【第50講】スペイン語文法入門―兵法的外国語学習への誘い―(その28)

(注:文中の疑問文冒頭にある「?」は正確には「?をさかさまにした文字」です
が、テキスト形式では変換できないため、「?」としています)
さあ!いよいよ今回から、あなたが英語の習い始めに覚えた”This is a pen.”
式の表現、即ち、「~は、・・・である」という表現や”I am here.”式の表
現、即ち、「~は、・・・にいる・ある」という表現をゆっくりと階段を踏み
上がりながら習って行きたいと思います。

英語で・・・ならば、この手の「~は、・・・である」とか「~は、・・・にい
る・ある」という表現は、普通、中学一年生になって間もなく、俗っぽく言えば
“ジャリ”の小学校を卒業して少しは”ガキ”になる中学に入学したのだ・・・
とほのかに実感することができた「英語の授業」でも、何かと分からないような
面白かったような恥ずかしかったような単語の”発音練習”に引き続いて・・・
ついに習う英語の表現らしい表現であったように記憶に残されている方々も多い
と思います。
しかし、スペイン語を本講座で習ってみると、スペイン語文法の最初は名詞につ
いての規則(カテゴリー)から始まり、「これはペンです」とか、「あなたは教
室にいます」というような表現は、開講以来、今まで長らくの間、「おあずけ」
の状態になっていました。
それは、何故だったのでしょうか?
単に著者の都合によったから・・・ではありません!
スペイン語では動詞のことを習う前に、先ずは名詞のこと、即ち、名詞のカテゴ
リー(性・数・格)および・・・名詞の仲間、即ち、名詞と同じカテゴリーを共
有する品詞である冠詞(定冠詞/不定冠詞)、形容詞、指示詞(指示形容詞、指
示代名詞)などを一旦マスターしなければ、「~は、・・・です」や「~は、
・・・にいる・ある」という文の構造を理解して表現につなげることが不可能に
なっているのです。
これは「原理と応用」の関係と同じです。
スペイン語という言語の構造を日本語や英語と比較してきちんと理解すること
で、会話したり、書いたり・・・ということが初めて「まともな水準で今後の展
開を可能とするレベルに向かって」進むことができるようになるのです。
あなたにとって、「スペイン語学習の今後の展開」となる”講読”、”会話”、
“作文”などが可能となるのは、名詞のカテゴリーをきちんとマスターしている
か、していないのか・・・で決まって来るのです。
※名詞と、名詞に関する品詞についての復習と確認は、バックナンバーの第9講
(*)以降を順次ご覧下さい!この際にプリントアウトしてファイリングすると
か「名前を付けて保存」してデータ化しておくことをオススメいたします!
(*)http://espania.okigunnji.com/2009/08/319.htm
スペイン語と英語と比較してみると興味深いのですが、英語は、名詞の”性”を
“退化”させてしまいました。(英文法との比較は、こちら(*)が詳しくまと
まっているので参考にしてみてください)
(*)http://www.eibunpou.net/
しかし、英語以外の印欧系の言語(スペイン語でもドイツ語でもロシア語でも)
は、全て名詞の”性”の区別が今でもとても意識されて実際に使われています。
(この名詞の性と関係している品詞が冠詞、指示詞、形容詞などです。)
ここでのスペイン語の学習を通じて・・・今まで意識して来なかったことや、
新たに「慣習の裏」(盲点や死角に相当するような当たり前のこと)を意識する
センスが板についてきます。
特に世界の切り取り方である言語に関し、今まで経験したこともないようなこと
を意識して理解しようとつとめ、実際に練習を兼ねて表現してみることは、とて
も効果的な戦略面、情報面、兵法面での脳のトレーニングになりましょう。
例えば、時制(テンス)と言ってみても、過去・現在・未来が当たり前と思う人
は多いでしょう。
しかし、現在の認識しか無い言語もあります。ひょっとして、ある特定の人にと
っては、同じ日本語を話していても、もっと複雑で一般人の思いもよらない時制
のシステムを持っている人もいるのかもしれません。「兵法」に求められるのは
このようなところなのです。
1)つなぎ動詞について
つなぎ動詞とは、英語の文型では「S(主語)+V(動詞)+C(補語)」にな
り、主語(S)は、※補語(C)とイコールの関係で捉えられる事柄を表現するた
めに使用される動詞のことです。要するに・・・「主語と補語をイコールでつな
ぐ動詞」のことなのです。
※補語(complemento)とは、主語の内容(質)などについて解説あるいは説明
してあげる言葉のことです。補語には、名詞(名詞句も含む)、それに形容詞
(形容詞句も含む)が来ます。
例)
櫻井翔君は、イケメンです。 → 櫻井翔=イケメン
仲間由紀恵さんは、美人です。→ 仲間由紀恵=美人
というようにA=B(AイコールB)の関係を表現します。
そして、「~さんは、・・・にいる・ある」という表現は、スペイン語では、
“estar”という動詞を使います。こちらは、”状態動詞”と呼ばれます。
この「状態」とは、一体何のことなのでしょうか?「状態」、それは、「変化」
を前提とする言葉です。今はそうであるけれども、時間が経つと変わってしまう
ものやことを表現するのです。
この状態動詞とは:
例-1)私は、ここにいます。(一定の時間が経つと”いなく”なります)
例-2)私は、疲れています。(今は疲れているけれども、休息したら元気に
なります)
例-3)私は、化粧美人だ。(元は美人ではないが化粧の力で今だけ美人になっ
ている)
以上のような、「A=B」の論理にかわりはないが「時間の経緯と比例して変化し
て行き、一時的にはこうなっているけれども、結局、今とは異なった事象となっ
てしまうこと」を述べる表現においては、本質的には固定・不変を述べるつなぎ
動詞である”ser”ではなく必ず”estar”が用いられています。
