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別宮暖朗:「坂の上の雲」では分からない 日露戦争陸戦 -児玉源太郎は名参謀ではなかった-

time 2009/11/26


『「坂の上の雲」では分からない 日露戦争陸戦 -児玉源太郎は名参謀ではなかった-  』
著者:別宮暖朗
発行:並木書房
発行日 2008/10/5
http://tinyurl.com/yjdtr3w
「坂の上の雲」が放映されるそうです。


そんな今だからこそ、絶好の読みどきです。
■この本
この本で一番目を引くのは、表紙です。
表表紙には、前線で任務に当たる野戦砲兵3聯隊の砲撃の模様が、裏表紙には、大山巌大将以下、満洲軍総司令部要員の写真が、それぞれ掲載されています。
表紙を開いた次の題字ページでは赤字に白抜き文字の「児玉源太郎は名参謀ではなかった」という文字が目に飛び込んできます。
いったいどんな見解が書かれているのだろう・・・
どれほど激しくかかれているのだろう・・・・
緊張感と、ワクワク感が高まります。
読む前はそれほど気に止まらなかった表紙写真ですが、読み終えた今、その意味するところは、はっきりつかめます。
■著者は誰かといえば・・・
歴史評論家で、軍事分野でも積極的に言論活動を展開されている別宮暖朗さんです。
著者紹介からご経歴を引用します。
<別宮暖朗(べつみや・だんろう)
1948年生まれ。東京大学経済学部卒業。西洋経済史専攻。その後信託銀行に入社、マクロ経済などの調査・企画を担当。退社後ロンドンにある証券企画調査会社のパートナー。歴史評論家。
ホームページ『第一次大戦』( http://ww1.m78.com/ )を主宰するほか『ゲーム・ジャーナル』(シミュレーション・ジャーナル社)に執筆。著書に『中国、この困った隣人』(PHP研究所)、『戦争の正しい始め方、終わり方(共著)』『「坂の上の雲」では分からない旅順攻防戦』『「坂の上の雲」では分からない日本海海戦』『軍事のイロハ』『韓国の妄言』『失敗の中国近代史』『太平洋戦争はなぜ負けたか』(いずれも並木書房)『誰が太平洋戦争を始めたのか』(ちくま書房)がある。>
ひとことでいえば、余人をもって変えがたいユニークかつ確固たる視点から軍事問題や近現代史を評論する、わが国防・軍事論壇には欠かせない人物のおひとりといえましょう。
■本著は
本著をひとことで言えば「司馬史観を通じて日露戦争陸戦を理解把握するのは妥当ではない」という注意喚起の書です。
ここで普通思うのが、本著を、司馬さんの作品が暗示的に示す「前線はダメダメだったが、中央エリートの質が良かったから勝てた」とする見方を真っ向から批判する書と捉えることです。
確かにそのとおりで、それでもいいのかもしれませんが、
別宮さんがほんとうに言わんとしているのは、もうひとつ奥にある、司馬史観が持つ目には見えない真の核心
「わが国に古来からある武士的なるものへの嫌悪感・蔑視」
それに伴い生まれた、
「中央エリートによる統制や階級闘争史観への共感」
への批判ではなかろうか、と思えてなりません。
本著のキモは「古来から引き継がれてきた、目に見えないわが貴い価値観」を擁護するところにある。私はそう感じます。
著者紹介をご覧になればわかるとおり、別宮さんはこれまで、旅順の攻防戦、日本海海戦に関して同様のテーマの本を出されています。
■日露戦役
日露戦役のわが勝利は、江戸の資産だった「武士」の勝利である。
明治という時代が生んだものではない。
むかしから私はそう感じていました。
日露戦役で主役を演じたのは、武家の矜持を受け継いだ武士たちでした。
軍で受けた教育よりも、武家の子として受けた教育のほうが体内に濃厚に残っていた方々です。
名が知られる部隊指揮官も、梅澤旅団の梅澤道治少将、立見尚文中将、黒木大将、秋山好古少将、小川又次中将、一戸兵衛少将、奥大将、乃木大将・・・いずれも実に戦場で有能、「戦の匂いを感じて動く」というタイプの方です。
別宮さんは本著で、日露陸戦の勝利を決定付けたのは、満洲における陸戦勝利である。
満洲の地でわが帝国陸軍は陸戦に勝利した。
野戦指揮官・将兵は有能だったが、作戦立案部門は無能であった。
との持論を展開します。
戦は野戦部隊だけがやるものではありません。
しかし戦の帰趨を決する潮時を決めるのが「野戦での成果」であることもまた事実です。
