メールマガジン「軍事情報」のホームページ

創刊2000年10月のメールマガジン「軍事情報」です。

内山進:戦い、終らず ~ヒロシマ・アメリカ・イラクー現役米空軍少佐の記録~

time 2010/01/20


『戦い、終らず ~ヒロシマ・アメリカ・イラクー現役米空軍少佐の記録~』
著者:内山進
発行:並木書房
発行日 2010/1/20
http://tinyurl.com/yd3vdb6
基地要塞化の責任者としてイラクに派兵された著者は、


資源配分の厳しい
現実に直面します。結果、必要な防備ができなかった部隊から戦死者が
でます。
この辛い経験を通じ、将校としての責任を痛感するなか、
「日本人の自分が、なぜイラクの戦場にいるのだろう?」
との疑問が生まれます。
著者の内山少佐は、この疑問に答えるために本著を記しました。
ひとことで言えば本著は、「内山少佐の人生の記録」です。
副題「ヒロシマ・アメリカ・イラクー現役米空軍少佐の記録」は、
見事に本著を表現していると思います。
往々にしてこの種のノンフィクションは、お涙頂戴やマッチョマッチョに
なりがちです。しかし本著からは、そういう湿度の高さを感じません。
ウジウジしたところは微塵もなく、距離を置き自分を突き放して見る
「乾燥度の高さ」「淡白さ」を感じます。
だから、内容としてはかなり重いはずなのですが、読み手は「すっ」と
物語に入り込めます。
元陸軍大尉の空軍少佐。化学に詳しい憲兵。
現役の在日米空軍憲兵隊副司令官。という著者の経歴も魅力です。
■差別
著者の内山少佐は東京生まれ。中学時代に広島に引っ越しますが、「被爆
経験がない」ことから差別を受けます。
この経験が少佐の人生に大きな影響をもたらします。
「差別のない国」にあこがれた内山少年は、大学時代に交換留学生として米に
渡ります。しかし留学先で経験したのは、広島で経験したよりもっときつい
差別でした。
その後ひょんなことから米陸軍に入隊します。
新兵教育を通じ著者は「理不尽な差別のない米陸軍という社会」を経験しま
す。
<この小隊、いや中隊や大隊も、アメリカ陸軍全体には白人も黒人も、ラテン
系もユダヤ系も、そしてアジア系もいる。この二週間、みな平等に訓練し一緒
に食事をし、共に苦しみ、共に汗を流し、共に涙を流した。俺は生まれてはじ
めて人間が皮膚の色を越え、習慣を越えて、一緒に戦う姿を見た。それはとて
つもなく美しかった。そこには俺が広島の中学で味わったよそ者へのねたみや
イジメなどという器の小さいものはひとかけらもなかった。なぜか俺の目から
涙があふれた。俺ははじめて、自分がアメリカ陸軍の兵士であることを誇りに
思った>(P69)
<新兵訓練でいろんなことを習った。俺はもう子供ではない。責任感のある
立派なアメリカ陸軍の兵士なんだ。俺は一人前の男なんだと思った>(P74)
■クビ
化学会社に入る夢断ちがたく、8年務めた陸軍を除隊して予備役(イリノイ
州兵)になった著者は、大手化学企業に入社します。
ところが、予備役将校としての任務から帰った著者を待ち受けていたのは、
会社の理不尽な対応(降格)でした。
「兵役に対する責任と法律を守る義務」を理解しない会社と全面対決する
ことになった著者は、社内で無視され、結局クビにされてしまいます。
すでに家族を抱えていたため職を探さねばならなくなり、仲間の勧めも
あって再入隊申請を軍に出します。この過程で、陸軍から空軍に編入すること
になります。許可が下りるまでのあいだ、小学校教師で食いつなぎました。
このとき、臨時教師として勤務する学校の校長先生が、信じられない好意を
著者に示します。最悪の時期に著者に手を差し伸べた校長先生の「同じ陸軍
仲間だからね」という言葉には感動させられます。
■憲兵として
著者は陸軍幹部候補生学校卒業後、憲兵職に補されました。
憲兵の任務は、軍法違反の取締りや基地の警衛などです。
指揮官として対処した「立てこもり事件」の経緯は、
読んでいてなんとも切なくなるものです。任務を遂行すべき軍人としての
心がまえと、立てこもった兵士への同情の念。
クールにかかれているだけにより一層、憲兵にとって避けることのできない
苦渋を垣間見れるエピソードです。
軍への再入隊の過程で、著者は陸軍から空軍に編入しますが、
空軍でも憲兵職に補されます。空軍と陸軍の憲兵の違いについて記されている
箇所は、著者ならではのもので非常に興味深いところです。
■イラクへ
空軍編入後、著者はイラクに派兵されます。
イラクの模様は、10章からエピローグに至る約80ページに記されており、
現地の雰囲気・緊迫感が会話表現を通じてうまく表現されています。
「戦友は絆が固い」という言葉がありますが、
217ページから228ページにかけて記されている「イラクでの戦闘記録」
は、ひとことも「戦友」「絆」という言葉が出てこないにもかかわらず
「戦友の固い絆とはどのように生まれるか、どういうものか」が見事に表現
されています。
また、EFP攻撃を受けた現場に出動し、現場鑑定を行なったとき、
<「ーヤツら、車両を破壊するのが目的じゃないんだ。俺たちを負傷させて、
苦しめて殺すのが目的なんだ」>と著者が直感したことは、危険の中、現場
で地べたを這いずり回った人ならではの嗅覚といえましょう。
■戦い、終わらず
軍人になりたかったわけでも、戦場にあこがれたわけでもない。
女を追いかけ、学校を出て普通に就職し、その後なんとなく軍に入った。
そんなごく普通、いや普通以上にふわふわした若者だった著者は、厳しい
