条約上の制約が異なります。
新聞等によりNMDとABM条約との関係が報道されていますが、NMDは
現行のABM条約のままでは配備することはできません。米国が、NMDを
推進しようとするならば、ロシアとの間でABM条約の修正ないしは廃棄が
必要となります。しかし、TMDに関しては、1997年9月に米ロ間で合
意がなされ、ABM条約に拘束されないTMDシステムが定義されました。
つまり、この合意を守る限りTMDを推進することができるのです。
現にロシアは、限定的な能力ながらTMDを保有しており、プーチン大統領
がTMDを米露共同で開発することを提案したことさえあります。

付け加えるならば、ABM条約は米露二国間の条約ですから、日本に適用さ
れないことはもちろんです。従って、中国や北朝鮮がABM条約に違反する
から開発するなと日本に対して言うのは、根拠のないことと言わざるを得ま
せん。
繰り返しますが、米国とロシアとの間で問題となっているABM条約は、あ
くまでも米国のNMDに関係するものであって、米国のTMDや我が国の弾
道ミサイル防衛、および日米共同技術研究にはまったく関係しないというこ
とを強調しておきます。

4.なぜ、TMDが日本に必要か
現在わが国には中国・北朝鮮の弾道ミサイルという脅威が現実に存在してい
ます。また、弾道ミサイルには核、化学・生物弾頭が装着されるのが普通で
す。
その脅威の本質は「弾道ミサイルは現段階では防御し難い絶対兵器である」
という点にあります。
発射機の秘匿性を含めて、世界最強のアメリカ軍であっても対抗できない武
器だからに他なりません。(弾道ミサイルの迎撃は、技術的には大変困難な
ことです。特に、大気圏に再突入してからの弾頭は、マッハ10以上(射程50
0キロでマッハ7、射程1000キロでマッハ10、射程2000キロでマッハ13、射程
3000キロでマッハ16程度)の極超音速で落下してくるため、これを現在の兵
器で、撃ち漏らし無く100%迎撃することは難しいといわれています)
しかし、わが国とアメリカが協力して、弾道ミサイルの絶対性を突き崩すT
MDというシステムを獲得できれば、弾道ミサイルの価値が低下します。
その結果、弾道ミサイルの脅威に対する有効な抑止力をTMDが発揮するこ
ととなり、無益な戦いの発生を抑えてくれるのです。
例えば、印パの核実験競争における「相手の脅威がある以上対抗せざるを得
ない」という双方の言い分に対しても、TMDがあれば、それを両国に供与
する条件として「供与を受ける国は弾道ミサイルを廃棄しなければならない
」という外交カードを切ることもでき、日本が、紛争を未然に防止する役割
を果たすことも可能となります。
核兵器の使用を思いとどまらせ、かつ核兵器の実効性を削ぐことができるの
はTMDのような「盾」としての迎撃システムの配備だけであると思います

TMDというシステムは、今日世界が抱える安全保障上の懸案に対する有効
な解決策の一つであり、「軍拡を進める」力があるというよりもむしろ「平
和を創造する」力があると言えるのです。
また、我が国にとって、TMDのような防御兵器を開発するには、アメリカ
との共同開発が最も適した形態です。というのも、湾岸戦争をはじめとする
幾多の紛争を経験し、戦域弾道ミサイルに関する情報やデータを大量に保有
するアメリカとは異なり、我が国はTMD開発に欠かせないそれらの技術や
ノウハウを持ち合わせていないからです。
これは、いくら日本の高度な技術力を駆使したところで追いつくことの出来
ない差異であり、それ故に我が国は単独でこのような防御兵器を開発できな
いのです。
また、実際に我が国は航空自衛隊が高層防空にペトリオットを、陸上自衛隊
が低層防空にホークを、そして海上自衛隊がイージス護衛艦(イージス戦闘
システムを搭載したミサイル護衛艦)を装備しており、つまり世界中のどの
国よりもアメリカの装備体系に類似した兵器で武装しており、それだけTM
D兵器の導入も比較的簡単かつ経済的に行うことができるという利点がある
わけです。
TMDには参加しないで、いざというときには発射基地を空爆すれば発射自
体を阻止できるじゃないか、というご意見もあろうかと存じますが、そのた
めには、発射基地を全滅させる必要があります。
しかし、湾岸戦争時に証明されたとおり、固定式であろうと移動式であろう
と、弾道ミサイルの発射基地を事前または事後に攻撃することは、例えイラ
クの砂漠という遮蔽物の少ない地形において、世界最大の航空戦力を有する
アメリカが挑戦しても著しく困難な任務でありました。ましてや険しい山岳
地帯を含む北朝鮮に対しては、たとえ航空自衛隊の現有兵力を総動員しても
ミサイル発射機の完全破壊は不可能であるということは明らかです。

