日の丸父さん(15 )「ギャンブル 永田曹長の思い出」 石原ヒロアキ

2019年2月6日

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はじめに

 軍隊とギャンブルは切っても切れない関係にあります。私も、ギャンブル好きで借金を抱えている隊員の面倒を数多く見てきました。
 エッセイにも書いていますが、彼らを指導するのは大変です。九州勤務の時、雲仙普賢岳の火山災害派遣があり、1600日以上の史上最長の災害派遣になりました。あとで部下を交代して派遣するようになりましたが、そのときはギャンブルで借金を持っている隊員を優先して派遣したものです。
 災害派遣されればギャンブルする暇もありませんし、金もたまります。それに意外と災害派遣に適している隊員が多かったのです。彼らの多くは独身であり、仕事の要領もよく、勤務意欲も旺盛でした。
 しかしこの問題は、根本的解決法がないと思います。災害派遣がしょっちゅうあっても困りますし。
石原ヒロアキ「まんが館」を立ち上げました。 現役時代に頼まれて描いた4コマ漫画もアップしています。
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自衛官とギャンブル

 自衛官はとにかくギャンブルと酒が好き、というのが30年以上前に初級幹部として部隊に初めて配置された時の印象でした。兵隊がギャンブルや酒が好きなのは戦争映画や戦記小説などで多少知っていましたが、明日死ぬかもしれない戦場ではなく、平時でも好きだというのは、ギャンブルや酒は兵隊の本質なのではないかと思ったほどです。
 ギャンブルとは競馬、競輪、競艇、パチンコなどですが、とくにパチンコは手軽にできてほとんどの隊員がやっていたのではないでしょうか。当時の隊員はパソコンもスマホも持っていません。営内の自室にいてもテレビを見るか本を読むかくらいしかないのですが、もともと室内は相部屋でプライベート空間がありません。
 大体4人部屋か、2段ベッドを使えば8人くらいまで一緒に入ります。備品はベッドと机、フットロッカー、更衣用ロッカーがあるくらいで、余計なものは私物庫というところに入れておきます。テレビや小さな本棚くらいは置けますが、スキーなどのスポーツ用具、余計な衣服などは私物庫に入れて置きます。
 ですから、一人になりたいときは外出するしかありません。外出すれば余暇の過ごし方は自然と決まってきます。自宅が近いものは帰省する場合がありますが、営内者は食事や風呂などは官費でまかなわれているので、金があります。たいがいの者はギャンブルかドライブ、夜は飲み屋と相場が決まっていました。
 仮にパチンコで負けても食べるのに困らないので、1日に万単位で負ける者もざらでした。勝ってもその分酒の量が増えるだけです。
 既婚者で、営外に居住しているものもギャンブル好きが多かったように思います。なかには依存症のようになって、多額の借金を抱えて始終金策に追われているものもいましたし、実際それが原因で自殺したものもいました。
 そのような隊員に対しては、中隊長、小隊長や先任陸曹が懇切丁寧に服務指導をします。依存体質の人間にいくら諭してもなかなか改まりません。じっくりと時間をかけ、繰り返し、繰り返し、根気よく指導します。時には貯金や給料を本人に代わって管理することもありました。
 どうしようもなくなったら自己破産という手もありますが、なるべく借金を返済して元の生活ができるように、時には弁護士などの助言も得ながら指導していきます。指導する側の苦労は並大抵ではありません。
 かつて自衛隊に人気がなかったころ、自衛隊を社会厚生施設と勘違いして札付きの不良のような社会不適応児を入れる親がおり、また、自衛隊側も募集難から様々な人間を受け入れていました。
 とくに彼らのような者たちには、ギャンブルに関する金銭指導が服務指導の中でもかなり比重を占めていたように思います。自衛隊は武器を扱う関係上、一般の人よりも高い倫理性を求められますが、中学や高校を出た問題児に高い倫理性を身につけさせるのは容易ではありませんでした。今、カジノ解禁をめぐって、依存症対策をどうするかが問題になっているようですが、私にとっては他人事とは思えません。
 さて、今の自衛隊はどうでしょうか? もちろんギャンブル好きはいるでしょうが、前よりも減っているように思えます。
 スマホが営内者の生活を変えたようです。今では公衆電話にならぶ隊員の光景は遠い昔のことになりました。外出してパチンコをしたり、ドライブをする隊員も減っていると聞いています。宴会以外酒を飲みに行く者も少ないようです。
 自衛隊の人気は上がり、優秀な隊員も増えてきました。最近では大卒の陸士も珍しくありません。服務指導する側は楽になったのですが、逆にコミュニケーション力が落ちてきてはいないかと心配です。
(いしはら・ひろあき)
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【著者紹介】
石原ヒロアキ(ペンネーム)
1958年、宮城県石巻市生まれ。青山学院大学卒業後、陸上自衛隊入隊。第7化学防護隊長、第101化学防護隊長を歴任。その間地下鉄サリン事件、福島第1原発災害に出動。2014年退職。学生時代赤塚賞準入選の経験を活かし、戦争シミュレーション漫画『ブラックプリンセス魔鬼 全10巻』(電子書籍版)を発売中。『漫画で学ぶサイバー犯罪から身を守る30の知恵』(ラック サイバー・グリッド・ジャパン・並木書房)の漫画を担当。家族3人(一女)。本名:米倉宏晃。
『ブラックプリンセス魔鬼』
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『漫画で学ぶサイバー犯罪から身を守る30の知恵』
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