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【第6講】日欧政治比較および軍事革命(MR)&革命的軍事改革(RMA)  (理論編)

time 2008/08/14

孫子塾副塾長・孫子塾関西支部長
同志社大学/京都外国語大学・スペイン語非常勤講師
米田 富彦
http://espania.okigunnji.com/2008/06/post-1.html
今回は、お盆休みに入り、時間も少し余裕があると思いますので、少し質量共
に増量したいと思います。大きく分けて二つの話題を提供させていただきまし
ょう。
第一に、16世紀当時のスペインと日本の政治に関する比較考察について、
第二に、スペインとは本質的にどんな国か...ということについてです。


スペイン...それは、フラメンコと闘牛、あるいはフランコとピカソのゲル
ニカなどというようなステレオタイプ(特に日本ではイデオロギーの混入した
ものが少なくありませんのでご注意ください)のものではなく...本当は、
スペインとは、世界の政治史、軍事史、戦略史、情報史などにおいて、また、
戦略、戦術、情報、兵站、地政学上において、”革命的事象”や”方法論的事
象”を深く刻み込み、いくつもの記念碑を打ち立てているのです。スペインと
は、要するに、軍事、戦略などの分野における”指針集”たるものを創り出し
た国に他なりません。
そして、それらの”指針集”は、後生に後発の組織、団体、個人が知識から知
恵を導き出すために参考とすることを可能とさせています。一般的には、スペ
インに対するステレオタイプ的なイメージが先行するので、普通にしていると
あまり見えないだけなのです。このような一つの「模範的な国」、それがスペ
インの持つ顔でもあるのです。読者の皆さんもこの講座を機会に、スペインそ
れにラテンアメリカについての認識を改め、何かの”宝探し”を始められるこ
とを期待しております。そうすると...もっと欧米世界がよく見えてくるか
らなのです。
(特に研究者や研究者を志す方々には、スペイン、ラテンアメリカの分野は未
開拓なところが多々あり、先行研究もなされていない領域も多いのでお勧めい
たします。)
このスペインは、覇権争奪のために政治・軍事・経済のトライアッドにおける
ハード面、ソフト面共に興味深い事例に溢れていますが、中でも欧州の覇者と
なった16世紀を代表するものに、その覇者たることを実現させた条件ともなっ
ている軍事における革命的事象を指摘することが可能です。無敵艦隊(アルマ
ーダ)や無敵陸軍(テルシオ)の本質も、所謂、当時の軍事においては革命で
あったのです。故に、”無敵”の称号と尊崇の言葉が出てくる訳なのです。
この理合いを理解するためにも、今回は、特に触れておきます。
では、前半に政治から見た日欧の比較を、後半からは、読者の皆さんが軍事、
戦略の”ネタ”で参考とするべき「軍事革命(Military Revolution)」、「革
命的軍事改革(Revolution in Military Affairs)」の基礎的概念および両者
の違い、そして、両面思考で以ての両者の応用について、その注意点などにつ
いて解説することといたします。
5.日欧政治比較および軍事革命(MR)&革命的軍事改革(RMA)(理論編)
(1)16世紀のスペインと日本の政治比較
スペインは、国家間レベルで、そして、日本は、封建領主(戦国大名)間レベ
ルで、マキアヴェッリが発想していた「レゾン・デタ」という概念に相当する
現実主義的な国益の優先、即ち、権力政治主体の”現実指向”がかなり鮮明に
なってきており、この点、政治において日本との興味深い同時代性(シンクロ
ニズム)が指摘可能となっています。現実主義的な国益の追求の反対の考えが
理想主義的な国益の損失ということです。例えば、その実現の裏付け条件を無
視して、頭脳の中で期待と願望から捻出されている(似非的な)平和の二文字
のみを金科玉条とする現在の日本などが指摘できましょう。
レゾン・デタ、これは、フランス語からの外来語です。ちなみに直訳で解釈す
ると、所謂、「国家の存在する理由(大和詞では、”くにのことはり”)」と
いう意味であり、翻訳すると「国是」と言う語に相当します。国家についての
不立文字・以心伝心・教外別伝がここにあるのです。
なお、欧州と日本の同時代性ですが、文化、美術面でもエル・エスコリアル宮
殿(マドリード郊外にある、所謂、王宮です。が、ハプスブルク系の王朝から
の歴代スペイン国王の祖廟・霊廟でもあり、修道院でもあり、古文書収蔵の図
書館でもある総合施設になっています)に見られる豪華絢爛な建築やその内装
と同時に、ここに居住したスペイン全盛期の国王フェリーペ二世の居室とは、
狭くも装飾を廃した質素そのものの一室でありました。これは、豊臣秀吉の聚
楽第や大坂城の豪華絢爛な建築や内装と当時、確立した茶の湯で用いる茶室の
質素さと比較(豪華対質素という矛盾が同時に存在することが興味深い)する
際、これもまた政治や社会・文化情勢などとの同時代性を見ることが可能です。
では、ここでレゾン・デタ、即ち、”国是”とは、どういうものなのか...
