【第64講】スペイン語文法入門―兵法的外国語学習への誘い―(その42)

(注:文中の疑問文冒頭にある「?」は正確には「?をさかさまにした文字」です
が、テキスト形式では変換できないため、「?」としています)
 前回は、分詞について学び、次いで「」を学びました。中学校や高校の英語
の授業では、「あのなあ~、過去で起こったことがず~っと現在にまで継続してるん
や。これが現在完了っていうんやで」と言うだけで、実際は、過去なのか?現在なの
か?先生に聞いてみたこともなかったし、何時までも訳の分からなかった現在完了の
正体が朧気ながらにつかめてきたと思います。

 今回は、この現在における動作の完結を表現する”現在完了”、そして、同じく現在
における動作の不完結=進行を表現する”現在進行”とは、「時」の中に含まれている
「間」を表現するものである・・・ことをより明確につかみ取って行きたいと思いま
す。
 相(アスペクト)は、法(モード)や時制(テンス)とは違って、原典講読などでは
意外に見落とされるところです。が、あなたが意識するポイントを増やして対処すれ
ば、それだけリテラシー面の向上が得られることとなります!
 では、今回の講座を始めましょう!
☆相(アスペクト)という概念について
 先ず、相の概念をハッキリ掴むために、現在完了のおさらいから入って行きたいと
思います。
 現在完了でお馴染みになった「完了」という概念については、一見、それが時制で
いう”過去”と全く同じ意味であるかのように捉えられがちですが・・・ここでハッキ
リとさせておきましょう。
 現在完了、過去完了、未来完了などと言った際に出てくる”~完了”の表現とは、
法(モード)(注)や時制(テンス)と同じ動詞カテゴリーの一つである「相」(アス
ペクト)というものが基本になっているのです。
(注:法とは・・・要するに動作の起こる世界を表します。即ち、三次元=現実(リア
ル)の世界なのか、脳内=仮想(ヴァーチャル)の世界なのか・・・それを活用語尾の
中で表現するものです。近い将来、接続法というのを学習しますので、お楽しみに!)
 要するに「完了」という概念は、現在なら現在、過去なら過去、未来なら未来の
“その時点”においての”間”を示すものです。が、それは話者の判断が:
ア)「行為が済んでいる」とするのか?
 行為が済んでいたら・・・完了といいます。
 日本語では、現在では~ル(~テイルに対して)、過去では~タ(~テイタに対し
て)が相当しています。和訳の際、現在時制の文章を訳す際に注意すると訳が上手にな
ります。
 要するに・・・「行為の持っているゴール=到達点」に”到達”することが念頭に
あります。
※日本語の未来時制は、~スルダロウ、~シテイルダロウ、そして、過去での未来と
いうような~シタダロウ、~シテイタダロウというのがあります。この”~ダロウ”と
いうのは、「推量を表す助動詞」です。
イ)「行為が済んでいない」とするのか?
 行為が済んでいなかったら・・・不完了といいます。
 日本語では、現在では~テイル(~ルに対して)、過去では~テイタ(~タに対し
て)が相当しています。
 要するに・・・「行為の持っているゴール=到達点への到達ではなく・・・その途中
にある経過と進行」が念頭にあります。
 日本語では、日常会話において、現在時制での「ル/テイル」、過去時制での
「タ/テイタ」の表現は、各自が自然に判別して使用しています。これを例えば、立場
を変えて、何故、適切に・・・例えば、「きつねうどんを食る」と「きつねうどんを
食べている」の区別が日本人は可能なのか?自問してみると面白いと思います。
 この行為について「済んだのか/済んでいないのか」という二者択一の考え方を二項
対立(二分法=デジタル思考)と言います。
 故に完了があれば、その裏には必ず不完了があり、不完了があれば、その裏には必ず
完了があり、両者は、表裏一体の関係を持っているところから、どちらか一方のみで
存在したり成立したりすることができません。
 この済んだか済んでいないのか?は、話者個人の判断で行っているのが普通なの
で・・・要するに、自分がどう思っているのか?ということなのです。このように同じ
時制(例=現在)の中で:
ア)一方は、済んだ(完了・例:見ル)
イ)他方は、済んでいない(不完了→継続・進行中・例:見テイル)
 という時の中の「間」の表現、即ち、日本語でいう「ル/テイル=見ル/見テイル」
式の表現のことを「相」(アスペクト)といって、法(モード)や時制(テンス)と
同じ動詞のカテゴリーの内の一つになっています。
 この相(アスペクト)とは、法や時制と違って、明確な形=活用語尾で出てくるのは
スペイン語の場合、過去時制だけです。しかし、各時制(過去・現在・未来)にある
「~完了」の表現や不完了のことを強調する「進行形」とか「いつも~する」等の表現
とは、実は、この相が中心となっているのです。
 よって・・・「現在完了」の正体とは時制の問題というよりは、実はこの相(アスペ
クト)の問題なのです。
 そして、相(アスペクト)は、必ず、「法-時制-相」の三位一体で使用されるのが
普通です。(あなたは、モード-テンス-アスペクトとカタカナで憶える方法もありま
す。)
☆二項対立の思考について
 右か左か?どちらを選ぶか?と聞かれてどうするでしょうか。右を選んだ場合には、
左が残ると考えるのが普通です。左を選べば右が残ります。
 では、どうして右と左を選択できるのでしょうか?