それを過小評価し、戦争の歴史すべてを政治的観点から理解し判断する姿勢は歴史の書き換え、読み誤りにつながり、後世に生きるものに必要な養分を吸収することにつながらない、と私も感じますね。
読み終えて強く感じるのは、これだけではありません。
■3部作
何度も読み返したいま感じるのは、「これまでの二冊とあわせ読むといいな」ということです。
『「坂の上の雲」では分からない旅順攻防戦』
『「坂の上の雲」では分からない日本海海戦』
その理由は、3冊をあわせ読むことで「養分を摂取しやすい有機性」が飛躍的に増すからです。
それにより、日露戦に関し「もうひとつの歴史視座」を得られるからです。
これらの作品には、別宮さんと日露戦役の間にある種々の距離感、緊張感を味わえるエキサイティングさがあります。
ある意味、この3部作は「壮大な日露戦役叙事詩」といってよいかもしれません。
別宮さんと日露戦役の主人公達が、あるときは絡み合い、あるときは支えあい、あるときは距離を保ってにらみあっています。現地の息遣いが聞こえてきそうな場面も多々あります。
調査のお仕事をされていたからでしょうか、その記述は詳細を極めます。
それでいながら読み物として楽しめます。
おそらく海外では、この種の読み物は広く受け入れられるだろうと存じます。
もしかしたら国内よりも、海外での受けがいいかもしれませんね。
もうひとつお伝えしたいことがあります・・・
■姿勢と覚悟
以前も書いたかと存じますが、別宮さんの著作は、どちらかといえばアクの強いほうに分類されると思います。
内容についても、種々の批判があるだろうなと思います、
でも思うんです。
自称専門家は「冷静かつ科学的に・・・自らを第三者の立場において・・・正確な・・云々」とよくいいます。
けれどもそんなへっぴり腰で、近現代史のわが誇りを取り戻すことができるのでしょうか?私はできないと思います。逃げ口上しか出てこないのがオチでしょう。
そんな世界に身を置いておられないから、という面もありましょうが、別宮さんの姿勢はそれとは対極にあります。
私がこの方の書を通じてもっとも感銘を受けるのは、著作を通じて感じとれるその姿勢・覚悟です。
あなたに本著を通じていちばん会得して欲しいのは、この姿勢です。
幸いなことに、読めば会得できます。
本というのは本当に安い。あらためてそう思います。
■あまりに画一的ないまこそ
別宮さんの見方に賛成しろ。
などとはまったく思いません。
しかしメディアや出版物を通じて世に伝えられている日露戦争の姿はあまりに一方的かつ一面的に過ぎると思います。
戦や歴史が、そんな薄っぺらな見方で把握できるものとはとても思えません。
以前もどこかで書きましたが、つくり手側はこういう歴史ドラマを、ひとつの商品として今の時代に売れやすいようにつくるものです。これは無理ありません。
しかし問題は、受け手側が、見たものを「歴史を舞台にしたフィクションだな。結構楽しめたよ」でなく「歴史の事実」として大真面目に受け入れてしまっていることです。
残念ならこのギャップを埋めるには、見る側がギャップに気づくことしか方法はありません。
本著(というよりはこの3部作と言ったほうがいいかもしれません)は、日露戦役、ひいてはわが現代史を多面的に見るクセをつけてくれる貴重な出版物です。
要するに、日露戦争ひいてはわが現代史を、『坂の上の雲』だけで把握せざるをえない現状に物足りない方、疑問を持つ方すべての思いに応える「別宮版 日露戦3部作」が、ついに今、私たちの前に提示されたということです。
言論の自由がもたらした果実を、真の意味で体験・理解したい方は、ぜひ本著を手にとってください。
最後に、最も印象に残った文を紹介します。
<乃木をはじめとする将軍の多くは勉強家である反面、性格に頑なな所があった。決心にしても、他人に十分に説明できず、議論に弱かった。後代のインテリに好かれなかったのは当然であろう。それでも彼らこそが典型的日本人ではなかったか>(P222)
<日本軍兵士は、世界のどの列強の軍隊と比較しても長距離の行軍に耐え、いかなる粗食にも甘んじ、数倍する敵に直面しても後ろを見せなかった。戦場にいた指揮官も、参謀本部あるいは総司令部の実際を見ない、独りよがりの作戦計画を、現場の実情にあわせて修正、また独断専行し、自ら戦機をつかみ、全軍を勝利に導いた。
満洲軍が満洲で大勝利した軌跡は、現代日本においても非常に示唆に富むものである。>(P226)