考えてみたいと思います。それは、戦略・情報・兵站の三拍子がしっかりと確
立していないとなかなか具体的に口に出して言えるものではありません。今の
日本の国是は?と問われると...どうでしょうか?具体的に言ってみると...
「とにかく近隣諸国とは、我が国は、一歩下がって、相手国との歩調を目的と
して、技術の無償差し出しと血税の贈与を手段として、とにかく合わせること
である」ということでしょうか。これでは、どこかの属国でもあるまいし、主
権国家とはほど遠い実情であると思います。が...このようなことを友好親
善とか、国交回復とか、過去の戦争責任や帝国主義の償いであるとか言いなが
ら、自ら進んでやってしまっているのが我々国民の血税で生活している(一部
の)立場と権限のある方々、即ち、政治家とか官僚とか、自らを”人間が完成
された優秀な選民”(本当は、我々国民の”公僕”にしか過ぎませんが...)
と思い込んでいる人々であり、同じ仲間の日本人と奉職先の日本という組織を
外国に売り飛ばして自分が生きている人々なのでありましょう。
“国是”...要するに、これは、”国”がしっかりしているのか、していな
いのか、即ち、それを管理運営するリーダー(国王・社長)を中心に、スタッ
フ(大臣・補佐役)とライン(国民・一般職員)のシステム的な調和が問題と
なって来るものです。
例えば、読者の皆さんには親しみやすい、会社を例にとって話しを進めましょう。
この国是をスケールダウンすると”社是”というのがあります(ちなみに、国
ではなく地方を意味する郡なら郡是となりますが、パンツやシャツでお世話に
なる “グンゼ”の社名由来はここからだそうです)。当該の企業において、
戦略と情報と兵站がしっかりしていないところ程、他人に標榜する社是の文言
とその意味が、現実行動とは食い違い、いろいろなところで問題を起こして、
そして崩壊していることは、読者の皆さんも昨今お騒がせの色々な事件でお気
づきのことでありましょう。
この社是ですが...国是と同じく面白いところがあります。それは、給与を
もらって生活を成り立たせる手段として会社に在籍しているだけで、社是など
どうでもよいと思っている社員がいたり、むしろ、社是とは、ほど遠い思考の
社員が重要な部署にそれこそ”もぐりこんで”存在していたりすることです。
これも平和な時にこそ許されるハッタリ人生の一つですが、強い組織とは、こ
のような”輩”を排除して、本当に組織の戦略に一体となれる人材を採用し働
かせることが必要なのは言うまでもありません。このことを正しく機能させて
いる組織は現在、日本に幾らあるというのでしょうか。これでは、ニートやフ
リーターも増えてしまって当然です。(現在、ニートやフリーターと言われる
方々が小林多喜二の『蟹工船』を読むのなら、むしろ、『孫子』や戦いについ
ての書物を読んで、本当の自分に潜んでいる本質を発見される方が人として生
まれたからには理にかなった思考と行動でありましょう。)
ちなみに、兵法の上では、戦国最強と言われる武田信玄の肖像に登場する武田
二十四将とは、みんなが御館様の意志する”国是”と一体となり、みんなが分
際を弁え、それぞれの部署で努力をすることが習慣となっていた故に、嘘つき
やハッタリをかます者は、自然と見破られ、組織には居ることが不可能であっ
たと言われています。これが全盛期の武田軍団であったのでした。
読者の皆さん、では、”国是”とは、何を意味するものであるというのでしょ
うか。それは、”覇権(ヘゲモニー)”を巡る魑魅魍魎的な”国際政治”の原
型を構成するもの...なのです。覇権を巡る国際政治...何となく高尚で
難しく聞こえますが、わかりやすく言えば、弱肉強食の世界でやる異種格闘技
の無差別的他流試合、即ち、「ルールなきルール、それがルールだ!」が常識
となっている世界で”命すること”なのです。読者の皆さん、今生きている世
界も(認めたくはないでしょうが)既にそうなっています。覇権を巡る国際政
治...四字熟語で表現し直すと”戦国時代”であり、この戦国時代を自らが
“エンジョイ生活するための基本”、それが国是の根底であり、そこからいろ
いろと展開して来るのです。
当時、欧州は、局地的な封建領主より、より強大な軍事力と経済力に裏打ちさ
