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『戦友』 高部正樹 (YouTube資料映像付き)

time 2008/05/16

<願わくば、あの苦しいジャングルのなかで、何の見返りも求めず、必死に戦い、命を捧げた日本人兵士がいたことを、ひとりでも多くの方々に知っていただければうれしく思います。>(高部正樹
来週二十四日、映画「ランボー」の最新作(最後の戦場)の公開がスタートします。この映画はこれまで、米政府の軍事政策の兆候を示す作品としても注目されてきました。
次回作の舞台はどこと思われますか?


イラン?北鮮?シリア?中共?
違うんです。
ミャンマーなんです。
ちなみにミャンマーは、中共の影響力が強い国です。
今回ご紹介するのは、国民のほとんどが知らないミャンマーで、わが同胞が「ランボー」と同じことを実際に行なっていたという記録です。
著者と編集者、関係者の見事なチームワークが作り上げたこの作品を、サイクロン被害、「ランボー」公開間近という不思議な偶然がミャンマーを覆っているいまこそ、目を通していただきたいと思っています。
「高部正樹の記念碑的作品」といって差し支えない作品です。
■著者のこと
著者の高部正樹さんは、戦闘機パイロットを目指してわが空自に入隊されましたが、訓練中の怪我が元で夢を断たれて退官。その後八十年代に、ソ連への抵抗を行なっていたアフガン・ムジャヒディンの一員として実戦に参加。
以後、ミャンマーのカレン民族解放軍、ボスニア・ヘルツェゴビナでのクロアチア傭兵部隊等で実戦を経験されたあと、二〇〇七年に傭兵からの引退を宣言、現在にいたっています。
高部さんは、わが国で最も高名な傭兵出身者といえましょう。
あわせて、傭兵の実際の姿を分かりやすく説明した書籍を数多く出版されており、御著書を通じ、傭兵の現実をはじめて知りえた人も多いのではないでしょうか。
■この本
今回ご紹介する本は、著者の高部さんがカレン民族解放軍で活動していたときの「戦友」について書かれています。
これまで出されてきた内容とは少し毛色が違います。
これまでは、ご自身の経験談を中心に、いってみれば「傭兵とは何か」を客観的に表現されてきたように感じますが、この本は、題名通り「戦友」のメモワールです。
三名の「戦友」の言葉、行動、考えていたことを高部さんが回想する形で話は展開します。
いずれの方もすでに今は故人で、驚くほどの若さで亡くなられています。
■自由戦士の碑
タイ・ミャンマー国境地帯にある碑からスタートする導入部は、非常に印象的です。
<不快な生暖かい風が ぬるりと頬を撫でてゆく。
雨季に入ったばかりの東南アジアで特有のどんより曇った低い空からは、いつの間にか小雨がばらつき始めていた>
この碑は「自由戦士の碑」といいます。
<日本語で大きく書かれたこの碑の裏には、三人の日本人の名前が刻まれている。
「西岡・・・ 岩本・・・ 今田・・・」
だが、この小さな碑の存在を知る人はほとんどいない。>
彼らは、少数民族への迫害を政府が現在も行なっているミャンマーで、半世紀以上にわたって、少数民族カレン族独立のため武装闘争を展開する「カレン民族解放軍」に身を投じたわが同胞です。
碑を前にした高部さんは、一九九〇年十二月にタイムスリップします。
そう、冒頭で登場した碑のすぐ側にあった「ワンカー」で、高部さんらは日々命がけでミャンマー政府軍と戦っていたのです。
自分に直接何の利益ももたらさないカレンのために、彼らは命を削っていたのです。
■すぐ側にいるような錯覚
強く感じるのは、登場する「戦友」の方々があたかも隣にいるような錯覚をたびたび覚えたことです。現地の匂い、臨場感、リアルさをここかしこで感じました。
戦友の人物描写に関する「歪み」をまったく感じ取れなかったことにも驚いています。
自分以外の他者を表現するにあたっては、よほど誠実な人でもどうしても主観に基く歪みが投影されるものです。
しかし本著には、人物のアンバランスさが見受けられないのです。
激しい性格の人は最初はちゃめちゃに見えますが、通読してみると、自然でリアルな、バランスの取れた人間として描きだされていることに気付きます。
なんでだろうな、と思っていましたが、
本著に同封されていた高部さんのお手紙のなかに回答はありました。
<(前略)
今日まで彼らのことを書かなかったのは、彼らの記憶があまりにも鮮明で、思い出すのが辛かったのがその理由ですが、10年以上の時をへてようやく少し距離を置いて見られるようになりました。そして、あのとき彼らがそこでどんなことをしたのかを知るのは自分しかいないという思いが強まりました。
彼らはカレン族の大義に賛同し、カレン族の将来のため、じつに勇敢に戦いました。そのことはカレン族の人々の中で今も語りつがれています。この本で私は、彼らが何を思い、何を語り、何をしたのか、できるかぎり忠実に再現したつもりです。(後略)>
疑問は氷解しました。