勿論、TMDは我が国にとって必要な兵器であり我が国の国防力を高めるも
のではありますが、それと同時に、世界の非核諸国や弾道ミサイルの脅威下
に置かれている諸国にとっても同じく利益となります。
また、前述したように、TMDは弾道ミサイルの兵器としての魅力それ自体
を減少させる役割を持っています。その意味では、TMDは大量破壊兵器の
拡散を阻止する「軍縮促進兵器」であって、如何なる意味においても中国(
中華人民共和国)の言うような「東アジアの軍拡」には該当しないといえる
でしょう(第一、中国は既にTMDとしてペトリオットに相当すると言われ
る地対空ミサイルを4個発射隊取得しています)。

5.TMD計画の実際(少し専門的ですので飛ばしても結構です)
アメリカのTMD計画は3段階に分割され段階的に進められています。

《第1段階》
●地対空ミサイル「ホーク改良発展型」
 中低空用地対空ミサイル「ホーク」の、小型目標(ミサイル)撃墜能力向
上型。すでに配備は完了しています。
●地対空ミサイル「ペトリオットPAC2GEM」
 地対空ミサイル「ペトリオットPAC2」の、小型目標(ミサイル)撃墜
能力向上型。すでに配備は完了しています。
●タロン・シールド統合戦術システム
 戦域(前線)における、弾道ミサイルの発見・識別・要撃を速やかに実行
するための警戒通信システム。すでに配備は完了しています。

《第2段階》
●ペトリオットPAC3
 名前こそ「ペトリオット」だが、実質はBMD計画の前身である「GPA
LS計画」で研究開発された「ERINT(拡大射程迎撃体)」の事。従来
のペトリオットシステムを使用して発射するので名称はそのままになってい
るだけです。開発は順調で、数年後には米陸軍の全ペトリオットの改修が終
了する予定です。
●THAAD(戦域高高度地域防衛)
その射程距離が大気圏内から100kmの大気圏外までと広範囲にわたり、
「ペトリオットPAC3」では迎撃できない高高度を担当。TMDの中核と
言われ、弾道ミサイル防衛の主力とされています。
ところが現在まで繰り返し行われた発射実験はいずれも失敗に終わっており
、今後の動向が心配されているところです。
●NAD(海軍地域防衛)
 海上から大気圏内の弾道ミサイルを迎撃します。イージス艦用スタンダー
ドミサイルSAM2をブロック4に改修する計画。レーダーホーミングのス
タダードに赤外線ホーミング装置を付加し、能力向上をはかる。ペトリオットPAC3と同様、配備開始が目前です。

《第3段階》
●中規模拡大防空システム
 まだ机上段階。「ホーク」の実質的後継システムとして期待されています
 。
●NTWD(海軍戦域防衛)
 イージスシステムを改良して、大気圏外までの範囲を迎撃対象にしていま
す。海上版THAADと言った位置づけ。
現在は「LEAP(軽量大気圏外迎撃体)」という名称で呼ばれる「ミサイ
ル弾頭」を開発中です。やっと、概念的なものから研究開発段階に移った、
という感じであり完成までにはまだ時間がかかると思われます。
ちなみに、日本の主要担当分野が、このNTWDです。

(エンリケ航海王子)

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(投稿日:2001年1月20日 20:42
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