れた政治力を対外的に振るう「国家」(組織のシステムの変化に注意!)が主
役になる時代であり、戦争もスケールが大きくなって来ていました。スペイン
がまさにその良い実例であります。しかし、日本では、戦争の規模はスペイン
などとシンクロナイズしているものの、スペインの侵攻目的となった地域とさ
ほど変わらないようなこと(イタリア半島のような状態)を日本列島の中で行
っていたのでした。
この当時の日本の欧州との出会い、即ち、裏に秘められた”国難”というよう
なところを本当に理解して、何とかしようとあれこれ考えていたスケールの大
きい国際派の戦国大名(大戦略を思考した政治・軍事・経済の総合人)が織田
信長、豊臣秀吉、徳川家康らの”天下人”と言われた方々でありましょう。
人気のある大河ドラマや歴史小説は、そもそも、現実ではなく、観念で作り出
されているものです。それらは、読者や視聴者に対して、悪い表現で言えば、
“シノギ”(商業)がベースとなって展開されています。また、同時に、事実
を科学する”史学”というものと、歴史小説の類やイデオロギー(反戦思想、
厭戦思想、特定政治思想など)を代弁するような”史観学”というものの「似
て非なるもの」の違いを見分ける必要があります。
戦国大名にしてみても、読者の皆さんは、先ずは、会社経営者などで、マスコ
ミなどによって時代の風雲児の好例として比較提示されている戦国大名につい
ても歴史的事実と脳内イメージを区別することに気がつかねばなりません。
即ち、時代小説を淵源とした定説や日本史の中でたかだか60数年しか続かなか
った「戦後日本時代(所謂、戦時ではなく平時である高度成長時代の常識を基
準にする時代)」という一つの時代に通用した常識で以て、日本史全体に価値
判断を加えることは、誠に脳にとって良くない傾向であると言えるのです。
読者の皆さんは、ここで扱っている戦国欧州、戦国日本という歴史の中から、
武闘的・危機管理的な「活きた頭脳の使い方」こそ学び、現在に活用せねばな
らないところにいる...まさしく過去との対話をしなければならないのです。
では、この国是(レゾン・デタ)を実践していたスペインの政治・軍事戦略を
観察し要約するといたしましょう。
それは...「コップの中の水を取り合う」が如き内戦状態を熱心に行ってい
る地域では、「敵の敵は味方」という原理原則に従い、”敵”の”敵対してい
る勢力”と相互支援・援助関係を結んで、侵攻時には弱小兵力の”弱者”から、
いつのまにやら、相対的力を逆転させ、強大兵力の”強者”である敵を最終的
に制圧するという「方程式」を有していること...これが特徴として指摘で
きるところです。その軍事戦略の根底とは、国を富ませ、さらなる発展を遂げ
るという政治戦略になります。
このような場合、まさしく「神仏は尊し、神仏は恃まず」(この文言の戦略的
思考とその本質については、メルマガ『孫子塾通信』に孫子塾塾長・佐野寿龍先生による詳しい解説がありますので是非ご覧くださ
い)という宮本武蔵の言葉ではありませんが、他人まかせにしないで自らが良
心(性善説)と良識(性悪説)を止揚し実践しなければなりません。そして、
戦略と同時進行させねばならない情報(インテリジェンス=正しく現実を認識
すること)については言うまでもありません。これも主体的に行動する自分が
あってこそなのです。
このように政治・軍事における多次元的で高度な戦略を駆使しているのがスペ
インであったのです。一方、日本の方は、未だにこのような”洋風”の戦略め
いたものの存在があったのかどうか...よくよく検証する必要がありましょ
う。意外と当時の戦国大名(天下人)の方が第二次大戦の戦争指導者よりも世
界的戦略眼を持っていたのかも...知れません。歴史にifはありませんが、
官僚軍人という試験秀才(所謂、学校秀才)ではなく、実戦たたき上げの武闘
秀才(これが本来のサムライですが)がレゾン・デタに忠実に大戦の国家指導
と戦争指導をしていたら...こう考えてみると、未だに真相究明がなされて
いない先の大戦での敗戦の責任は、どこにあるのかが分かって来るでしょう。
では、次に、当時のスペインのように覇権争奪を実現可能とする条件は何か...
