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フランス外人部隊・日本人衛生兵のアフガニスタン戦争 Vol.20–危険任務へ行く気持ち

time 2012/07/23

From:野田力
2012年(平成24年)7月23日(月)

□はじめに

読者様よりコメントをいただきました。ありがとうございます。

K様、
オランド大統領の負傷兵への配慮は本当にすばらしい機転だった
と思います。あの心遣いで負傷兵の気持ちは救われたはずです。
日本においても、自衛隊がどんどん国民に認められていっていま
すので、近い将来、自衛隊のことを本気で考えてくれる総理大臣
が出てきてくれるのではないかと期待したいと思います。

それでは連載に参りましょう。

▼危険任務へ行く気持ち

本格的な任務に出ることが決まった。
小隊でブリーフィングがあり、ADU(最先任下士官)のウィルソン
上級曹長が中隊の任務を説明した。
それによると、COPフォンチーの北側にある敵の潜む村に、
装甲車で敢えて近づき、敵がどう反応するのかをみるという。
村の東側に広がる荒野を北上し、東から村へと接近する。

近づくだけで、特に何かをやるわけでもなく、ただ反応をみる
だけだ。攻撃を受けるかもしれないし、無反応かもしれない。
攻撃されれば、こちらも攻撃していい。少なくとも、この村には
約20名の敵がドローン(無人偵察機)により確認されている。

ADUは、小隊事務室の壁に貼られている地図上を指さし、
微笑みながら言った。

「ここよりも北へ行けば興味深いことになるだろう。」

つまり、攻撃を受けることになるだろうということだ。
ADUは続ける。

「作戦地域には民間人も多く住んでいる。民間人を撃ってはいかん。
発砲するときは、やみくもに撃つな。標的の位置が不明なら撃つな。
撃つときは、弾がどこへ飛んでいくか把握しながら撃て。」

確実に命中させられる場合のみ撃ってよい、という意味ではない。
民間人や友軍を撃たないように注意しろ、ということだ。
例えば、遮蔽物などに隠れている敵が、少し体を出してAK小銃など
で攻撃してこないように、遮蔽物周辺に連射を加えるという牽制射撃は
必要だ。

いっぽう、牽制や威嚇の意味も含まずに、ただむやみに撃ちまくると、
民間人を撃ってしまう可能性が高まる。それは上層部、特に政治家
たちがもっとも望まない事態だ。ある同僚によると、第4小隊の
小隊長は小隊集合時にこう言った。

「民間人に犠牲者が出たら、われわれの負けだ。」

ブリーフィングの後、ベッドの上で物思いにふけった。
ついに危険の伴う戦争らしい任務に行ける。どんな展開になるのだろ
うか?本当に戦闘は起きるだろうか?負傷者は出るのか?戦死者は?

自分が戦死した場合について考えた。やはり死については考えてしまう。
自分が死んだら家族や親友たちにどんな影響を及ぼすのだろうか?

今まで生きてきたなかで、家族・親友とはいい思い出がたくさんある。
いろいろと感謝もしている。2度と会えないのは嫌だ。
これから何度も会いたい。

子供を作らずに死ぬのは嫌だとも思った。やはり子孫は残したい。
子供さえいれば、死んでもいいと思えるかもしれない。現実には
まだ嫁さんすらいないが・・・。

しかし、少し考えたら、夫を亡くす妻や、父のいない幼子を残すのは
よくないと思い、どうせ死ぬなら妻子のいない現状のまま死んだほう
がいいと結論づけた。

結局、最終的には、子孫を残すとか、親友や家族のことは、戦闘に
臨むにあたって、一切考えてはいけないと結論づけた。
そういうことを考えてしまうと、必要以上に生きることへの執着心が
生まれ、恐怖に包まれてしまう。死ぬと決まったわけではない。

恐怖を感じたのは事実だが、どうしても戦闘任務に参加したいと
思ったのも事実だ。私は医療班として参加するのだが、戦闘班として
参加してもいい。正直、敵を撃ちたいと思う。そのための訓練も
積んできた。敵をたおすことを考えると少し興奮した。しかし任務は
ゲームではない。人命がかかっている。

今回の任務を前にして、恐怖と興奮が私のなかで共存していた。
これらが大きすぎると、任務に悪影響が出るだろう。

恐怖に包まれれば、思考力がじゅうぶんに働かなくなり、体がうまく
動かなくなる。もしそんな状況で負傷者を前にし、的確な判断が
できなかったり、手が震えたりすれば、そいつは死ぬかもしれない。

一方、極度の興奮状態に陥ると、「殺す気」がはやり、急に民間人が
現れたとき、ついつい撃ってしまうかもしれない。別の可能性と
しては、敵が撃ってきているのに、遮蔽物を無視して、乱射しながら
突撃していくかもしれない。アクション映画のようにうまくいけば
いいが、私は無謀なことだと思う。

ただし、恐怖も興奮も、適度に持ち合わせれば、心理的に有効だろう。
少しの恐怖があれば無謀なことをせずに生き残る可能性が高まるし、
少しの興奮があれば、危険な状況下、勇気をふりしぼり、必要な
行動を起こすことができる。

