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三代憲良:戦いの論理と競争の論理 -企業と国家のニューパラダイム-


『戦いの論理と競争の論理 -企業と国家のニューパラダイム- 』
著者:三代憲良
発行:芙蓉書房出版
発行日 2009/8/20
http://tinyurl.com/y8mpcqu
今回ご紹介する本は、ビジネス書に分類される本です。


しかし、一般的にいわれる「ビジネス書」の枠にはまり切らない面白さを持っています。
■面白いです
戦略系の経営書には、「競合他社との競争に勝つにはどうするか」という「競争戦略」をテーマにする本が多いです。
しかし本著は企業の競争を「戦い」と見ます。
戦いの対象となる敵は「顧客」「競合他社」「内外環境」の3つに分類されます。非常にユニークな観点です。
「戦い」ということばは、「現状を打破する行動」という意味あいで使われています。
正直言って、とっつきにくい表情の本です。
近くの書店ではドラッカーさんのマネジメント本周辺にありました。
見つけにくいのです。笑
でも手にとって読むと、これがまた抜群に面白い内容なんですね。
噛めば噛むほど味わいが出てくる、買ってうれしくなるタイプの本です。
何が面白いかというと
1.軍略が商略に落とし込まれる痛快さ
1.退役将校が軍事知識や常識、防衛省や自衛隊の現状を指摘している
1.わが軍の教育の歴史や、自衛隊・イスラエル軍人のプチ伝記が読める
1.宣伝謀略心理戦の観点から、現状改革への道を覗ける
1.武器の進歩が情報戦に与えた効果
など、軍事や自衛隊・国防や情報に関心をお持ちのあなたならどこかで必ず引っかかるフックがあるのに、全体としてはビジネス書であるという点です。
不思議な本ともいえます。
■本の概要
本著のテーマは「企業が戦いに勝つための戦略思考枠組み提供」です。
核心は「軍略と商略の融合」です。
キーワードは「戦い」「改革」「3つの敵」です。
対象読者は、各分野で組織を率いている方・その予備軍です。(組織には家族も含まれます)お子様向けではありません。
本は第一章から第五章で構成されています。
詳細目次はあとでご覧いただくとして、内容を大まかに言えば、以下のとおりです。
第一章は「戦場における軍の戦いと市場における企業の戦いの比較」
第二章は「軍略の商略への適用の実際」
第三章は「情報活動」
第四章は「組織改革の分析」
第五章は「組織改革に必要なファシズムとリーダーシップ」
という形になるかと思います。
ふんだんに紹介される戦史や軍事知識・常識の紹介は、軍事に関心がある人にも、経営戦略に関心がある人にも同等に、養分を有機的に吸収するうえで大きな助けになることでしょう。
第一章と第二章では「軍事的考え方・軍事常識の解説」「商略と軍略のすり合わせ」について、初心者でも理解しやすい形で紹介されています。
また第一章は、本著全体の見取り図のような存在です。
戦いの原則や、内戦戦略・外線戦略など、有名な軍事常識や用語が企業活動ではどういうことに相当し、活用できるかが分かります。
第三章は、「情報収集、心理戦・謀略」について解説されています。
おそらく多くの方はこの章を一番関心をもって読むと思います。
ビジネス活動で言えば、マーケティング(調査、集客、広報宣伝)に相当します。
圧巻は「心理戦」です。
心理戦には「対内心理戦」と「対外心理戦」のふたつがあり、「対外心理戦」は「戦略的心理戦」と「戦術的心理戦」に分類されます。
商いの心理戦は二正面作戦であり、「戦術的心理戦」が宣伝に相当し、「戦略的心理戦」が広報に相当する。と著者は指摘します。
そして第四章です。これは圧巻です。
恐らくこの章が、本著の中で最も重要な章と言えましょう。
話が企業のみならず、防衛省や自衛隊が抱える構造的問題点・国家・わが現代史・東アジアの現代史レベルにまで広がり、読み手にとって実にエキサイティングな内容となっています。
先ほど挙げた高橋2佐の『なぜ空軍は独立できなかったか』(芙蓉書房出版)では、組織改革にあたって内部要因という存在を忘れてはならない、という極めて貴重な指摘がキモになっていましたが、本著でもよく似た指摘がなされています。
第二、三章で取り上げられたテーマは、敵が「顧客」と「競合企業」の二つである「市場における戦い」に勝つことでした。
本章そして次の第五章では、もうひとつの敵「組織の内外環境」との戦いに勝つために必要なことが、詳細に述べられています。
重要だなあと思ったキーワードは「体質研究」「法旨国家」「宗旨国家」「組織IQ」でした。
「軍には体質改革はないが、自衛隊は体質改革を迫られる存在である」との指摘もあります。これは重い言葉です。
顧客という敵を味方にするのがITビジネスであるとの箇所も、実に鋭い指摘ですね。
そして章の最後で著者は、重要な指摘をしています。