それは、政治や外交の裏付けとなる軍事(相手を自発的あるいは強制的に納得
させる有形無形・直接間接両面の威力・実力という表現の方が理解し易いでし
ょう)であることは分かりきったことです。強力な政治・軍事戦略を成立させ
るための不可欠の要素とは、重なる勝負に勝利して行くことですが、その勝負
において孫子のいうように「勝ち易きに勝つ」ための条件とは、「軍事革命
(MR:Military Revolution)」、そして、「革命的軍事改革(RMA: Revolution
in Military Affairs)」という二つの事象なのであります。スペインは、覇権
奪取においてこのような軍事における革命事象を実現させ、敵対勢力を屈服さ
せて行きました。スペインのことをよりよく理解するためにも、これらの概念
について見て行くことにしたいと思います。
読者の皆さんは、この”革命”、”革命的”、”革命事象”というキーワード
の本質を見極めつつ(結構、辞書、辞典の語源を探求して、その思考を考える
と興味深いでしょう)、他分野(経営、市場開拓、人事管理など)にも如何に
応用が可能なのか...をじっくり考えながら読み進めて行ってください。
要するに...軍事において、”革命”とか言われることが実現出来れば、相
手の現存対抗力も”及ばざるもの”へと変わり果て、対抗策を練って繰り出す
までに潰れるか、こちらの分析と弱点の発見と具体的行動に時間がかかるもの
なのです。軍事での革命、それは、平穏な毎日に突然流行する新種の劇毒イン
フルエンザのようなもので、対抗しなければならないことは頭では分かってい
るけれども、適切なワクチンを創り出すことと、その効果的投与までに、対応
を誤ればかなりの被害者が出るのとよく似ています。
スペイン軍事史とは、このような軍事の革命的な事象がやった方でもやられた
方でも豊富であり、それぞれ興味深い点が見られるところがその特徴となって
いるのです。今回は、理論編である故、理屈っぽく聞こえるかもしれませんが、
しばしお付き合いください。
(2)軍事事象における革命とは何か
先ずは、軍事革命、次に革命的軍事改革(RMA)という二つの概念があります。
しかし、両者は、よく混同され易いものとなっています。よって、本当に軍事
において革命的な事柄とは、一体どういう事なのか...ということを理解し
易いように、解説を進めたいと思います。ここでの概念の整理は、読者の皆さ
んが、過去の事実から将に来たるべき問題を処理する方程式を抽出するための
方法論として、この現在において、仕入れておいていただきたいと思います。
1.「軍事革命」という概念について
「軍事革命」(”Military Revolution”)とは、”軍事事象における変革”
を歴史の流れの中で体系的に認識して、他の分野(政治や経済など)をも含め
た”総合的”な考察から、軍事における変革そのものの構造を捉え直す「学
(サイエンス)」としての性格を有するものになっています。
普遍的な革命事象を観察する訳ですから、人なら誰でも通用する点を探求する
こと重要となります。よって、原理に相当し、「革命的軍事改革(RMA)」の淵
源となるのです。
この「軍事革命」の方は、国家(あるいは共同体)がその組織的構造として有
する”政治・軍事・経済”のトライアッドの内で生起するものになっています。
読者の皆さん、このトライアッドを構成する”軍事”について、今一度、ここ
でご注目ください。ここでは、”軍事”とは、敵対勢力との闘争において画期
的・革新的な対抗力、対抗策を構築し実施するということです。ここから、
「軍事革命」とは、軍事でのエポック・メイキングな事象であって、新しいハ
ードとソフトから生じる敵との”格差”あるいは”非対称”から生じる優越性
・不可抗性を敵に強制して屈服させ、圧倒的な勝利(敵の再起が難しくなるこ
と)を獲得し、事後(戦争・紛争で勝利をした後)の”国家(共同体)間での
覇権奪取”を決定付けて来た事象である...ということです。
「軍事革命」とは、上記のようなことを歴史的、即ち、通時的(diachronic)