つまり、恐怖と興奮の調節が必要だ。私にとって、最良の方法は、
「とにかく仕事をやってしまおう」と自分に言い聞かせることだ。
親友や家族に会いたいとか、敵を自分の手でたおしたいとか、
あれこれ願望など考えずに、ひたすら自分のやるべきことだけに
集中し、実行すればいい。

そうすれば、必要最低限の恐怖と興奮に抑えることができ、
ハイテンションになり余計な危険を冒したり、怯えて逃げだすこと
もないだろう。それでも失敗したならば、「ちゃんとやっても
駄目だったんだ」と内心あきらめる。
とにかく自分の仕事をやろう。

任務当日、まだまだ暗い午前2時半に起床し、3時に装甲車の車列が
編成された。我々第3中隊全体、1個工兵小隊など、20台くらいの長い車列だ。
我々医療班のVABは、ADUのVABの後ろで、我々の後ろには車両整備班
のVABが並ぶ。これらの3台は常にこの順番で車列のなかに組み込まれる。
全体の車列のなかでは、後ろのほうだ。

4時半、まだ明るくなる気配すらないなか、車列はFOBトラを出発した。
ヘルメットに固定されたアダプターには暗視装置OB70が取りつけて
ある。ただし、両目の前ではなく、上に向けてアダプターを半回転
させ、前頭部のあたりに保持されている。まだ、暗視する必要がない
のだ。使用するときがくれば、下に向けてアダプターを半回転させる。
そうすれば暗視装置は両目の前にちょうど来る。

我々は道路交通法を守り、ライトを点灯して走行した。角を曲がる
ときは方向指示器を点滅させる。目的地までは幹線道路を通るので、
一般車両も走っている。無灯火で走行すると危険だ。意外に多くの
一般車両が走っている。朝早い通勤だろうか?トラックは運輸業だろう。

アフガンの運転手たちは、対向車がいるというのに、ヘッドライトを
ハイビームのままにしている。1台や2台ではない。ほとんどの車が
そうだった。まぶしくて困る。路肩を視野の中心に捉えながら運転した。

他にも、カーブでじゅうぶん減速せずに対向車線に進入してくること
など、度々見受けられ、どうやらアフガン人の運転は乱暴だと
わかった。ここでの運転には、フランスや日本で運転するとき以上に
注意しなければならない。

ライトをつけて運転すること約1時間。敵のいる村から我々のライトが
視認できるであろう地点の少し手前に到達した。このあたりは町の
中心部から遠いので、一般車両が走っていない。無線から中隊長の
命令が聞こえる。

「全車両、止まれ。消灯し、IR(赤外線)を使用せよ。」

我々は車間距離を約20mとって停車し、ライトを消した。星だけしか
光源がなく、とても暗い。暗視装置を両目の前に下ろした。視野は
狭まるが、緑色のかかった白黒映像のような光景が見える。前方の
装甲車や遠くの山肌などが浮かび上がる。

IRライトのスイッチを入れた。すぐ前の地面や前方の装甲車が
鮮明に映るようになった。肉眼では暗闇にしか見えない。暗視装置は
すばらしい発明だと思う。しかも手のひらに載るサイズだ。

「全車両、出発。」
中隊長が無線で言った。少しして我々の前にいるADUの装甲車が
ゆっくりと進みだした。それに続くように私はハンドブレーキを
解除し、アクセルを踏む。いよいよ潜入する。

(つづく)

(野田 力)

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● 著者略歴

野田力(のだ りき)
1979年9月 近畿地方生まれ。
阪神大震災における自衛隊の活躍を描いた書籍を読み、陸上自衛官を志すも挫折。
自分が立派な兵士になれることを証明するため渡仏し、外人部隊への入隊を果たす。

2005年3月 基本訓練ののち、希望していた第2外人パラシュート連隊に配属され、コル
シカ島に駐屯。
2005年4月 パラシュート課程修了。
2005年5月 第3中隊(水路潜入専門)第3小隊配属。歩兵訓練修了。ミニミ軽機関銃射
手を担当。
2005年10月 対戦車ミサイルERYX(エリックス)課程修了。同ミサイル射手を担当。
2005年12月 水路潜入課程レベル1修了。
2006年2月~6月 アフリカ・コートジボワールに派遣され、治安維持作戦に従事。
2006年12月 衛生兵課程修了。小隊の衛生兵となる。
2007年3月 水路潜入課程レベル2修了。
2007年4月 装甲車VAB(ヴァブ)免許取得。
2007年6月~10月 アフリカ・ジブチに派遣され、砂漠訓練等を受ける。
2008年2月 伍長昇進。
2008年9月~2009年1月 アフリカ・ガボンに派遣され、ジャングル訓練等を受ける。
2009年7月14日(フランス革命記念日) パリのシャンゼリゼ大通りの軍事パレードに参
加。
2009年12月 上級伍長昇進。
2010年1月~7月 アフガニスタン派遣。国際治安支援部隊活動。
2011年4月 除隊。
2011年6月 帰国。2012年春から看護学校に入学。経験・特技を活かし、国際医療・災
害医療の看護師を目指す。


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