別宮さんの代表作といえる作品集
日露戦役叙事詩
『「坂の上の雲」ではわからない』シリーズ。
本著は、その締めといえる記念すべき作品と思います。
自称公共放送局で「坂の上の雲」が放映されます。
そんな今だからこそ、絶好の読みどきです。
「オススメします」
今回ご紹介したのは、
『「坂の上の雲」では分からない 日露戦争陸戦 -児玉源太郎は名参謀ではなかった-  』
著者:別宮暖朗
発行:並木書房
発行日 2008/10/5
http://tinyurl.com/yjdtr3w
でした
(エンリケ航海王子)
目次
第1章 海主陸従で始まった日露戦争
ロシア極東艦隊必敗の図上演習
帝政ロシア崩壊の一里塚
ニコライ二世のアジア人蔑視
伊藤は、日英同盟と日露協商が両立すると信じていた
日英同盟の骨子を決めた伊藤=ランズタウン会談
龍岩浦の基地設営はロシアの侵略行為であった
対露開戦を決意した無隣庵会議
斬新だった山本権兵衛の奇襲開戦策
自衛戦争として開戦することが肝要
日英同盟の発動
ニコライ二世「僕は戦争を欲しない」
ロシア側は戦争を予期していなかった
アルゼンチン巡洋艦『日進』と『春日』の購入
海軍が進める奇襲開戦案を知らなかった参謀本部
開戦上奏をめぐる異様な口喧嘩
第2章 鴨緑江と特利寺における快勝
戦争の準備なく日露戦争に入った陸軍
開戦後、急遽つくられた『新作戦計画』
陸軍はロシアと満洲で戦うことを想定していなかった
ロシア側は約六個師団の増強に成功した
日本軍の快勝、鴨緑江渡河作戦
第二軍の上陸予定地転々とす
参謀本部はまともな作戦計画すらつくれなかった
計画より遅れた第二軍の塩大墺上陸
水際作戦か内陸迎撃防御作戦か?
消耗の激しい持久戦に適した第二軍の編成
北進か南進か判然としない第二軍の任務
南山への完全なフロンタル・アタック
死屍累々。日本軍の攻撃は頓挫した
日露戦争中唯一の敗北例、南山戦
クロパトキンとアレクセーエフの大激論
クロパトキン、旅順解囲の攻勢を決心する
苦戦した日本騎兵の初陣
小川師団長、独断専行で特利寺停車場を急襲す
ロシア政府による虚偽の「正式発表」
日本軍は簡単に潰乱するような軍隊ではなかった
第3章 遼陽会戦と沙河会戦における失敗
大日本帝国は世界に例がない陸海二元統帥に陥った
ロシア満洲軍は常に兵員不足に悩まされていた
騎兵は期待された役割を果たせなかった
遼陽会戦における日本軍の作戦計画
首山堡で頑強な抵抗に遭い第二軍は苦戦した
市川紀元二の一番乗りの軍功
最前線から遠すぎた満洲軍総司令部
黒木司令官の好判断、太子河渡河
第十二師団は動かざること山の如し。ついに饅頭山を死守
包囲作戦の初歩もしらない松川参謀の責任回避
日本軍はロシア軍を追撃しようとしなかった
ロシア側の兵站は冬季に入りさらに悪化した
片翼包囲作戦の問題点
戦には『にほひ』がある。梅沢旅団長の戦上手
追撃の好機を逸した停止命令
第4章 黒溝台会戦と奉天会戦
沙河会戦後、五ヶ月の長期持久戦に入った
大敗したミシチェンコ騎兵集団の営口来襲
秋山支隊による陣地構築と矢左衛門戦法
南部沈旦堡をロシア軍から取り返した
黒溝台の攻防。秋山支隊と立見師団の善戦
整備された陣地への突撃はまったく有効でなくなった
ロシア軍の兵站線は一本の細い線に過ぎなかった
クロパトキンは防勢作戦を決心した
大山巌は第三軍をもって間接包囲作戦を決心した
失敗した鴨緑江軍の陽動作戦
奉天会戦攻勢発起
干洪屯三軒屋付近の激戦
奉天会戦の勝因
第5章 停戦を望んだ児玉源太郎の弱気
奉天会戦は日本軍の大勝利であった
児玉の「講和工作」についての考え方は根本的に誤っている
これ以上の継戦が難しいという陸軍の見解
クロパトキン総司令官の降格
陸軍も海軍も勝利のあとの戦闘再開を嫌がった
海軍は小村外相の希望をまったく考慮しなかった
川上・田村両参謀次長はなぜ事前作戦計画をはずしたか?
満洲軍総司令部による稚拙な作戦計画
ドイツ式参謀教育が満洲陸戦失敗の遠因
参謀は作戦計画を自画自賛し、失敗を将兵に帰する
満洲軍総司令部ができてから前進が停滞した
あとがき
今回ご紹介したのは、
『「坂の上の雲」では分からない 日露戦争陸戦
-児玉源太郎は名参謀ではなかった-  』
著者:別宮暖朗
発行:並木書房
発行日 2008/10/5
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