<政治・経済・社会、いずれにおいても、現在の日本国民の判断基準は、自我と利己である。(中略)こうした判断をする集団脳をここでは性向脳と呼ぶことにする。この性向脳を良識脳の国民、社員に変えなければならない。その教育を行い、国民、社員自らが良識を高める教育の場を提供し、そのリーダーシップを振るうのは、国のリーダーであり企業トップの責任である>(P189)
この指摘がつぎの第五章の具体的提言につながります。
第五章のキーワードは「教義とリーダーシップ」になろうと思います。
強い体質にするための組織改革には、「下から盛り上がるファシズム」が必要であり、その圧力をコントロールできるリーダーが不可欠。それには決まりごとや組織を整備するだけでは不十分で、教義が絶対必要となる。と著者は指摘します。
教義の重要性の背景は
・強い組織は「良識脳を持つ宗旨化組織」が理想。
・宗旨化組織とは、法が全ての基礎となる法旨組織とは異なり、組織、リーダー、構成員がそれぞれ統一された義やモラルで動く組織を意味する。
・宗旨化組織を目指すには、その意志を示す教義、リーダー(煽動者)、その媒介者、実行者の四つの要素が必要である
ということです。
また、わが国の推移も例として取り上げ、わが国再生に向けた提言もあります。
・明治維新以来わが国は、軍人勅諭・教育勅語を教義とする宗旨国家であった
・しかし戦後になると宗旨体質から180度変わって法旨国家になった
・今のわが国の教義は憲法そのものである
・現状を見る限り、法や組織の整備のみでは体質まで創生できないことを示している
・憲法はあくまで法であり教義ではない。
・国づくりには法整備の前に、将来を見据えた日本人としての精神的な教義が必要である
最後に、理想の軍人改革者としてイスラエルの独眼流 モシェ・ダヤン将軍が取り上げられ、リーダーシップの具体的発露になだれ込み、本著は大団円を迎えます。
第一章・第二章:起
第三章:承
第四章:転
第五章:結
といった感じの構成です。
軍の論理はビジネス分野でも立派に通用することを確信できる一冊でした。
■教義を思う
企業戦略を「同業他社との競争に勝つこと(=競争戦略)」としかみない狭い視野がビジネスの世界に蔓延し、真の戦略思考をさえぎってます。
著者の三代さんは「この視野の狭さが企業組織のいろんな問題を生む背景にあるのではないか?」といいます。倫理観に欠ける企業人が産まれるのも、そのひとつの現れでしょう。
優良企業(有名企業だけじゃないですよ)の多くは、倫理観が高いです。
本著で指摘されている「教義」を会社がきちんと整備し、社内で周知徹底する努力をしています。中小企業の場合、社長や創業者自らが先頭に立ってこれをやっています。
もう一つ言いたいのは、家族も、忘れてはならない大切な組織だということです。
家族も利益ではない価値を追求する一つの組織です。
お父さん(お母さん)は家族の指揮官です。
家訓の意義は、想像以上に大きいという事です。
企業人でなくても本著から得られるものは多いはずです。
このことを忘れないで欲しいです。
■最後に
著者の三代さんの紹介をしておきます。
本著の著者略歴より
<三代憲良(みしろけんりょう)
昭和25年大分県生まれ。昭和48年防衛大学校卒(17期応用化学専攻)。
陸上自衛隊普通科部隊勤務、防衛庁長官官房広報課勤務、陸幕調査課勤務、外務省出向、在英国日本大使館一等書記官兼ロンドン総領事館領事、陸上自衛隊富士学校勤務。防衛庁退職後、警備企業勤務。その後製造販売会社勤務。同社において経営企画部門、海外販売部門、経済産業省法人出向、社内総合研究所勤務、営業ラインリーダーなどを歴任し、現在営業推進担当部長。
著書に『戦いの本質』(中経出版)、論文に「NATO及び英国の防衛戦略と日本の防衛」(ロンドン大学提出)「戦略なき組織は滅びる」(先見経済)などがある。これまでイスラエル(ガザ地区)等を含み、世界約30カ国訪問。スポーツ:剣道(7段)、趣味:座禅>
出版社さんからいただいたご案内には、軍事の世界とビジネスの世界がほぼ同年数とありました。
ある意味、埋もれることを強制されているかに映るわが将校の才能が、民の分野で発揮されるのは、わが国にとって実に良いことですね。
軍事と経営といえば兵法経営の大橋さんが思い浮かびますが、
三代さんには、わが国のビジネス参謀として、ビジネスの世界での今後ますますのご活躍と後に続く人へのリーダーシップ発揮をお願いしたいところです。
オススメです。
今回ご紹介したのは、
『戦いの論理と競争の論理 -企業と国家のニューパラダイム- 』
著者:三代憲良
発行:芙蓉書房出版
発行日 2009/8/20
http://tinyurl.com/y8mpcqu
でした
(エンリケ航海王子)
目次
まえがき
第一章 文明存続のための戦いと戦略
戦争は文明の母という皮肉な事実