なアプローチによる考察を通じ、軍事における革命性に関して潜んでいる
“普遍性”を抽出し言語化して行くというものであり、所謂、静的な性格を
有するものとなっています。要するに、歴史から人の有する方程式を抽出する
(このためには研究=学ばねばなりません)ことになりますが、何が革命なの
か...それを見い出さなければなりません。
「軍事革命」の特徴としては、政治・軍事・経済のトライアッドの中の問題で
ある故、軍事のみならず、政治・経済との連関についても同時に考慮しなけれ
ばなりません。よって、”総合的”な観察と理解が求められるのです。このよ
うなところから、「軍事革命」とは、軍事以外の構成要素である”社会的・政
治的・経済的”な変革により遂行されるものである...という意見もあるの
です。
2.「革命的軍事改革(RMA)」という概念について
「革命的軍事改革(”Revolution in Military Affairs”: RMA)」とは、
“軍事事象における変革”を特定の時代に限定、即ち、共時的(synchronic)な
アプローチにより観察し、その革命性に関して顕著に現れる”特殊性”に注目
します。そして、さらに「革命性」そのものを応用・実践して行く「術(アー
ト)」としての性格を有するものになっています。
特殊的な革命事象、即ち、特定の時代、場所、組織が取る具体例を探求する点
が重要となります。「軍事革命」の個別的な応用となります。
故に、この「革命的軍事改革(RMA)」とは、焦点を軍事に限定して捉えたも
のであり、即ち、政治組織や社会組織ではない”軍事組織”によって導かれる
変革において生起する問題を扱うのです(よって、政治・軍事・経済のトライ
アッドで見るのではなく、軍事のみに限定して見ることになります)。
「革命的軍事改革(RMA)」の特徴とは、要するに、「軍事革命」を共時的にア
プローチすることであり、故に、その考察から導きだされる現在あるいは未来
に行われる戦いにおいて革新的な対抗力、対抗策を醸成・構築し、その応用・
実践を求めるというものです。
これは、従来・既存の軍事事象を「正(プロテーゼ)」と考えれば、これに対
して、「反(アンチテーゼ)」として現れるところから、”弁証法的な性格”
を有しているもので、戦いの場では、その”止揚”(ジュンテーゼ)がなされ
ることになってきます。しかし...一旦、実践されると敵も新たな対抗力、
対抗策を練ったり講じて来たりするので、次のレベルの”止揚”へ向けてさら
なる発展が求められ、進歩を遂げて行くところから「革命的軍事改革(RMA)」
とは、動的な、そして、らせん的な性格を持つものとなっているのです。
3.「革命的軍事改革(RMA)」の用語について
「革命的軍事改革(”Revolution in Military Affairs”:RMA)」とは、単に
“RMA”(アール・エム・エー)と呼ばれたりします。が、この”RMA”につい
て、日本語への訳語は幾つか存在しています。ここで使用している「革命的軍
事改革」という訳語は、西洋軍事史家(元防衛大学教授)の今村伸哉氏が、マ
クレガー・ノックス、ウィリアムソン・マーレー著、今村伸哉訳『軍事革命と
RMAの戦略史-軍事革命の史的変遷1300~2050年』(芙蓉書房出版、2004年)
の中で翻訳されたものです。また、今村伸哉氏が監修した『歴史群像グラフィ
ック戦史シリーズ : 戦略・戦術・兵器辞典(3) (ヨーロッパ近代編)』(学研、
1995年)にも、軍事に関する革命的事象について豊富な写真資料や図版、それ
に監修者による詳細でわかりやすい解説が付されており、現在の軍事(特に編
制、兵種、兵器、兵站など)や戦略の基礎を醸成した「スペイン軍事史」をも
っと知りたい方にお勧めします。
ところで...日本においてのスペイン史の研究では、スペインが軍事史の上
で果たした功績がかなりのものであるにも関わらず、欧米と比べてスペイン軍
事史に関する目立った文献はありません。しかし、お勧めなのは、ジェフリ・
パーカー著、大久保桂子訳『長篠合戦の世界史―ヨーロッパ軍事革命の衝撃15