命を分け合った戦友。それも、見ず知らずの外地で何の後ろ楯もないなかで共に戦った同胞。
そのことが高部さんと本著で紹介されている方々との間に、どれだけ深い絆を育んでいたか。そして彼らを失ったことが高部さんにとってどれほど辛い出来事であったか。
百千万の言葉よりも、全体を通じた戦友描写を通じこのことがビシビシ伝わってきました。
高部さんは、少しでも実際の姿を歪めるようなことだけはしたくなかったのでしょうね。
全編を通じて、戦友を深く追悼する高部さんの思いが伝わってきます。
印象をひとことで言い表せば「無限の友情」ということになるでしょう。
「たまたま生き残ったから、お前らのことは代わりにきちんと記録に残しておくぞ。お前達が帰りたかった祖国の人々に伝えておくからな。見ておいてくれよ」
こういうメッセージを感じました。
その意味で本著は、西岡、岩本、高部、今田の四氏による共著といえるのかもしれません。
■決して忘れない
先ほど紹介した高部さんの言葉にもありますとおり、現地の人々は「戦友」たちを忘れていません。そしてこれからも忘れないでしょう。
「戦友」たちが「日本人とは立派なものだなあ」という現地の歴史伝承に直結する事業をなしたことに対し、私は深く顕彰の念を持つものです。
今後ミャンマーがどうなるかはわかりません。しかし、カレン民族がこの世に存在する限り、そして本著が後世に受け継がれてゆくかぎり、「戦友」たちが命がけで果たした貢献が無駄になることは決してないでしょう。
■傭兵伝説のウソ
ビザの期限を気にする一節がありましたが、実に興味深いところです。
一時帰国してお金をつくってまたカレンに来るんです。
帰国したら、アパートの一室に二人で住み、バイトに励んで、ガスを使うお金も節約して資金作りに励みます。
命がけの任務なんですが、ろくに給料も出ないんですね。
色気もおしゃれもへったくれも何もありません。
でもたぶん充実感だけはいっぱいだったのではないでしょうか。
ブランド品を買うこともなく、おいしいものを食べるわけでもなく、彼女と遊び惚けるでもない。ただひたすらカレンに行くためのカネを創る。
ガス代を節約するため、真冬でも水浴びしたという話を読むと「何でここまで」と思う人もいるでしょう。
でも私には、なんとなくその気持ちがわかります。
「やむにやまれぬ思い」に突き動かされてのことだと思うんです。
悪く言えば「ガキ」、よく言えば「純情」といわれるタイプでしょう。
高部さんが自嘲しているとおり、今の時代風潮では「アホ扱い」されるタイプかもしれません。
しかし、時代を創る魁となったのは常に、こういった純情でまっすぐな方の行動でした。
やむにやまれぬ思いに基く行動。それが時代を創ってきた原動力ではなかったでしょうか。
こういう方々を許容できるだけの懐の深い社会のメンバーでありたい、とわたしは思っています。
カネは確かに大切ですが、カネのみで動く人間ばかりではありません。
高部さんと「戦友」は、カネがすべての尺度である今の時代が見失った、人と人のつながりの核心にある「もっとも大切なもの」を共有しておられた(おられる)ように思います。
その意味で、友情とは何か?という観点から読んでも面白いです。
また、
傭兵には女をとっかえひっかえというプレイボーイのイメージもあるようですが、これも一部を全体と取り違えた妄想の産物のようです。高部さんは「そばにいてくれるだけでいい。女性に求めるのは安らぎだけ」との趣旨のことを本著の中でおっしゃってます。こういうちょっとした言葉も大変興味深いものです。
■日本軍の碑の前で
こんな逸話も紹介されています。
<我々は、日本から遠く離れた外国の、そのうえ人もほとんどいないジャングルの奥深くに、実に多くの日本兵の逸話が残ることに、言いようのないものを感じた。
(中略)
「こんなとこまで。ほんま・・・たいへんやったろうなあ」
西岡が、持っていたビスケット数枚を手近にあった木の根元にそっと置いた。
「そうだな。どれだけ頑張っても、俺達なんか足元にも及ばないよ」
私と今田は米をひとつかみ取り出して一緒に供え、水筒の水をあたりに撒いて、手を合わせて彼らの冥福を祈った。>
それを見ていたカレン軍部隊は
<「ここで死んだ日本兵のためか?」
いつの間にか、手を合わせていた我々の後ろに、モビュ大尉とチームのカレン兵が来ていた。(中略)
モビュ大尉は、その場で黙って敬礼した。カレン兵たちも、それにならって敬礼してくれた。>
という姿を見せてくれます。
<カレン兵が、ここで死んだ英霊のために敬礼してくれた。
その気持ちが、日本人として何よりもうれしかった。>
私も本当にうれしかったです。
■不覚でした
通常、紹介させていただく本については最低三回は読み直し、それまでに書いたメモをまとめてから紹介文を書きますが、この本については初読後の再読がしばらくできませんでした。
こんな小さい本なのに、奥深くまで心を奪われてしまったのです・・・・
想像を遥かに超える内容でした。正直不覚でした。