新兵訓練、士官学校での教育を通じて一人前の男になります。
任務遂行のなかで将校として成長し、家族を持ち、2度の戦地派遣を経験し、
いまは在日米空軍憲兵隊副司令官という要職に就いています。
・陸軍に入隊するきっかけは女性との別れだった。
・将校を志願した理由は「給料が多くなるから」だった。
・陸軍を除隊したのは、新しい仕事につくためだった
・軍に再入隊した理由は、職がなくなったからだった。
・陸軍から空軍に転属したのは、年齢が理由だった
などなど、本著で描かれている著者の姿は、等身大で人間臭いです。
「少佐ドノ」というより、いろんな経験をしてきた親戚の叔父さんという
印象です。
これは著者が、深い動機から本著を著しており、悩み・苦しみ・辛かった
出来事・弱さを包み隠さず正直に記しているからでしょう。この意味で本著
は、類書とはまったく違う、異色のノンフィクションといえます。
・知られるところ少ない「戦場での憲兵の任務」
・イラクの最前線で、部隊はどういう問題に直面していたか
・「陸軍出身」ということから現場部隊に歓迎されたのはなぜか
・バイオメトリクス監査が、アフガンでの戦いに影響を与えていること
・用語集としての価値がある文中で有機的に多数紹介された用語の数々
・米では、軍人が一つの職業として社会に定着していること
など、現在の米軍事情を把握できるテキストとしても有意義です。
単なる戦場紹介や米軍紹介本ではない、著者の人生そのものを感じ取れる
深みのある本著。著者の人生に対するひたむきさと誠実さが伝わってくる
一冊です。一人でも多くの方に読んでいただきたい内容です。
戦い、終わらず。
著者の戦いは、これからも続きます。
本日発売。
オススメの一冊です。
(エンリケ航海王子)
今回ご紹介したのは、
『戦い、終らず ~ヒロシマ・アメリカ・イラクー現役米空軍少佐の記録~』
著者:内山進
発行:並木書房
発行日 2010/1/20
http://tinyurl.com/yd3vdb6
でした
追伸
著者経歴の時系列一覧があれば役立つと思い、手作りしました。
もくじの下で紹介しています。ご参考になれば幸いです。
■もくじ
プロローグ 何のための戦いか
1 東京から来たよそ者
2 「これは南部の因縁だ!」
3 化学者への夢
4 地獄の新兵訓練
5 アメリカ陸軍少尉
6 SRT出動せよ!
7 シカゴへ
8 「みんなミスターUが好きだよ」
9 アメリカ空軍入隊
10 イラクの戦場へ
11 明日が見えない戦い
12 戦地からの帰還
エピローグ 再び、イラクへ
おわりに
■著者の履歴(本著よりエンリケが作成)
1963年生まれ
1983年     秋田大学鉱山学部入学
1984年     交換留学生として南メーン大学に留学
1988年     ミズーリ州立大学で化学の学士号を修得
1991年     米陸軍入隊
1992年     会計兵上級兵学校(AIT)修了。168基地支援大隊配属
1993年10月   陸軍幹部候補生学校(OCS フォート・ベニング)入校
1994年 2月   陸軍幹部候補生学校卒業。少尉任官。
1994年     その後、空挺学校入校・卒業。憲兵将校初期課程(MPOBC)
修了。SRT突撃要員課程修了(SRTは警察のSWATのような
部隊)。24兵団24憲兵中隊2小隊長・SRT隊長。
1995年 6月   中尉に昇進
1995年10月   結婚
1996年     245憲兵中隊長(在パナマ)
1997年~1998年 憲兵将校上級課程(MPCCC)入学、修了。SRTクラス主任教官
1999年 4月   陸軍を正式除隊。イリノイ州兵入隊(予備役)、スペクト
ラゾール社入社
2000年11月   予備役連絡官として訪日(25歩兵師団付隊)
2000年12月   帰国
2001年 8月   スペクトラゾール社を解雇される。陸軍大尉に昇進。
空軍に編入申請提出。
2001年 9月   補助教師登録(その後正式教員)
2001年 9月11日 9.11テロ勃発
2002年 4月   米空軍に編入。空軍大尉任官。71憲兵中隊S-4(資材支援・
訓練担当)。
2002年 9月   空軍憲兵将校初級課程(SFOBC)入校
2002年12月   同校修了
2003年 2月   SOS(大尉から少佐になる為の学校)入校
2003年 3月   イラク戦開戦。SOS修了。71憲兵大隊71補助中隊中隊長。
2003年11月   71憲兵大隊71補助中隊運営将校。
2004年 2月   空軍憲兵上級課程(SFAOC)入校、修了
2004年 7月   13緊急応戦大隊713憲兵中隊運営将校(グアム・アンダーセン
空軍基地)
2006年 2月   土砂崩れ対応のためレイテ島に派兵
2006年 7月   5空軍憲兵隊本部副官(横田)
2006年 8月   在日米軍編成警備関係主任将校
2007年 1月   韓国・オサン基地でイラク派兵前訓練
2007年 3月   少佐昇進。対テロ将校(ATO)としてイラク派兵(基地要塞化
の責任者)
2007年 9月   日本に帰還
2008年 8月   中央集団司令部3課バイオメトリクス監査部幕僚将校(フロ
リダ州・タンパ マグデイル空軍基地)に一時的に移籍。
2008年10月   イラク現地調査
2009年     帰還。現在に至る
今回ご紹介したのは、
『戦い、終らず ~ヒロシマ・アメリカ・イラクー現役米空軍少佐の記録~』
著者:内山進
発行:並木書房
発行日 2010/1/20
http://tinyurl.com/yd3vdb6
でした