00~1800年』(同文館出版、1995年)です。本書は、当時のスペインの軍事に
ついての詳しい解説がありますので、参考になさってください。また、「スペ
イン軍事史」、「軍事革命」、「革命的軍事改革(RMA)」に興味のある方は
Geoffrey Parker(軍事史家でスペイン軍事史の専門家です)の原書(英語)
をあたってみることをお勧めいたします。本当は、読者の皆さんにもスペイン
語を学んでいただきたいところですが、今は、英語の方が便利でありましょう。
では、この「革命的軍事改革(RMA)」という用語の由来を、上述の今村伸哉
氏の著作に基づいて解説して行きたいと思います。それは、次のような二つの
主な概念系統に分かれます:
1. 主に”歴史学(西洋史)”の分野で、16世紀の欧州で軍事技術の変革
  から始まる軍事事象における革命的な出来事=「軍事革命(”military
  revolution”)についての議論から由来するもの
2. 冷戦の中、旧ソ連軍部が主張した核兵器の出現による戦争の革命的変
  化に伴って、米国への対抗策の研究から生み出された概念から由来す
  るもの
以上の二つの概念系統を基礎として、米国がそれら研究の中心となり、発展・
応用させたもの(詳しくは、塚本勝也著「RMA概念の形成とその意義」、
『年報戦略研究』第1号、芙蓉書房出版、2003年をご覧ください)であり、現
在でも、新たなる「軍事事象における革命」について、模索・研究・実践・検
討が行われています。このことは、例えば、読者の皆さんには、先のイラク戦
争でのITの活用やハイテク兵器の登場と使用に記憶が新しいと思います。
元々、RMA(“Revolution in Military Affairs”)という概念そのものは、旧
ソ連での軍事研究において、ロシア語”revoliutsiia v voenom dele”(戦争
の事柄における革命という意味)から英訳された”カルク”です。カルクとは、
翻訳借入語のことで、これは、新語創造法の一つです。外国語を自国語に翻訳
して、自国語の語彙に取り入れることなのです。本来からの発想が自国語にな
かった場合に行われるのです。この時、もし、翻訳能力が及ばない場合、外国
語をそのまま自国語の発音に合わせて取り入れることになります。明治期には
日本語にも多くの翻訳借入語がドイツ語などから漢字熟語で作られました。
が、現在は、パソコン用語など、ほとんどがカタカナ外来語になっています。
それだけ知恵を働かせることをしなくなっているのです)です。
(3)「軍事革命」と「革命的軍事改革(RMA)」の関係
「軍事革命」と「革命的軍事改革(RMA)」の両者を簡潔にまとめると:
ア)「軍事革命」=史的観察からの方程式の抽出(diachronicな原理追求)
イ)「革命的軍事改革(RMA)」=上記の方程式の使用(synchronicな応変追求)
しかし...軍事事象における革命性の本質を考察する上では、上記のどちら
にも偏らず、両面思考こそが求められるべきで、お互いを切り離して考えるべ
きものではありません。この両面思考がここでのコツであるのです。要するに、
「軍事革命」から「革命的軍事改革(RMA)」が抽出される訳であり、「革命
的軍事改革(RMA)」あればこそ、「軍事革命」が歴史に残されてゆく訳なの
です。「軍事革命」なくして、「革命的軍事改革(RMA)」なく、「革命的軍
事改革(RMA)」なくして、「軍事革命」なし...両者は渾然一体と弁える
べし!なのです。「軍事革命」にせよ、「革命的軍事改革(RMA)」にせよ、
読者の皆さんにとっては、絶えず、”仕掛ける側”に立っての積極的かつ主体
的な思考が求められるのです。よって、過去の歴史から未来を算出する現在が
生きてくる訳なのです。
次回は、スペインの具体例(実践編)について観察し、ここから、非対称戦
(ゲリラ戦)との関連性にまで言及してみたいと思います。
(つづく)

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