【第53講】スペイン語文法入門―兵法的外国語学習への誘い―(その31)

前回まで、ここしばらくのおさらいを簡単にまとめると・・・
英語でならbe動詞一つで済む(ドイツ語でもフランス語でも一つで済んでます)
ものをスペイン語では”ser”(Aは、Bです)と”estar”(Aは、Bの状態にある・い
る)を用いて、それぞれ、意味内容に従い、「完全分業制」にしていて、使い分
けをしているのだ・・・ということでした。
今回は、この”ser”と”estar”について、さらにしつこく”まとめ”をしておきま
しょう。

☆”ser”と”estar”のまとめ
先ずは、スペイン語がラテン語の時代は”ESSE”(料理など家事一般に関する女
性向けの雑誌の名前にもこの動詞が使われています(*))という動詞が丁度、
英語のbe動詞と同じく、「つなぎ動詞&状態動詞」であったのでした。
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しかし・・・ローマ帝国が崩壊し、古代の終焉と共に中世が始まりました。
当時のローマ帝国で話されていたラテン語、それは、現代のような「標準語」
(=その時の”政府が使う統治用の方言の一種”と考えても面白いでしょう)が
なく、話し言葉が主流=地域での方言が主流であったところから、ゲルマン人の
旧ローマ帝国侵入と旧ローマ帝国内でゲルマン系の王朝が相次いで誕生して、旧
領土がさらに分裂化すると同時に「その地域で話されていたラテン語の方言もさ
らに元のラテン語の姿形から離れて行き」始めたのでした。
このラテン語から派生した言語=ロマンス諸語が登場(よって、侵入して来たゲ
ルマン系の人々の話していたゲルマン語の発音や文法や語彙・・・の影響も受け
るので、分裂化の原因ともなるのですが・・・)して来ると、これまでのラテン
語のままでは行かない「表現」も登場することとなったのです。
その内の一つがこの”ESSE”でした。スペイン語(その仲間のポルトガル語も同
じく)一つの動詞だけでは済まなくなり、内容的に二つの動詞へと分業制になっ
たのでした。
実は、かつてはスペインのお隣で話されているフランス語もスペイン語のように
“ESSE”を元に完全分業になっていましたが、フランス(→フランク人の国の意
味)という国名を見ても分かるように元々ゲルマン系の人々が建国しているの
で、元々のゲルマン語の発想が原因となって、今では完全分業を止めて”etre”
(eの上に山形三角の記号がつく)に一本化されています。
では、ここで、”ser”と”estar”の語源を観察しておきましょう:
ア)”ser”の語源=ラテン語の”SEDERE”(座る)より→人が居すわって動かな
  い→座ることは長く座ることができる。(固定的)
イ)”estar”の語源=ラテン語の”STARE”(立つ)→人が足で立っている→動
  くことを前提→長くは立っていられない。(状態的)
あなたは、ここで「一本化して簡潔明瞭に済ませる」のか、それとも「目的別に
細分化して整理する」のか、「人のやること」にどちらが良い悪いは関係なく
思いを巡らせましょう。
“ser”と”estar”を以上のようにまとめた後で・・・
☆「存在の有無」と「事象の所在」の表現
今度は、”estar”のやっている「ある・いる」の表現で、「~ハある」と「~ガあ
る」の違いをみて行きたいと思います。
日本語には、「ハ」と「ガ」の違いがあります。
「~ガ」→事象を初めて話題に載せる際
「~ハ」→事象に関してすでに話し相手との間である程度の知識をすでに持って
     いる際
というような違いがありますね。
今回は、この「~ハある・いる」と「~ガある・いる」の違いについての表現を
掘り下げて学んで行きましょう。
☆”haber”:”~ガあります”の表現
“haber”(持つ)の直説法・現在・第三人称・単数の「特殊形=”hay”」を使っ
て、「~ガあります・~ガいます」という表現をします。
この”hay”とは:
hay = ha(He has) + i(=there)
から成りたっています。
☆”hay”の表現パターン(公式として覚えておきましょう)
  Hay + 不定冠詞(単数/複数) + 名詞(単数/複数)
         無冠詞
         数詞
         多くの、沢山の~
※訳し方)
例)Hay un libro.
(1)Hayは、置いておいて
(2)次の「不定冠詞+名詞」の後ろに”~ガ”と送り仮名を振り、最初に訳す
(3)次にHayの箇所を「あります」と訳す
以上の手順を踏めば、簡単に訳せます。
例)Hay un libro.
 (1)un libro が
 (2) hay   あります
  訳)一冊の本があります。
例)Hay una manzana.
 (1) una manzanaが  (ひとつのりんごが)
 (2) hay   あります。
  訳)ひとつのりんごがあります。
☆この表現の発想
天候の変化、四季の移ろい、太陽や地球の軌道の運行・・・などなど、人間が決
してできないことがあります。
この人間のできないことを「できるお方」がいるのだ・・・と感じる訳です!
構文上では、天か神か、はたまた万物の創造主かそれははっきりとは分かりませ
んせん・・・が、hay(he has there)の前には、主語として「三人称単数=
人間のできないことをできるお方」として考えられるものなのです。
後ろの名詞は、実は、~ヲという対格の位置に置かれています。
ここで、「人間のできないことをできるお方は、~ヲそこに持っていらっしゃい
ます」というところが本来のこの表現の原初的な感覚になります。
日本語に訳すときには、名詞を主語のように持ってきて、「~があります」とい
うように日本語に訳します。
hayの後ろの名詞には、通常、不定冠詞が来て、不定冠詞の機能である、未知
のものごとを話者に紹介するところから、”hay~”の文は、話者の間で初め
て接するものごとや発見したものを紹介する内容になります。
ということは、話者の間では、初めて接するテーマのことを云うのですから、
その存在の「有/無」について言及するものなのです。
☆”hay”と”estar”の表現の違いと訳し方のまとめ
A.「~がある」の言い方→ ”hay ~” 
 例) ここにお城があります。
   (現場で初めて目にする未知のもので、相手に紹介の形式を取っている)
   スペイン語でなら:Hay un castillo aqui..
B.「~は、○○にあります」の言い方→”estar”
 例)そのお城は、大阪市にあります。
   (その~→自分と相手の相互において既知で具体的)
   スペイン語でなら:El castillo esta aqui..
Aでは、もの・ことの「有無」を述べます。
普通、不定冠詞(un,unos,una,unas) が使われます。いわゆる一つの(または幾
らかの)~がありますよという新しいもの、即ち、未だに話者の概念において定
まっていない「もの・こと」を紹介しています。
Bでは、あるのは分かっているのですから、「所在」(在る所)を述べます。
すでに対象とする「もの・こと」が既にお互いに認識するところとなっているの
ものです。それ故に、「その」という定冠詞を使い、わざわざ名詞をハッキリと
特定化させています。ここでは、定冠詞が使われています。即ち、定まった「も
の・こと」を述べているのです。
英語の表現でもハとガの違い思い出してください。
~ガ→ There is a cup on the table.  (スペイン語では、”hay”に相当)
~ハ→ The cup is on the table. (スペイン語では、”estar”に相当)
英語のほうも同時にここでチェックしておいてください。
今日はここまで。
Hasta luego!
次回をお楽しみに。