【第67講】スペイン語文法入門―兵法的外国語学習への誘い―(その45)

 今回は、皆が当たり前に来るもの、そうして、当たり前に乗り越えて行けると信じ、
いつも「死ぬ・滅ぶ・負ける」の方ではなく、「生きる・残る・勝つ」の方に”博打”
を打っている・・・というより”そう確かに信じて”いる「未来」に起こる事象を表現
する時制・・・即ち、「未来時制」について学習して行きましょう。

☆未来時制(futuro) 時制について
 「未来」と言えば、当たり前ですが、未だに来ない時間です。
 「将来」と言えば、当たり前ですが、将に来たらんとする時間、即ち、あなたが
「目視」できる時間帯・・・要するに必ず遭遇する事象が確実であることが保証されて
いる時間です。
 ここから、未来と将来・・・自ずと考え方、対処(構え方)などの仕方に違いが出て
くるものです。
 未来とは・・・未だに来ていない時間であるのですが、それ故に、「知ることができ
ない」ということです。だから・・・「事実」は、未だに誕生していません。そして、
それが「真実」であるのか・・・分かったものではありません。
 当たり前の話しですが、人とは、未来に事実が出来上がってしまっていると勘違いし
てから、そして考えて行動する・・・という面白い性質を持っている生き物でもありま
す。
 事実が確認できない以上、すべてが予感、予想、予測、予知といった”予”、あるい
は、可能、不可能を断言しないで、「推測」や「推量」といった”推”といった漢字に
代表される「意味」を意識してみてください。
 要するに・・・ですが、未だ来たらぬ時間のことは、「事実」に基づいてそこから
展開するのではなく・・・自分の心に基づいて、その気持ちを述べる・・・ことになっ
ています。よって、決めつけて言わないところが特徴になっているのです。
 ですから、全てに「予め・推測」する内容を含めて表現することになります。
 大きな特徴として自分が「想う」ことで未来の表現は成立するわけですから、本来、
時制というような時間軸の上で客観的に”ここの時点である”と指し示す働きが基準に
はなっていないところが一番の特徴です。煮詰めると・・・”可能性”になって来るの
で、一か八か、確立二分の一・・・とか、要するに「思い様、考え様」になっていま
す。
 未来時制は、むしろ「想」や「心」を伝える話しになりますので、要素としては、
スペイン語初級のラスト・メニューである”法”(モード→間もなく習います。印欧系
の人の思考を知るには大変興味深いテーマです)の概念が強いのです。時制というより
は法・・・これが未来時制の原則となっています。
 このような人が言語において有する興味深い点に着目すると・・・戦略とは未来を
踏まえて将来をあれこれとする訳なので、ここから、兵法的に言えば、「虚実」や「正
奇」、まさに「詭道」について思考し行動することのレベル向上が”謀れる”のです。
 しかし・・・なのですが・・・この未来のことを普通、人というものは、「確実化・
固定化・絶対化したがる」ものであり、そもそも本質がヴァーチャルなのにあたかもリ
アルであるが如く「断言」することを求めるものであります。
 何故なら、手探り・・・不知・・・とは、それが暗闇であるが故に起こっていること
でありますから、光で照らすことで何がどうなっているのかを知りたいのです。そうす
ることで頭や足を打ち付けたり、穴にはまりこんだり、余計な遠回りをしなくてもよく
なるからなのです。
 その根底にあるのは恐怖であり、恐怖は怒りを生み出す母体です。そして、怒りは
戦いでは戒めるべきことは、古今東西の名将、参謀に流れる通奏低音であります。
 未来をハッキリさせるために、レーダーがあったり、コンピュータがあったり、訓練
を積み重ねて鋭い直感を得たり、人は、がんばっています。
☆未来時制の発想について=日本語の場合
 先ずは、我を知る・・・ことから、日本語を確認しておきましょう。
 日本語では、未来と言ったら・・・「~ダロウ」という表現になると思っています。
これは、推測を述べる日本語動詞の活用の一つです。この推測を述べる表現を、外国語
の「未来形」の訳に準用しているのです。
 日本語には時制として未来がみあたらない・・・ということを確認しておきましょ
う。
 したがって過去にも推量=未来?の表現があります。即ち、「~シタダロウ」という
表現ですね。(これはスペイン語で過去未来という時制がありますので、後で習いま
す。)
☆未来時制の発想について=英語の場合
 では、次に英語を見ておきましょう。
 英語ではどうだったでしょうか?
