日の丸父さん(21)「部隊と訓練」 石原ヒロアキ

2019年2月6日

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部隊と訓練

 陸上自衛隊の部隊は、通常教育訓練を中心に動いています。最近、国際貢献任務が付与され、実任務の部分が増えてきましたが、基本はやはり教育訓練です。
 部隊には師団から小隊クラスまでいろいろな規模がありますが、通常連隊規模(1000人弱)以下で訓練検閲というものを1~2回/年の頻度で受け、評価を受けます。部隊はこの検閲のために必死で訓練をします。学校でいえば試験や通信簿のようなもの。会社でいえば営業成績のようなもので、個人の評価(昇任とか昇給)にもつながりますからそれこそ必死です。
 ところが訓練環境は必ずしも満足いくものではありません。まず演習場が狭く、数も少ないという問題があります。部隊間の調整会議で各部隊の使用場所や時期を決めますが、上級部隊が指名した重要な訓練を担当したり、検閲を間近に控えた規模の大きな部隊が優先されます。残りを各部隊が取り合うという状況です。特に人気のある演習場は各部隊入り乱れて訓練するので、いろいろトラブルも発生します。
 次に一緒に訓練してくれる部隊との調整の問題があります。部隊はそれぞれ特異な機能を持っており、それを統合してはじめて戦力を発揮するので、協同訓練は重要であり、一緒に訓練してくれる部隊を探すのは大切です。しかし各部隊とも他の訓練や各種行事でスケジュールがいっぱいであり、訓練パートナーを探すのはなかなか大変です。その他の悩みとしては、各種消耗品を購入する経費不足などがあります。
 さて、やっと演習場やパートナーを見つけていざ訓練となり、現地へ行ってもまたさまざまな制約事項があります。演習場の木は国有林なので、一定の太さ以上の木を切ってはいけないとか、近くの農家が放し飼いにしている牛を傷つけてはいけないとか、通学路になっている道は児童優先とか、近くにゴルフ場があるから発煙はだめとか、演習場ごとに本当にいろいろなことが決められています。
 一度アメリカ本土の演習場で米軍の訓練を見たことがありますが、日本最大の矢臼別演習場(北海道にあり、南北10km、東西28km)の数倍あり、かつ周囲に何もないので、彼らは好き放題やっていて、うらやましい限りでした。
 訓練は演習場ばかりではありません。最近、対テロ訓練で警察や消防などとも共同訓練をする機会が増えました。そうすると、駅、スポーツスタジアム、原子力発電所など公共施設が訓練の場になることがあります。
 
 私が第101化学防護隊長のとき、大宮駅で警察や消防と一緒に参加した大規模な化学兵器テロ対処訓練がありました。このときは埼玉県が主催した訓練だったので、煩雑な調整は必要なく、とてもスムーズに進めることができました。
 
 この手の訓練は、違う文化を持つ組織が一緒に働くためには非常に重要で(たとえば警察の鑑識は、犯罪現場で臭いをかいだり手で触ったりすることがあるそうですが、化学兵器にそれをやったら死んでしまいます)、特に異動が多い公務員の間では定期的に実施する必要があると強く感じたものです。
 
 さて、話はちょっとそれますが、テロにCBRN(シーバーン)が使われた場合、多くの市民の方が被害にあいます。その時自衛隊は除染所を運営するのですが、汚染した彼らのためのタオルや着替えなど多くの消耗品が必要になります。自衛隊にはそのようなものを購入する予算がありません。そこで、自治体の責任者に「実際にテロが起きた時、これら消耗品が大量に必要になりますよ」と言ったら、「テロを未然に防ぐことができなかったのは国の責任だから、消耗品の手当ては国でやってもらいたい」と返されました。
 
 テロに対する自治体の認識を知るいい機会になりました。
(いしはら・ひろあき)
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【著者紹介】
石原ヒロアキ(ペンネーム)
1958年、宮城県石巻市生まれ。青山学院大学卒業後、陸上自衛隊入隊。第7化学防護隊長、第101化学防護隊長を歴任。その間地下鉄サリン事件、福島第1原発災害に出動。2014年退職。学生時代赤塚賞準入選の経験を活かし、戦争シミュレーション漫画『ブラックプリンセス魔鬼 全10巻』(電子書籍版)を発売中。『漫画で学ぶサイバー犯罪から身を守る30の知恵』(ラック サイバー・グリッド・ジャパン・並木書房)の漫画を担当。家族3人(一女)。本名:米倉宏晃。
『ブラックプリンセス魔鬼』
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『漫画で学ぶサイバー犯罪から身を守る30の知恵』
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『日の丸父さん』漫画バックナンバー
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※最近「石原ヒロアキまんが館」(URL:http://okigunnji.com/url/97/)
というホームページを開設しました。
ここには、化学学校ホームページで掲載中の4コマ漫画『CBRNロボタマ子さんが行く!!』を毎週1話ずつアップしていきます。
このホームページは部内用なので普通閲覧できませんが、CBRN(シーバーン)の啓蒙も兼ねて化学学校の許可を得て掲載しています。ぜひご覧ください。