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【第3講】16世紀スペインの軍事と当時の日本情勢

孫子塾副塾長・孫子塾関西支部長
同志社大学/京都外大・スペイン語非常勤講師
米田 富彦
前回は、16世紀のスペインの時代的な背景を見て来ましたが、今回は、ス
ペインの軍事、それに当時の日本の情勢について見て行きたいと思います。


2.16世紀スペインの軍事力
覇権抗争上、敵への対抗能力となる「軍事」の育成は、国家運営にとって必要
不可欠なことです。これは、日常生活における個人レベルにおいても、やはり、
他者に対して何らかの対抗力(有形無形のもの)があるのかないのか...で、
要するに、「ナメられる」、「ナメられない」というような些細で卑近なこと
がキッカケとなって、学校や会社で一目おかれたり、異性と出会ったり、昇進
したり、はたまたイジメにあったりしている訳です。
軍事がないとナメられて外交でいくら頑張ってもどうにもならないものですが、
16世紀のスペインは軍事においても他に抜き出ていたのでした。
スペインは、こと軍事においては、欧州や地中海などの周辺地域に限らない地
球的規模での作戦域を展開し、思想・信条・宗教・人種・体制・文化などの異
なる複数の敵を常に同時に対処する戦争を行っていました。
恐らく史上初の「非線形的問題処理」の性格を有する大規模軍事行動を自在に
操作・実践できた「国家」であったのです。ここでは、次に地政学的観点から
スペインを概観しておきたいと思います。
この欧州西端の半島国家は、欧州大陸へのアクセス、及び地中海(アフリカ、
トルコ)と大西洋(新大陸)へのアクセスを同時に可能とする地理的環境・条
件を下部構造として、半島中央部の旧カスティリア王国の有していた大陸国家
(陸軍国)的な性格と、沿岸部に面し伝統的に地中海世界と関係深い旧アラゴ
ン王国の有していた海洋国家(海軍国)的な性格との”統合”を上部構造とし
て、この上・下構造の調和が国家戦略的に有利に作用したこと、及び、政治-
軍事-経済の “トライアッド”において、一時期において、人材的には”逸
材”が輩出し、国家戦略に対しての相乗効果を発揮していたことが特筆される
のです。
スペインは、一度、没落の憂き目を経験しましたが、現在でも立地条件はその
ままですし、歴史的経緯から、イスラム諸国との関係は、他のヨーロッパの国
々とは異なったものがあります。そして、かつての”偉業”からイスパノアメ
リカ(「スペイン系アメリカ」)と言う名称があるようにスペイン語、ラテン
気質・文化を共有する国々が約20カ国もあるのです。
特に米国など、日本にいるだけでは、スペインとは無関係の国であるような感
じしかしませんが、歴史的経緯から西海岸は、サン・フランシスコ、ロス・ア
ンジェルス、カリフォルニア、ネバダ、テキサスなどスペイン語の地名が多く、
旧スペイン領からメキシコ領、そして米国領となったものですし、人口構成も
西部はスペイン人と現地人との混血が多いものです。また、米国内不法滞在の
スペイン語話者は、全米にいたるところに約600万人以上もいます。そして、
海洋戦略のマハンの著作を読んでいると、西海岸上陸作戦(山脈地帯があって
侵攻しにくい)というよりは、カリブ海(ここもスペイン語圏です)からフロ
リダ(旧スペイン領)を拠点に、南部を南北戦争の北軍の逆進ルートで侵攻し、
東部に上陸作戦をかけられてはたまらないのではなかろうかと思うことであり
ましょう。パナマ運河もあって、米国の国家戦略にとっては、特に安全保障な
り、ロジスティックスなりを考えると、スペイン系世界は、本当は切っても切
れない関係なのです。
ちなみに、米国の学校教育で教えられているスペイン語は、スペイン本国のス
ペイン語ではなく、ラテンアメリカで話されているスペイン語になっています。
本国と旧植民地とでは、さほど大差はありませんが、興味深い事実と思います。
これは、大型書店の洋書コーナーに米国製の語学図書が並んでいますので、
“LANGUAGE”のところで”SPANISH”と書いてある語学書を見るとその殆どが
スペイン本国のスペイン語ではないものばかりです。
ちなみに、語学ですが、言語によっては、旧宗主国、旧植民地というような歴
史から鑑みて、本国の言葉を学んだ方が無難な場合もあります。シチュエーシ
ョンによっては、対人的な効果が上がったり下がったりするので、覚えておい
てください。
スペインは、大航海時代のパイオニアとして、また、無敵艦隊のあった国とし
て、”海洋国家スペイン”のイメージばかりが先走るものです。が、本来、海
洋国家とは、海洋を隔てた対岸での覇権というものを志向するのであって、そ
こには強力な陸戦能力が必要不可欠となります。
このようなことは、要するに、自国の海外権益や商圏が拡大することですから、
海外権益や商圏の拡大とは正比例して、当然、それに伴うシーレーンの保障の
問題も起きて来るものなのです。戦略とは、兵站とシステムになっています。
これは、海洋戦略で有名なアルフレッド・セイヤー・マハンの著作をご覧にな
っていただきたいと思います。日本も特に南極資源の確保やラテンアメリカの
国々との交易が国家的な兵站維持の問題(所謂、ストラテジーとロジスティク
スの相関性の問題となってきます)になれば、日本は、今は近海に納まってい
ますが、太平洋やインド洋などの外洋に出て行く「海の時代」を新たに迎える
ことになりましょう。
イサベル女王とフェルナンド王が亡くなると、王女フアナの嫁ぎ先がハプスブ
ルク系の家柄であったことから、この両王の孫にあたる人物が次のスペイン国
王となりました。この孫こそスペイン国王として即位したカルロス1世(神聖
ローマ帝国のカール5世)です。この時代の”ハプスブルク系スペイン”では、
保有領土が欧州中央(神聖ローマ帝国・フランドル・オーストリア・イタリア
・ボヘミア等)にも拡大し、また、欧州流の戦争方法が極めて効果的に発揮さ
れたアメリカ大陸もその大半が領土となっていましたが、戦いにおいては、オ
スマン・トルコを相手とした地中海覇権を巡る海戦のみならず、イタリア半島
やドイツなどにおいて陸戦も展開されていました。
この時代、スペイン海軍は、”アルマーダ(装甲されたという意味)”という
呼称が、スペイン陸軍は、”テルシオ(三分の一の意味。設立は、イエズス会
創立と同じ1534年)”という呼称が「代名詞」となり、最近の日本でも歴史に
興味のある方々の中で定着を見せています。
結果的に16世紀のスペインは、海洋国家・大陸国家の両面を兼ね備える、今で
いうならば、アメリカ合衆国のような大国となっていたのでした。
では、次に、スペインを見た後で、当時の日本を見て行きたいと思います。
(つづく)

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