最強戦闘機 F-22ラプター

■FXの選定
空自の次期戦闘機(F-X)の選定にあたって選択肢に上げられているのは


F-22A、F/A-18E/F、F-15FX、ユーロファイター・タイフーンの
四機とされます。
大本命というか、このなかで一機だけ能力が飛びぬけているのがF-22Aです。
F-X問題の背景についてはこの前「【Q&A】FX選定について」で
お伝えしました。
■F-22Aって何?
とはいえ
さて、
「F-22はすごい」とはよく聞くけど、
何がどうすごいの?
どんな戦闘機なの?
との疑問を感じる方は多いと思います。
実際、そういうお問い合わせも頂きました。
そのとき、本屋に行ってF-22に関する客観データに基く本を探したんですが、
なかったんですよね。これが。
大変意外でした。
しかし・・・
■ついに出ましたね!
並木書房さんは、さすがです。
おそらく現時点で日本語で読める唯一の、F-22A詳細データ本を出してく
れました。
近い将来のわが空の国防を考える上で欠かせないよな。
と思って読み始めましたが、果実は意外なところにありました。
F-22Aという戦闘機は、私達がこれまで持っている戦闘機のイメージと
まったく異なる次元にある「空中軍事プラットフォーム」だと感じました。
これまでの技術革新の成果というのとはちょっと違う、21世紀の軍事を象徴
する兵器ではないか?と思われます。
この戦闘機(というか空中軍事システムの1プラットフォーム)を抜きにして、
今後の軍事を考えることはできなくなるかもしれません
詳しくは本著に目を通していただきたいのですが、
私はこの戦闘機について、「全く異次元の存在」との印象をもっています。
21世紀後半には、ここから派生した各種システムが航空軍事技術の中核をなし
ているかもしれません。
軍事技術といえば、
■現代の軍事技術を知る
現代、そしてこれから先の軍事技術を一言で言えば、
「陸海空問わず、すべての兵器は有機的にリンクしたシステムの一部になる」
ということでしょうか。
空中分野のそれを象徴する存在が、今回ご紹介しているF-22Aになるのか
もしれません。
こういった最先端の技術動向に関心がある方にとってこの本は、涎が落ちるよ
うなデータ満載といえましょう。
実に興味深いのは、76ページから118ページ(!)にわたって詳細に記載
されている開発年譜です。詳細に記載された出来事を時系列で見ることで、
F-22Aというもの、兵器の開発から配備までの全貌が浮かび上がってきます。
開発担当者、メーカーの技術者、部隊などなど関係者が、かくも長期間をひと
つのことに賭けている、との事実を知ることができる絶好の機会だと思います。
例えばこんなことが書かれています。
<1993年1月 1993年度予算で資金確保ができなかったため、EMDプロ
グラムの先送りが決定した>
<1996年7月10日 機体チームは空軍から、複座型F-22Bの設計・開
発要求が延期されたと正式に通知を受けた>
この年譜を読むだけでも、この本は十分求めるに値します。
これだけで十分一冊の本になるだけの内容があると思います。
■企業とのかかわり
兵器は企業が作ります。
このことは知られているようで、あまり知られていないのではないでしょうか。
この本を通じて感じるもうひとつの点は、
「企業」の存在がクローズアップされていることです。
兵器の計画・開発・生産・配備・整備というサイクルのすべてに企業は関わり
ます。軍と企業が緊密に連携する中で初めて「兵器」は生まれます。
なぜか戦後のわが国では、その事実を隠す風潮がありますが、
ぜひこの本を通じて、軍と企業の連携について、「軍産複合体」などという
プロパガンダ用語に惑わされることなく、現実にのっとった視野をGETしていた
だきたいものです。
■最後に
「明日の航空軍事の流れを把握する」という読み方。
企業と軍の協力が「兵器」という果実を産むという視点。
少なくともこの二点は、この本から得ることができます。
しかし、あなたの関心度合、意識の深さに応じて、もっと広く、深く読むことが可能です。
F-22を知るだけで終わらせるのでは、なんとももったいないですね。
現代の航空軍事技術概念、兵器産業に思いを馳せることのできる必須の基本書
と思います。
オススメします。
(エンリケ航海王子)
追伸
もっとオススメできる理由3つ
1.略語説明がまとまった形で置かれています。
本著は翻訳本ですが、この種の本を読む際一番のネックになる「略語」の説明
が、P14~15の2ページに渡って置かれています。
コピーを取って本に挟んでおくと、しおり代わりにもなりますし、煩雑さがな
くなってより一層読みやすいでしょう。読み手を考えたつくりが嬉しいですね。
2.写真がとにかく豊富です
ありとあらゆる角度からの機体全景はもちろんですが、主脚(出たり入ったり
するタイヤです)、爆弾・ミサイルを搭載する場所、コックピットなど、F-
22はまさに丸裸です。
3.序章と終章のよみもの部分がいいです
最初と最後の章は、F-22をめぐる状況全体を俯瞰した「ためになる」有機的
なよみものになっています。とかく無機質になりがちなデータ情報を、「ために
なる」有機的なよみもので挟むこの形式は、読み手を想像以上に圧迫感から解
放しています。「「世界最強」すぎて売れないジレンマ」は、興味深いですね。
今日ご紹介した本は
最強戦闘機 F-22ラプター
著者 ジェイ・ミラー 石川潤一訳
出版社 並木書房
発行 平成19年11月30日
でした。
お求めはお早めに。
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【目次】
序章 F-22戦闘機は必要か?