軍産官学人事交流が生み出す国益
国益を生む人事交流のインターオペラビリティ
軍はノブレス・オブリージュの運命共同体
エリート組織とエリート化
変化した戦争と戦いの様相
企業の見えない錦の御旗
目的の二枚看板
環境や体制によって変わる行動目的
総力戦を戦う参謀組織
軍の総力戦と企業の白兵戦
営業部隊以外が生む間接利益
軍と企業の戦いの類似と相違
企業が展開する間接戦と直接戦
グランド・デザインの描写とその思考環境
東西戦略論の衝突から見えるもの
ステルス型戦略と視認型戦略
運命共同体化に必要な企業理念
国家戦略の市場戦略的相似性
第二章 軍略の論理から見える商略の本質
行動の目的と目標の明確化
軍と企業のデジタル目標とアナログ目標/常に照合すべき目的と目標の関係
主動を取り、敵への優位を構築
主動確保の手段としての兵器開発/顧客という敵に対する企業の主動/競合
という敵に対しての主動
緊要な時期、場所への戦力集中と資源の経済的活用
集中運用の失敗、ガダルカナル島作戦/鍵となる集中投資分野の選択/先を読み
投資分野の選択に成功した事例
組織風土にすべき意志の統一、簡単明瞭、秘密保全
意志統一のない組織の戦力発揮は不可能/企業における統一は形から/混沌
とする戦場で求められる簡単明瞭/簡単明瞭が生む新たな市場/土俵外で
負けないための秘密保全、統率と管理
奇襲による戦力の逆転
奇襲は企図の秘匿とその後にあり/日本の戦争アート、真珠湾奇襲を参考に
したイスラエル/奇襲戦法を理解する5W1H/欧米の騎士道精神と奇襲/
ブルー・オーシャン戦略の軍事戦略的関連性/BO戦略の本質は奇襲/味が
決したビール業界の奇襲戦
機動による潜在戦力のシナジー効果
機動は大胆と繊細のアート/オールドビジネスの機動とITが生んだ無機動
第三章 敵、情報、心理戦という普遍的戦略要素
三つの敵との戦い
戦場での破壊と市場での創造
ビジネスでいう内戦戦略と外線戦略
情報の質と量、その読み方で決まる戦い
情報は敵意志を推測するための知識/敵の意図を読む情報センス/タブーで
あってはならないヒュミント情報/公的情報と私的情報/競合情報は業界の
道標/ビジネスマンとしての情報分析
武力行使のための武器・弾薬が意味するもの
小火器が変えた国家意志
企業戦における小銃が意味するもの
サービスというステルス兵器の戦い
森羅万象これ心理戦
心理戦、この痛快な成果を上げる戦い/奇略、謀略の東洋の戦略論/欧米軍
はなぜ奇襲をしないのか/商いの心理戦は二正面作戦/戦術的心理戦=宣伝
と戦略的心理戦=広報/戦略的心理戦と企業業態/戦略的心理戦の威力を
知らない企業/心理戦から見える企業のオーラ
第四章 改革と革命が創る治の社会
改革という第三の敵との戦い
改革に必要とされる精神的拠り所
戦略の上位にある体質研究の必要性
法旨国家と宗旨国家
体質改革のない軍と体質改革を迫られる自衛隊
改革とは組織改編にあらず
日本のシビリアンコントロールの不思議
一般官庁にない二つの機能
本質的改革の追及と国軍の創設
改革解体された国鉄という組織
当事者能力のなかった組織/採算度外視の旧日本軍的暴走/国鉄の内外環境
と競合
第三の敵と革命という戦い
外圧と革命のメカニズム
外圧から革命へ、国内安定に百年を要した中国
失われた百年は中国三千年のブランドが創った
それでも棄てない中国ブランド
政府と国民の意志が同調しなかったソ連
戦う組織の戦力指標
組織IQと軍の戦いの思考
逆ヒエラルキーが創る強い組織
顧客という敵を味方にするITビジネス
正義のファシズムの醸成と集団脳
第五章 ニューパラダイムを生む正義のファシズム
正義のファシズムを醸成する教育
日本社会のコアとなった軍の教育
将校と兵卒の軍人勅諭
陸軍将校の教育機関と徳育
将校を内面化したもの
ファシズム遺伝子の媒介者
アメリカ人が絶賛した教育勅語
内容の外に意義のあった教育勅語
理想国家に必要な精神教義
正義のファシズムを煽動するリーダーの資質
教義の媒介者と媒介手段
戦いを忘れた子ども顔の日本人
親にモラルを教える成人学校の必要性
企業教育は企業倫理の創造にあり
軍人改革者のリーダーシップ
現実主義と現場主義の改革者/危機の冷静な判断と先見洞察力/戦いは続き、
戦いでの死はその絶頂
改革と煽動のリーダーシップ
リーダーシップ=己の立場を知ること
統率の三つの妙、威圧、心服、情への訴え
「馬鹿の壁」を越えて理想の宗旨化組織へ
企業にはない浪花節的リーダーシップ
成功する改革者リーダーに必要な資質と心得
あとがき
参考資料
今回ご紹介したのは、
『戦いの論理と競争の論理 -企業と国家のニューパラダイム- 』
著者:三代憲良
発行:芙蓉書房出版
発行日 2009/8/20
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