日の丸父さん(12 )「自衛官の恋愛事情」 石原ヒロアキ

2019年2月6日

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はじめに

自衛官も普通の人間です。普通に恋もします。
ここで一つエピソードを紹介します。私は1尉のころ、化学防護小隊長でした。化学防護小隊は師団司令部付隊という師団司令部を補佐する部隊の中にあり、そこは保安警務隊、車両小隊、管理小隊という寄せ集めのような部隊でした。
ある日、無断欠勤した隊員がいました。これは処罰されるなと思った時、彼から電話がきたのです。「いま彼女のところにいて、明日から訓練で1週間ほど会えなくなると言ったら自殺すると言われて部屋から出られない」と言うのです。
それが欠勤の理由になるか?と思った時、隣にいた保安警務隊長が「代われ!」と言いました。激しく叱責すると思いました。なにしろ警務科は自衛隊の警察で、法や規則の番人です。その隊長は実際厳しいことで知られていました。
その彼がこう言ったのです。
「彼女に『離れるくらいなら死ぬ』と言われるまで惚れられるとは男冥利に尽きる。羨ましいよ。心配するな、彼女を説得してから出てこい」。
私はたまげました。保安警務隊長は、彼女の命を守るのは欠勤の理由に十分値すると判断したのでしょう。そして彼の言うことを信じたのです。その隊員はそのあとしばらくしてから出勤してきました。なんて情の深い保安警務隊長だろうと思いました。
これが自衛隊なのです。私は今でもその保安警務隊長を尊敬しています。
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出会いが少ない自衛官

自衛官も普通の人と変わりません。恋愛もすれば結婚もします。
ただ、一般の人と生活環境がやや違うので、自衛官ならではの恋愛や結婚があります。
まず、自衛官は異性との出会いが少ないという特徴があります。
女性自衛官もいますが、圧倒的に男子自衛官が多いのです。
そして、陸士や陸曹の若い隊員は駐屯地の営内に住んでいます。
いわゆる柵の中で生活しており、職住が一緒です。課業後も外出するには外出証が必要で、許可制になっています。
こう言うとちょっと暗いイメージですが、実は駐屯地は意外と住み心地がいいのです。外出できない者は課業後に隊員食堂で
食事をし、隊員浴場で入浴をします。その後、厚生施設のクラブで酒を飲むのが一般的です。
営内は集団生活で基本的に個人の空間はないのですが、ほとんどの隊員は部屋をロッカーなどで区切って個人スペースを作り、テレビ、パソコン、スマホなどで余暇を楽しんでいます。食費、光熱費はほとんどかかりません。
外出した場合は、休日のときは自宅でくつろぐか、ドライブ、パチンコ、映画、飲み屋に行くのが普通です。最近は外出者が少なく、営内でゲームやスマホをするものが増えているそうです。つまり、異性との出会いの場がほとんどなく、生活に不便を感じないので、結婚の必要性を感じない者が多いというのが実態です。
昔は親やおばさん、あるいは上司の紹介で見合いというのがあったでしょうが、最近はまれです。そこで曹友会(陸曹の相互親睦を目的とした准陸尉を含めた陸曹の任意団体)などが、部外の女性を対象とした「ふれあいパーティー」などを主催して、隊員に異性との接触の場をつくろうと努力しています。
最初は女性の参加者が少なかったのですが、最近は自衛官が人気で、女性の数が男子隊員を上回るのが常態です(公務員であり、募集難のころに比べると、優秀な人材が増えてきています。陸士でも大卒は珍しくありません。全国異動が気にならなければ結婚相手に自衛官はお勧めです)。
幹部の場合は、営外に住んでいるので部外の異性との出会いはありそうですが、結構仕事が忙しく、残業したり、訓練で長期間不在であったり、また、独身だからと休日に当直につけられたりと意外と暇がありません。
そのような状態の中で結婚した隊員を見ると、相手が自衛官であったり、看護師であったり、学生時代の幼馴染であったりというのが多いようです。看護師の場合、自衛隊の病院があり、そこでの出会いが結構あったりします。ちなみに自衛隊の病院に勤務している看護師は幹部自衛官です。

職場結婚が多い自衛隊

自衛隊に「職場恋愛禁止」はありません。女性自衛官の場合、同じ職場の自衛官と結婚するのが普通です。ただし、幹部の場合と陸曹・陸士の場合では多少異なります。
幹部の場合は異動が多いので、幹部どうしの結婚は別居を覚悟せねばなりません。とくに防大(B)や一般大出身者(U)の場合、日本全国の異動はあたりまえで、それを承知の上での結婚はかなりの覚悟が必要です。
別居が長引くと心も離れて最終的に離婚する例もありますが、ふつう女性が退職して結婚を維持する場合が多いようです。
別居してでも結婚を維持したい場合、今度は子供の問題が出てきます。
お互い子供はいらないということであれば問題ないのですが、どちらかが子供をほしがった場合、離婚か退職かの選択がでてくる可能性があります。
もちろん上司も本人たちの希望に沿った人事をしようと、同居できるような勤務場所を調整する場合もありますが、二人が同じ場所にタイミングよく異動することはほとんどまれです。
では、陸曹の場合はどうでしょうか? 陸曹は幹部ほど異動が多くなく、また人事の融通が利くので、陸曹どうし、あるいは幹部と陸曹の結婚は多いようです。事務官の場合も異動が少ないので、自衛官と事務官との結婚もあります。
最近は育児休暇の期間がかなり長期でとれるようになったので、退職する自衛官は少ないのではないでしょうか。
部隊長は、隊員の服務指導をしなければなりませんが、隊員どうしの恋愛や結婚などにも常に気を使っています。漫画では第7化学防護隊が舞台になっていますが、あくまでフィクションです。
最近まで女性自衛官は化学部隊や戦闘部隊などへの配置が母性保護の名目で禁じられていましたが、解禁になったようです。女性の護衛艦の艦長や戦闘機パイロットも出てきました。私としては複雑な気持ちです。
(つづく)
(いしはら・ひろあき)
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【著者紹介】
石原ヒロアキ(ペンネーム)
1958年、宮城県石巻市生まれ。青山学院大学卒業後、陸上自衛隊入隊。
第7化学防護隊長、第101化学防護隊長を歴任。その間地下鉄サリン事件、
福島第1原発災害に出動。2014年退職。学生時代赤塚賞準入選の経験
を活かし、戦争シミュレーション漫画『ブラックプリンセス魔鬼 全10巻』
(電子書籍版)を発売中。『漫画で学ぶサイバー犯罪から身を守る30の
知恵』(ラック サイバー・グリッド・ジャパン・並木書房)の漫画を担当。
家族3人(一女)。本名:米倉宏晃。
『ブラックプリンセス魔鬼』
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『漫画で学ぶサイバー犯罪から身を守る30の知恵』
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ここには、化学学校ホームページで掲載中の4コマ漫画
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このホームページは部内用なので普通閲覧できませんが、
CBRN(シーバーン)の啓蒙も兼ねて化学学校の許可を得て
掲載しています。ぜひご覧ください。