 元々、ゲルマン語には動詞に未来形はありませんでした。現在形で十分だったので
す。
 ですからあまり歴史的なものではありません。
 英語では主に助動詞のwillを使います。
 willは、英和辞典(中型)をよくみると、助動詞の他に、名詞として「意志」という
意味もあります。willの本来の意味は、「~スルコトヲ意志スル」という動詞でした。
未来に向かって、「我ハ、~ヲ意志スル」という表現をしていたのです。
意志スル=”自分自ラソレヲ欲ス”という意味です。
例)I will win in the battle.
 上の例は、「私は戦いで勝つだろう」という意味もありますが、本義的には、「私は
(未だ来たらぬ時間において) 勝つことを意志する」=「勝ちたい」という根底的な意
味もあります。
 ドイツ語では’wollen'( ヴォレン 英語のwill) =「我は欲す」=意志と’sollen’
(ゾレン 英語のshall)=「汝為すべし」=義務的意志( 神の摂理に従い義務的に~する
べき) という二つの意志を表す助動詞が現在も使用されています。(英語と語形が似て
いることを確認しましょう。)
 英語の場合、純粋に未来時制だけの意味では、”動詞の活用語尾”はありません。
 もう一方のshallの方は、「~ねばならない」という意味です。
 要するに義務の意味なのですが、義務の概念そのものは、現在今ここでは出来るもの
ではありません。急に借金を全額返済しろといわれても全額返済は無理な話しになりま
す。”返さない”と”返せない”は根本が全く違うものです。
 ここから、”今”ではなく、これから来る時間=未来において遂行するということ
で、「未来」の概念が生まれてきたのです。義務には未来の意味が含められているので
す。
 故に、shallは、未来を表現するけれど”義務”を述べるものである・・・と中学校
や高校で言われているのです。
 この点を詳しく教えてくれる英語の先生はなかなかいらっしゃらない様子です。この
ような点に着目して英語教員の学術的レベル向上や人的レベル向上を目指しているのが
京都外国語大学校友会・教志会です。定例研究会も行われているので、英語教育(教
員、語学学校経営者・教師)に興味のある方はコンタクトをとってみてください。
 因みに、スペイン語の未来時制はこの義務=その時にはやり遂げてしまう=完了的な
発想=~ネバナラナイという言い回し...から発達して来たものです。
 スペイン語の未来形とは・・・これから下で観察して行きますが、案外、法の要素に
加えて相(アスペクト→ここでは”完了”)の要素が強いところから形成されていま
す。
☆スペイン語の未来形
 日本語では未来とは・・・推量を表す助動詞で以て、英語では、意志や義務を表す
助動詞で以て使用していました。
 では、スペイン語ではどうなのでしょうか?
 それは・・・”義務の概念”が基本となっています。そして、その中には、以前、
学習した相(アスペクト→完了)の要素が見られます。本来、未来を表す表現というも
のの本質は、未来を示す一時点までに、自分の行うべきことを完了して(済んでしまっ
て)いること=~スベシという義務の発想を基本としているのです。このような発想に
基づいているのがスペイン語の未来形です。
 要するに、スペイン語では、「未来」において「~スルコト」(=不定詞で表現。英
語ではto不定詞)を「持つ」(haber。英語では、haveが相当)の直説法現在と組み合わ
せて「~スベシ」(英語ではhave to~)という表現を行ったところが由来になってい
るのです。
 これが語順の移動、声に出したり書き記したりする際に時間の流れと共に経済を求め
て省略化されてしまい、遂には動詞の不定形の部分と融合し、未来時制の活用形態とな
りました。
 よってスペイン語の未来時制の活用は:
不定形 + ”haber”の直接法・現在
 ということになります。よって、法、時制、相、人称、数をモロに表していた”活用
語尾”による今までの活用パターンとは異なるものなのです。
未来形の活用)
hablar + he hablare     私は、話すだろう
  has hablaras    君は、話すだろう
  ha hablara    彼は、話すだろう
  hemos hablaremos   我々は、話すだろう
○habeis hablareis    君たちは、話すだろう
han hablaran    彼らは話すだろう
○注意)第二人称・複数のところは√hab-の部分が脱落しているだけです。
 歴史的な段階を並べると・・・荒っぽい例なのですが、以下のようなア)~ウ)の
順番の進展となります。和訳は、「君はリンゴを食べるだろう」です:
ア)Comer una manzana has. (動詞が文末→日本語のようですね)
(英語での強いての比較は: To eat an apple you have.)
