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高嶋 博視 :『ソロモンに散った聯合艦隊参謀 -伝説の海軍軍人樋端久利雄(といばなくりお)』

time 2017/04/21

高嶋 博視 :『ソロモンに散った聯合艦隊参謀 -伝説の海軍軍人樋端久利雄(といばなくりお)』

今回紹介する本は、
きちんとしたテーマを持ち、読み手に多くの事実・実証例を提供し
てくれる「いい軍事本」。それが本著を読み終えての感想です。樋
端大佐を通じて、大日本帝国、帝国海軍、そして今の日本国、海自
そして将来の日本、海上防衛について考えさせてくれる本です。

この本が多くの日本人の目に触れることにより、海軍史日本現代史
のより深い理解発展につながることを期待してやみません。

あわせて、同じような良質ないい軍事史本がたくさん生まれること
を期待します。

著者の高嶋さんは讃岐(香川県)出身の元海上自衛官[海軍軍人]。
最終階級は海将[海軍中将]、最終補職は横須賀地方総監。退官後は
講演・執筆活動をされており、『武人の本懐』『指揮官の条件』と
いう本を上梓されています。

この本は「昭和の秋山真之」「帝国海軍の至宝」と評された伝説の
帝国海軍士官、樋端久利雄大佐(特進後)の生涯を描いた作品です。
軍令・軍政に卓越した能力を発揮し、航空戦術の開発、兵器の改善
改良に尽くした大佐は、残念なことに、山本五十六元帥(特進後)
とともにソロモンに散りました。

最大の特徴は、「一次資料」というキーワードで表現できます。
高島さんは、 <同じデータを見るにしても、極力、一次資料を見て
自分なりの評価や判断をしたいと思った。執筆の姿勢として一次資
料に接することに腐心した。>と書かれています。

本著を読んだ人の中から、帝国陸海軍に関する知識・理解を修正す
る人が出てくるでしょう。知られざる帝国陸海軍の実像をつかめる
人も出てくるでしょう。それほど豊富に出てくる「史実」「事実」
「視座」を、安心して受け止められる点が本当にうれしいです。

「ある時期の●●について知りたい」ときにどういう資料に当たっ
たらよいか?のヒントや提示があちこちで確認できる点が非常に助
かります。参考になりますし、あてになります。「戦藻録」「高松
宮日記」の重要性も改めて感じさせられました。巻末にある参考文
献は大変有益です。

郷土の先輩というだけでなく樋端大佐の同窓生でもある高嶋さんは
まえがきで

<戦争・戦闘の実相は、錦の旗のように美しいものではない。
残酷・悲惨でむごい。
 一方で、国と国との関係が理想や綺麗ごとで済まされないことは、
歴史や今日の国際情勢が示すとおりである。国が亡くなるというこ
とは、その国の文化が亡くなり、言語が亡くなること。そして、歴
史が亡くなることを意味する。ひとつの戦争に負けても国が亡くな
るとは限らないが、先の大戦に敗北して、日本は多くの有形無形、
大切なものを無くした。失ったものを再び手にするには、気が遠く
なるような長い時間と国民の努力が必要とされる。どれほど頑張っ
ても取り返せないものもある。
 将来永きにわたって日本という国が世界から尊敬され、存在感を
維持するためには、「治にいて乱を忘れず」。この本の全編を通じ
て、その意味を問いたい。加えて、戦争というものが持つ理不尽さ
や軍人家族の愛、そして平和の在り方を探っていきたいと思う。>
(P6-7)
  
と記されています。単なる人物評伝にとどまらない作品という印象
です。

読後感は、その期待を裏切らないものでした。

全編通して重厚、冷静、沈着で、単なる人物評伝を超えた「帝国海
軍史」「大東亜戦争海戦史」「時代の中に生きた帝国海軍軍人とそ
の家族を通じた社会風俗史」の三つの面を味わえる史書として楽し
むことができます。なかでも「いつまでも使える正確な海軍事情知
識」がたっぷり手に入るのが一番オススメできるところです。

最大の魅力はやはり「帝国海軍をはじめとする軍事事情の記述が正
確」という点です。トップレベルの軍人だった高嶋さんだけに、資
料選びも軍事をめぐる記述も信頼性が極めて高く、歴史上の出来事
への評価やコメントなどは「さすが提督」と感じさせるものです。
とくに「い」号事件をめぐる分析は、これまで見たことのない観点
が含まれており、非常に厳しい評価ですが納得ゆくところ非常に大
きいです。