「何でもできる」スーパー戦闘機
途方もなく高価な戦闘機
将来まで見通したテクノロジー
略語
第1章 世界で最も先進的な戦闘機
二世代先を行く革新的な戦闘機
ATF開発計画のスタート
対地攻撃から空対空戦闘まで
航空優勢の獲得を重視する
旧ソ連の新世代戦闘機の脅威
概念研究段階への移行
21世紀を見すえた設計
要求を満たす4つのデザイン
ステルス性の重視
製造メーカー7社との予備契約
コストを抑えた初期研究
第2章 プロトタイプ機の開発
メーカーの共同事業化
プロトタイプの受注へ
エンジンの競争試作
Dem/VAlの3つの条件
共同事業体の作業分担
YF-22Aの生産に携わった下請け業者
スケジュールの遅れと設計変更
カリフォルニアでの地上試験
ロッキード、ぎりぎりの設計変更
スラスト・ベクタリング(推力偏向)
ロッキードの長期風洞試験
ステルス技術の解説
第3章 YF-22A飛行試験
タイトな試験スケジュール
飛行試験スタート
空中給油で飛行試験時間を増やす
民間任せの試験プログラム
地上でのコントロール体制
試験データは大容量ネットワークで共有
2機のプロトタイプ
小さなトラブル
脚の引き込み不具合
本格的な試験プログラムの開始
良好な試験結果
(1)高機動飛行テスト
(2)超音速巡航テスト
(3)大迎え角飛行特性
(4)ミサイル発射テスト
「素晴らしい機械である」
プロトタイプの通信簿
ロッキード共同事業体の勝利!
ロッキードチームのテスト詳細
敗れたノースロップYF-23A
性能はほとんど互角だった
第4章 量産期の製造始まる
減らされる生産機数
F-22の自動生産ラインの設置開始
F-22A開発年譜
F-22Aの生産機数
97~04年生産・納入計画
9機のEMD試験機
F-22の派生型
第5章 F-22Aの最先端テクノロジー
特別なレーダー反射断面積検査施設
多用される複合体
ダイヤモンド形の空気取り入れ口
モジュール式の胴体
コックピット内の各種ディスプレイ
操縦桿とスロットル
射出装置と生命維持装置
機体の始動と地上滑走
最新の操縦システム
複合材製の尾翼
強化された着陸装置
油圧システム
電気系統
搭載ミサイル
20mm機関砲
5000ポンドの爆弾搭載能力
次世代のミサイル警報システム
エアデータ・システム
機体管理システム(VMS)
統合機体サブシステム制御(IVSC)
YF-22Aの飛行試験計測
F-22Aの整備
YF-22AおよびF/A-22Aのスペックと性能
第6章 新型エンジンの開発
大きな推力重量比を持つF119
低観測性を重視のエンジン設計
F119エンジンの特徴
世界初の実用推力偏向ノズル
訳者あとがき 自衛隊時期戦闘機に最適か?
「ステルス」の本当の意味
パックマン型とボウタイ型
108対0という圧倒的な撃墜率
「世界最強」すぎて売れないジレンマ
【2007/11/30 メールマガジン「軍事情報」(本の紹介)より】