イ)Comer has una manzana. (不定詞のすぐ後ろに置かれるようになって・・・)
(英語での強いての比較は: To eat you have an apple.)
ウ)Comeras una manzana. (遂に不定形と”融合”してしまいました)
(英語での強いての比較は: You have to eat an apple. )
 よって、動詞の語末のアクセント符号が一律に来るのは、活用中の動詞(haberの直
説法現在)であることを意味しているのです。
 未来形においては、-ar動詞も er動詞も-ir動詞も「全て同じ語尾」が来ます。
 ちなみに:
ex. comer comere comeras comera comeremos comereis comeran
vivir vivire viviras vivira viviremos vivireis viviran
では、次に具体的な例文を観察してみましょう:
ex. La proxima semana la tropa japonesa terminara el sitio de aquella
  fortaleza.
  (来週、日本の部隊は、あの要塞の包囲を終わっているであろう。)
という文は、来たる次の週(La proxima semana)=その時点までに、あの要塞を包囲
する(el sitio de aquella fortaleza)ことをやり終わってしまっているのだ
(terminara)という発想です。(日本語では推量の表現ですが)若干、日本語の訳しか
たに注意しましょう。
☆不規則と言われる未来形の活用
 未来形で・・・その動詞が不規則変化であると言われるものは、何も急激に特別な
活用形態がお出ましになる・・・訳ではありません。
 要するに、不定形にhaberの直説法現在を加えて「一語」にしてしまって発音する
場合、スペイン人がスペイン人なりに発音しやすいようにした結果である・・・と思っ
て下さい。では、次に見て行きましょう。その注意点としては:
(1)不定形の語尾(特に-er動詞)の中の母音を脱落させたり
(2)特定の子音を発音しやすいように付け加え(-d)たり、
(3)音節ごと脱落させたり(-ce-,-ci-が脱落)する
   (decirのみ√dec-の母音√dic-になるので注意!)
 以上、(1)~(3)の三つの代表例がみられるのです。(この中で、-ar動詞には
余り不規則動詞がありません)
 では、次に、パターン別に代表例を例示します:
        (1)母音脱落  (2)子音の添加  (3)音節の脱落
           saber  tener  decir
yo sabre tendre dire
tu sabras tendras diras
el ella Vd. sabra tendra dira
nosotros,-as sabremos tendremos diremos
vosotros,-as sabreis tendreis direis
ellos ellas Vds. sabra tendran diran
(1)saber型:poder(できる、してよい)、querer(欲する)、haber(持つ)
(2)tener型:venir(来る)、salir(外出する)、poner(置く)
(3)decir型:hacer(する)
 要するに、”語尾”の箇所だけは、全く例外がありません。
 不定形の部分のみに注意が必要なだけです。
☆未来形の用法( 代表的なもののみ)
ア)未来の行為に対する意志( ~スルツモリデアル)
ex.
Pasare esta noche con mi novia.
(今晩は彼女と共に過ごすつもりだ。)
El pr:oximo mes nos hospedaremos en en parador nacional .
(来月、私たちはパラドール・ナシオナルに宿泊するつもりだ。)
※パラドール・ナシオナルとは、歴史的建造物を政府が補助金を出して高級旅館に改装
したスペイン観光の”ウリ”になっている宿泊施設です。
イ)未来の行為に対する推測( ~ダロウ)
 ex.
La Fortuna te abandonara en esta enboscada.
(運命の女神は、この伏撃において汝を見捨てることであろう。)
Los que no luchan perderan sus vidas en esta batalla.
(戦わぬ者共は、このいくさにて命を落とすであろうぞ。)
ウ)未来に行われるべきことがらを表す(規定、規則、法律文等などで)
 ex.
  A partir del 16 de proximo mes el expres parara en la Estacion de Takatsuki.
(来月16日より、急行が高槻駅に停車することになります。)
Se decapitaran los que roban.
(盗みを働くものは、首をはねられることになる。)
これで、本年の講座は終了します。
では、あなたにとって来年が素晴らしい年になりますように!