海軍の悪習として知られた「鉄拳制裁」をめぐる話も非常に面白か
ったです。まさか攻玉社が出てくるとは思いませんでした。歴史を
検証して正確な経緯をきちんと説明されています。

海軍の伝説的存在だった樋端大佐の系譜は途切れることなく今も残
っていますが、未亡人は戦後日本社会で大変な辛酸を舐めました。
息子さんが父の姿を追い求める姿にも胸に迫るものがあります。
「久利雄の残したもの」にそのあたりの話が書かれています。

キレイごとでは済まない国家関係
戦争の実際はむごく残酷

この深刻な矛盾の中で、いかに軍事をかじ取りして国を動かすか?
これは政治家に丸投げする課題ではなく、国民レベルで考えなきゃ
いけないことです。

甘ったるい言葉・姿勢で国は保てません。
だからといって、やたらめったら戦争をあおるのは軍人という名の
国民の命をどぶに捨てろと言っているのと同じです。

よくよく深い叡智がなければ軍事を扱うことはできません。
わが国民はその種の叡智を持っているはずですが、戦後社会のなか
で溶けてなくなっているかもしれません。本著を読んでそのあたり
をぜひ確認してください。

高島さんは、大東亜戦争太平洋戦線でわが国が米国に敗れた萌芽は
日英同盟破棄にある、と書かれています。こういう指摘は珍しくあ
りません。でも本著で高島さんは「何故か?」を記されています。
読んだ時は思わず膝を叩きました。同じ思いを持っていたからです。

日清日露戦争に勝って1次大戦で漁夫の利を得たことで、わが国は目
がくらんだ、一方米国はわが国の興隆に危機感を抱き、日英同盟を
消滅させるよう動いた。この面で米国は我が国の一枚も二枚も上手
であった、と高嶋さんは指摘します。同感です。

現在の我が国をめぐる状況は1次大戦後の状況とよく似ており、不穏
な動きが周辺で増しています。過去の歴史から学んで同じ轍を踏まな
いことが極めて重要です。そのために最も大切なのは本著のような
きちんとした歴史を学ぶことではないでしょうか?

最初に読んでいただきたいのは、最後のエピローグです。

「私は樋端さんに全海軍の作戦を預けて、存分にその明快極まる脳
味噌を働かせて貰いたかった。この人がもっと永く生き残り、もっ
と働ける立場にあったならば、太平洋戦争の様相はもっと変わって
いたかもしれない」(源田実)

帝国海軍で聯合艦隊参謀や航空隊司令等を務め、戦後は自衛隊で幕
僚長になった源田さんをして、これほどまでに言わせる人物、それ
が樋端大佐でした。

本著を通じて初めて知りましたが、帝国海軍航空の中心人物で、敗
戦時に割腹自刃された軍令部次長・大西瀧治郎中将の影の参謀は、
実は樋端大佐だったということです。海軍航空の星、山本権兵衛の
再来、昭和の秋山真之・・・と激賞された樋端大佐は、大西中将の
知恵袋だったんですね。

もう一つ感じたのは、樋端大佐がほとんど記録を残されなかったと
いうことです。あまりに頭がよかったので、一度読んだり見たら全部
覚えてしまうので残す必要がなかったようです。

一部の間で、樋端大佐の遺産は継承されてきたのかもしれません。
しかし一般レベルで樋端大佐の事績はまったく知られていません。
生まれて初めて耳にする人がほとんどでしょう。もしかしたら海自
でも同じような状態なのかもしれません。

海軍の至宝とまで言われた人の伝承が国史からほとんど絶えている
この現実。もし大佐が日記や書き物を残されていたとしたら・・・
と感じますね。

「秋山真之の再来」とまで言われた天才的人物で、航空戦術のパイ
オニア的存在。もし日記や記録が残っておれば、必ずや戦後日本で
も注目を浴びていたはずです。(頭脳天才、人格円満、勇猛果敢と、
非の打ちどころのない余りにも完全な人だったようなので、それが
逆に作用したのかもしれませんが・・・)

高嶋さんも書かれています。<今更ながら、記録を残すことの重要
性を感じる。とりわけ、当事者の生の声は貴重な歴史資料であり、
後世に残すべきだと思う。>

捨てた、壊した歴史は二度と帰ってこないのです。

もしいま樋端大佐が生きていたら、わが国の状況をどう判断されるか
聞いてみたいところです。

是非お読みください。

高嶋 博視
ソロモンに散った聯合艦隊参謀 -伝説の海軍軍人樋端久利雄(といばなくりお)
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