 答えとしては、真ん中があるからですが・・・その真ん中と言った時、次のことを
考えましょう。
 真ん中と言った時・・・右と左だけが選択肢ではなく、前後、上下で全て「六方」と
いうことになります。即ち、「我は正六面体の真ん中にいる」のです。
 ですから、もし右を選択した場合、左が残るのではなく、「右以外の全部」というこ
とになります。
 二者択一と言われた場合、多くは何方か一方に決めなければということに心が囚われ
てしまい、「そうしなければならない」、「それに従わねばならない」とすぐに考えて
しまいがちですが・・・そのような思考法は今この時点でキッパリと止めましょう!
 あなたを幸福にする思考法とは?次の考え方です!
 二者択一というのは・・・往々にして「平面」的な思考であり、「ねばならない」が
ついてまわります。即ち、「人に致されている・・・」状況なのです。反対に・・・こ
こで随所に主となり「人を致す」のなら・・・「真ん中」を考えるという「立体」的な
思考の選択もあるのだ・・・ということなのです。
 動詞の時制や相の問題は、このような考え方をベースにするようにしましょう。
スペイン語も兵法も同じであることが理解できてくれば、それだけシステム的な思考が
発達して来ていることです。
☆スペイン語の完了の表現について
 ここでは、スペイン語の現在時制における「完了」の表現、”現在完了”について
もう少し深く考えて行きましょう。復習にもなりますが、動詞haberは、この場合
にのみスペイン語では数少ない”助動詞”として使用されています。よって、複合して
表現されますので・・・過去分詞は、語尾を変化させる必要がなくなります。
 公 式)
 動詞haberの直説法現在 + 過去分詞(p.p.)
(純然たる助動詞の役割)   (この場合は不変化)
動詞haberの直説法現在の活用(思い出しましょう)
he
has
ha
hemos
habeis
han
 ・・・でしたね。現在完了という一つのまとまった概念を伝えるわけですから、発音
する際には、haberと過去分詞の間には一拍おかないで、一語のように発音してく
ださい。
 現在完了とは、現在時制(presente)という時の中で完了(perfecto)という間(=相)
を表現する方法と考えましょう。主になる動詞haber(持つ)の直説法現在形が使われ
ている点に意識を集めてみてください。
 このhaberの直後に過去分詞(p.p.)を付けるわけですが・・・過去分詞は、動詞の
動作が済んでいる状態=1~10まで通じて(per=through)やってしまったこと
(fecto=done)を表しています。
その「やってしまったこと」をhaber本義の「持つ」という意味を組み合わせると
「~にしてある(=済んでいる)状態を今持つ」という意味になります。
 故に現在完了というものは、全くの「過去」=「現在から切り離されたもの」ではな
く、常に「現在」の時点で「1カラ10マデのやってしまった行為がどうなのか?を
問題にするものです。
例)romper ”破壊する”を使って例文を見てみましょう。
ア)Yo rompi las barricadas.(私は、バリケードを壊した。)
→現在、バリケードは、対抗勢力によって再構築されているかもしれません。
イ)Yo he roto las barricadas.(私は、バリケードを壊してきた。)
→現在、バリケードは、壊れてしまっているので突入するチャンスです。
☆スペイン語の現在完了の用法:おさらい
1)完了:現在の時点で済んでいる「こと」が今ここに「ある」状態。一定の期間内で
     起こってある・いること
ex. Hemos comido “udon” ya.(私達は、もう、うどんを食べてあるよ。)
2)経験:「~した」ということ( 了んだこと) を話者が今持っている=経験となる。
ex. He estado en Polonia tres veces. (ポーランドに存在してしまったことを
  今持っています=そこにいたことがある=そこに行ったことがある→私は、
  ポーランドに三回行ったことがあります。)
3)結果:今、済んでいる状態を一つのこととしてとらえる。
ex. Ha llovido mucho esta semana.(今週、とても雨が降った。)
  →水たまりが散見・・・降った痕跡が今あることを意味します。
4)継続:今、現在にも行為が続いている。
ex. He estudiado italiano (私たちは、イタリア語を学び続けて来た。)
→~し始めたことを今持っているというのが元々の意味です。
5)その他の注意
 過去のことでも心情的にその余韻を現在に強く残し、なおかつ過去を引きずるような
心理的かつ情感的な理由が根底にある時、過去を表す語句(副詞、副詞句、副詞節)と
一緒に用いてもかまいません。
ex. Mi amigo se ha ahogado hace dos meses. (僕の友達は二ヶ月前に首を吊った)
→故人の思い出がなおありありと心の中で継続、反復され「今」の認識で表現してい
 る。
 再帰動詞の場合には、再帰代名詞の位置は、定形動詞の前におかれます。
ex. ?Te has duchado? (シャワーを浴びて来たのかい?)
– Si. Ya me he duchado. (うん。もう、浴びて来たよ。=身体はきれいな状態)
– No. Todavia no me he duchado. (いいや。まだ浴びて来ていないよ。)
 しつこく・・・現在完了をおさらいしています。英語では過去なのか現在なのか
ハッキリしなかった現在完了の表現について、本当に意味するところに慣れ親しんで
おいてください。この現在完了をしっかりとすることで、過去完了も未来完了も簡単に
理解できるようになります。さらに、二種類ある直説法の過去時制の理解にも大変
役立つものです。
 何よりも、印欧語の思考を理解すること・・・それが戦略、情報、地政学の分野を
構築して来た欧米系の人々の思考でもあるからです。