気づいたことをその都度メモしても、今回ばかりは、見直すたびに内容のあまりの陳腐さに嫌気がさし、見ることすら厭わしくなることたびたび。
メモを幾度ゴミ箱行きにしたことでしょうか。
ようやく紹介できる状態になれて、正直ホッとしています。
話に聞くだけでも、本を作るというのは甘い作業ではありません。
著者と編集者が火花を散らせて質の高い作品に作り上げてゆくものです。
面白いもので、作り手の姿勢というのは必ず読み手に伝わります。
本著のそれは、著者、編集者、出版社が注ぎ込んだ意気込みと本気さが生半可なものではないことをビシビシ感じさせるものでした。
そして、それがきちんと読者に伝わる「対話のできる」本でした。
■オススメします
戦闘描写の迫力、現地事情の詳細な解説、人物描写の素晴らしさなど、描写面、内容面で実にバランスの取れた大変質の高い作品です。
現地で撮影した写真が目次前と本の中ごろにあわせて32枚あり、「戦友」全員の顔がわかります。
舞台となったタイ・ミャンマー国境地帯の地図も、目次あとに三つ掲載されています。
ビジュアル面でも、読み手を意識した大変読み甲斐のあるつくりとなっています。
(本人ではありませんでしたが、岩本さんが高校時代の同級生にそっくりだったのには驚きました)
読後感は実に爽やかで、スッキリと晴れやかです。
「あとがき」にもあるように、登場人物に一切の愚痴がないからです。
それが実在の人物であることがまた驚きです。
そういう印象を読み手に伝えた高部さんの筆力も素晴らしいと思いますし、人の生き様を、生死を超えてリアルタイムで共有できる「本」の偉大さもあわせて感じています。
最後に、高部さんの手になるあとがきの一部をご紹介します。
<自分の意志で、純粋にまっすぐ生きた彼らの姿を、本書を通じて少しでもわかってもらえれば幸いだ。彼らは本当に、自らの命を顧みずに自分の信念に生きた男達なのだ。
そんな彼らを思い起こすとき、ひとつの言葉が頭に思い浮かぶ。
「義をもって死すとも不義をもって生きず」
幕末の戊辰戦争で激戦となった会津戦争を、会津藩士たちはこの精神で戦い抜いたという。
これこそ、彼らにぴったりの言葉のように思えてならない。
(中略)
日本に帰れば、カレンの戦場とは比較にならないほど豊かで楽に生きる道があっただろう。しかし彼らはそんなものには目も向けなかった。カレン族の窮状を知ってしまった以上、それを見てみぬふりをして生きることは、彼らにとって自分自身の誇りと正義に悖る行為以外のなにものでもなかったのだ。
彼らはどんなに辛くても苦しくても、決して楽な道に逃げる言い訳を探そうとしなかった。どんなに大きなリスクに直面しても、決して背中を見せようとはしなかった。みんな自分自身の信じた義と信念に、まっすぐに生きた男たちだった。
要領よく生きることが当たり前の現代日本の中で、このような生き方は笑われるかもしれない。馬鹿にされるかもしれない。
だが私は、愚直と言ってもいいほど不器用に、しかし自分の信念を貫いて生き抜いたこの男たちとともに過ごせたことを心から誇りに思っている。
(後略)>(『戦友』あとがきより)
「見てしまった以上そこから逃げることはしない」
こういう男たちが、本当にいたんですよ。
もしかしたら「戦友」たちは、本著を通じてようやく祖国での落ち着き先を見つけられたのかもしれない。
読了した今、そんなことを思っています。
今回ご紹介した本は
『戦友』
高部正樹
並木書房
2008/5/20発行
でした。
http://okigunnji.com/s/karen/
(エンリケ航海王子)
追伸
最後になりましたが、
西岡さん、岩本さん、今田さんのご冥福を心より祈ります。
あわせて、本著を通じて「戦友」のみなさんが本当の意味で帰国できたことをうれしく思います。お疲れ様でした。おかえりなさい。
1.『戦友』資料用映像 ”ワンカー”

ミャンマーからの独立を目指し、ミャンマー・タイ国境地域で武力闘争を続けるカレン民 族解放軍(Karen National Liberation Army)の拠点が「ワンカー(Wangkha Camp)」である。
 日本人義勇兵として参加した高部正樹氏と彼の戦友・西岡氏が撮影し、西岡氏がこつこつと編集したワンカー内の貴重な記録映像が残されていた。この映像は、西岡氏の編集した映像を再構成したものである。ワンカーはその後、ミャンマー政府軍の猛攻を受け、陥落し、攻防戦のさなかに日本人義勇兵が一名戦死を遂げた。西岡氏は後日、戦病死している 。
『戦友』
2.『戦友』資料用映像 ”ワンカー攻防戦” 西岡さんも映ってます

カレン民族解放軍(Karen National Liberation Army)に参加した日本人義勇兵・高部正樹氏と戦友・西岡氏撮影の貴重なワンカー( Wangkha Camp)内映像。バンカー内から見える最前線の景色、激しい銃砲撃の音が「戦場」の 雰囲気を伝えている。
『戦友』



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