兵法的に表現すれば、戦略的(不変)な事柄には”ser”を戦術的(応変)な事
柄には”estar”を用いるというわけです。
英語では、”be動詞”が「~です」(=つなぎ動詞)も「~にある・いる」
(=状態動詞)も両方の機能を果たしています。この動詞の形が同じで機能が違
うところをあなたは、今までに何度も”クイズ”されていたのです。即ち、中
学、高校と英語科目の中で、中間テストとか期末テストとか模擬試験とか・・・
様々な「受験英語」でやらされてきたのです。
一方、「受験スペイン語」というものが存在しない日本では、次のことを覚えて
おいてください。それは、スペイン語では、つなぎ動詞と状態動詞で、それぞれ
異なった動詞を使い分けている・・・ということです。
では、先ず、スペイン語のつなぎ動詞の代表である”ser”について学んで行き
ましょう
2)”ser”について
「Aは、Bです」という場合に、英語では、be動詞がありました。この動詞
は、「○○ハ、~デス」という時の”A=B”を表す論理を述べるものです。
このタイプの”文型”は、英語で言えば、S+V+C(補語)に相当するもので
す。日本語でも、「○○ハ、~デス」と言う動詞は、”一般動詞”(飲む、打
つ、買う、殴る、蹴る、死ぬ、消える・・・など)とは性格が異なっています。
言語によっては、「A=B」という論理を述べる種類の動詞、即ち、つなぎ動詞
があるもの、そして、ないものがあります。
ちなみに「つなぎ動詞」は、印欧語の中でもスラヴ語に属するロシア語(ロシア
語文法は、こちら(*)を参考にしてください)ではみかけられませんし(冠詞
もありません)、また、つなぎ動詞の無い言語には、一般的には”助動詞”もあ
まり使用されるところがない・・・という点が指摘されることは興味深いもので
す。(かつて東西冷戦がありましたが、英語もロシア語も両者を比較すると印欧
語の中では、それぞれ特殊性の見られる言語であるのが面白いところです)
(*)http://tatu.lovelove.jp/russkiy/
3)”ser”の「直説法現在」の活用について
この動詞は、スペイン語の不規則動詞でも最も変化があるものですが、使われる
頻度がケタ違いに多いのですぐに覚えてしまう動詞でもあります。
では、活用をみてみましょう:
第一人称・単数   soy
第二人称・単数   eres
第三人称・単数   es
第一人称・複数   somos
第二人称・複数   sois
第三人称・複数   son
(語源的には、何故このような不規則変化になるのか説明が出来ますが、もう少
し勉強してからにしましょう。)
4)”ser”の用法
「○○ハ、~です」という「A=B」の論理が原則になっています。
AとBの両者の関係が、根っから替え様のない固定的かつ不変化的な内容があると
きに使用されます。
 例) Yo soy abogado. (私は、弁護士です。)
  “yo = abogado
この例は、職業や身分について表現しています。何故、つなぎ動詞の”ser”を
用いているのか?それは、ある程度の不変性が基本にあるからです。普通、今は
弁護士だけれども30分ぐらいたったら現役のヤクザになっている。そして、それ
から2時間したらSAT隊員(警察の特殊急襲部隊。参考サイト(*))をして、ま
た3時間たったら漫才師になっている・・・ということはありません。
ここは、A=Bという論理で以て職業・身分としての事象を表わしています。
(*)http://hanran.tripod.com/index.html
※注意-1
主語(A)は、即ち、名詞になります。ということは、名詞のカテゴリーである
「性と数」において補語(B)に相当する箇所が「性・数の一致」をする必要が
あります。
もしも、主語が女の人なら:
例) Yo soy abogada. (私は、女性弁護士です)
というように、abogadoではなくabogadaを使わなければなりません。
※注意-2
この場合、主格人称代名詞(特にyo)については、「動詞の活用している形」で
判明するので、言わなくても構いません。もし・・・言ったら、それは、「この
私がそうなんですよ」というような強調した感じになって来ます。
◯「公式」⇒”S(主語)”の性・数」=”C(補語)”の性・数
—————————–
■きょうのドリル
—————————–
(1)次の例文を参考にして、疑問文を作り、それに対して肯定文(Si)と否
定文(No)のパターン練習をしましょう。
― ?Es usted capitan? (あなたは船長ですか)
肯定文―Si, soy capitan. (はい、船長です。)
否定文―No, no soy capitan. Sino soy marinero.(いいえ、船長ではありませ
ん。そうではなくて船乗りです。(sino “そうでなくて”。前で言った否定文
をひっくり返します)
(2)上の例文のustedの部分をtuから順番に、el, ella, Carmen, Jose,
nosotros, vosotros, ustedes, ellos, ellas, Carmen y Joseと人称を変えて練
習しましょう。その際、主語が複数ならば・・・capitanesになることに注意し
てください。
ex. ?Son ustedes capitanes? Si, somos capitanes.
※この機会に「La Bamba」(*) の歌詞をご覧下さい。ラテン音楽のカラオケに
挑戦してみましょう!
(*)http://www.youtube.com/watch?v=NH9K5YTR2k4&feature=related
(3)上の例文のcapitanの部分を次の名詞と置き換えて練習してみましょう。
(複数形に注意)
comandante(指揮官)、cadete(士官候補生)、soldado(兵士)、oficial
(将校)、agente(工作員)、policia(警察官)、bombero(消防士)
今日はここまで。
Hasta luego!