【日本最大級】楽天トラベル


軍事情報へのお問い合わせはこちらまで


メルマガ「軍事情報」 登録(無料)はこちら↓でどうぞ

メルマガ購読・解除
 


米国軍隊、警察、特殊部隊、米国政府機関で正式に採用されている科学的護身術~コンバット・ファイティング


sponsored link

down

コメントする




CAPTCHA


その他

英霊来世

メルマガ購読・解除
 




「日の丸父さん」(1~12話)

▼机上論ではない、安保政策の理想的な教科書▼

▼精緻な銃器豆知識▼

▼最高の孫子解説書▼

▼三十六計で読み解くシナの戦略▼

▼自衛隊によるオリンピック支援の実際

▼水面下の戦争に勝つ▼

▼キーワードは「換骨奪胎」と「地政学教本」

▼インテリジェンスの教科書

▼明治以降の通説を覆した日露戦争陸戦史▼

▼再終末期の帝国陸軍の苦悩がわかる名著▼

▼防衛産業のすべてがわかる傑作▼

▼近現代日本の軍事史がつかめる貴重な一冊▼

▼国史の新常識▼

▼大楠公のエキスを吸収できる本▼

メルマガ登録

アーカイブ

あわせて読みたい

あわせて読みたい

人気の検索キーワード

最近検索されたキーワード

sponsored link

メルマガ購読・解除
軍事情報
   
バックナンバー
powered by まぐまぐトップページへ



「日の丸父さん」(1~12話)
高速バスの予約 icon
■黒の経典SCS■歴史上の支配者が使っている女をものにする卑劣な方法とは?・・