日の丸父さん(8)石原ヒロアキ 「訓練事故」

2020年5月1日

今週の漫画はこちら

https://yondemill.jp/contents/17663?view=1

はじめに

指揮官は孤独です。部隊に対して全責任を負わねばならず、
決心は非常に重いものです。ですから沈思黙考するための個室
が用意され、思考環境を乱されないよう上級指揮官には副官が
ついています。
幕僚は指揮官が決心するためにいろいろな意見を具申しますが、
決して指揮官の代わりはできません。右に行くか左に行くかは最後
に指揮官が一人で決めるのです。
私は指揮官を2回経験させていただきました。今回のエッセイと
漫画で、指揮官の苦労を少しでも感じていただけたらと思います。
「訓練事故」
https://yondemill.jp/contents/17663?view=1
「ブラックプリンセス魔鬼」全10巻が刊行されました。
魔女たちは軍隊と連携しながら一緒に戦います。この“連携”と
いうところがキーワードで、現在の軍事防衛上の問題を提起しています。
ぜひご一読いただき、なにが問題なのかを考えてみてください。
ブラックプリンセス 魔鬼(マキ) [第10巻] https://yondemill.jp/contents/17490?view=1
※通常の倍のボリュームです。
全巻完結を記念し、本日から31日までの間、
1~9巻が全巻100円(67%OFF)となっています。
http://blackprincess-maki.tumblr.com/
まだ手に取っておられない方は、
これを機会に全巻まとめてぜひどうぞ
http://blackprincess-maki.tumblr.com/
「石原ヒロアキ まんが館」を立ち上げました。 現役時代に頼まれて
描いた4コマ漫画もアップしています。
http://yonekurahiroaki.wix.com/cbrn

服務の宣誓

自衛官になるとき、私たちは服務の宣誓をします。その内容は、
「私は、わが国の平和と独立を守る自衛隊の使命を自覚し、日本国
憲法及び法令を遵守し、一致団結、厳正な規律を保持し、常に徳操を
養い、人格を尊重し、心身をきたえ、技能をみがき、政治的活動に
関与せず、強い責任感を持って先進職務の遂行にあたり、
事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に努め、
もって国民の負託にこたえることを誓います」です。
ここに「事に臨んでは危険を顧みず」とありますが、これは他の
公務員の宣誓にはないものです。つまり戦闘など危険な状況で
命を落とすことも覚悟せよということですが、これはあくまでも
任務遂行上のことです。自衛官は任務遂行上必要な技能、
戦闘戦技を身につけるために訓練しますが、これは言い換えますと、
過酷な環境の中で、死なず、怪我をせず、事故を起こさず、
生き残って任務を遂行する技術を身につけることです。
ですから訓練で死傷者を出すのは本末転倒なのです。
絶対にあってはならないことです。しかし、危険と隣り合わせの
ぎりぎりの状況で訓練をすることもあるので、死傷者が出ること
もあります。
訓練事故は本人や家族だけでなく、部隊に与える影響も大きな
ものがあります。とくに士気に与える影響は無視できません。
また、指揮官は部隊の行動に全責任を負っているため、
指揮官に与える精神的ダメージは計り知れないものがあります。

常にぎりぎりの判断を迫られる

私は第7化学防護隊長、第101化学防護隊長と2回指揮官を経験
させていただきましたが、いつでもどこでも隊員や部隊のことが
頭から離れませんでした。部下隊員が仮に100人いたとすると、
彼らの家族も含めると300人以上の人たちの生活にも責任を持って
いることになるからです。
部隊には、一種独特の雰囲気があります。家族的な繋がりと
いっていいかもしれません。一般の人の中には、旧軍のイメージで、
自衛隊も先輩のいじめがあるのではないかとか、職権を乱用する
ような非常識な指揮官がいるのではないかと思う人もいるかもしれません。
しかしいたとしてもごく一部です(一般社会でもあるのと同じように)。
今の指揮官や先輩は、日ごろの生活全般まで懇切丁寧に指導します。
任期制隊員に対しても早く一人前にして新たな社会に出してやろうと
いう気持ちで親身に接します。
指揮官になると一般に統率方針というものを示します。これから
部隊をどのように統率するかということですが、多くの指揮官は
「任務の完遂」をあげます。これは当たり前のようで、実はとても
厳しいことなのです。任務の遂行にあたってはお前たちの命を
預かるぞということで、そのためぎりぎりの訓練をします。
ある時は夏の暑さや豪雨といった厳しい状況の中で、ある時は
不眠不休の疲労困憊状況の中で、練度向上のために訓練を続けるか、
安全を優先して中止にするか、指揮官は常にぎりぎりの判断を
迫られるのです。
私は訓練事故で部下隊員を亡くした先輩を知っています。
その方は退職してもその隊員の墓に命日になると毎年かかさず
花を手向(たむ)けていました。
常にポケットに辞表を入れて訓練をしていた連隊長もいました。

自衛隊はいつも厳しい訓練をしている

私は幸いにも指揮官を拝命中は、死亡者を出すような訓練事故は
1件もありませんでした。化学科部隊の場合はゴム製の防護衣を装着
して任務を遂行することが多いため、とくに夏の訓練は厳しいものが
あります。訓練中に熱中症で何人も部下を倒してしまったこともあります。
重大な車両事故を起こしそうになったこともあります。本当に幸運だった
のかもしれません。
指揮官を下番(かばん)するときは、「もうこれで部隊の責任を負わなくて
すむ」という気持ちで大きなため息が出ました。しかし、離任式で隊員の
前に立ち、離任の辞を言うためみんなの顔を見た瞬間、彼らと別れるのか
と思うとこみ上げるものがあり一瞬言葉に詰まってしまいました。
自衛隊はいつも厳しい訓練をしています。国際情勢がめまぐるしく変化し、
日本の防衛環境が緊迫化する中で、必死に愚直に今日も訓練しています。
私は彼らに対し、とくに指揮官に対してはいつも敬意をもって見ています。
きょうの漫画はこちらからどうぞ
⇒ https://yondemill.jp/contents/17663?view=1
※期間限定(8/31まで)で無料
漫画のバックナンバーはこちら
⇒ http://okigunnji.com/url/109/
(つづく)
(いしはら・ひろあき)
【著者紹介】
石原ヒロアキ(ペンネーム)
1958年、宮城県石巻市生まれ。青山学院大学卒業後、陸上自衛隊入隊。
第7化学防護隊長、第101化学防護隊長を歴任。その間地下鉄サリン事件、
福島第1原発災害に出動。2014年退職。学生時代赤塚賞準入選の経験
を活かし、戦争シミュレーション漫画『ブラックプリンセス魔鬼 全10巻』
(電子書籍版)を発売中。『漫画で学ぶサイバー犯罪から身を守る30の
知恵』(ラック サイバー・グリッド・ジャパン・並木書房)の漫画を担当。
家族3人(一女)。本名:米倉宏晃。
『ブラックプリンセス魔鬼』
http://okigunnji.com/url/50/
『漫画で学ぶサイバー犯罪から身を守る30の知恵』
http://okigunnji.com/url/17/
『日の丸父さん』漫画バックナンバー
http://okigunnji.com/url/109/
※最近「石原ヒロアキまんが館」(URL:http://okigunnji.com/url/97/)
というホームページを開設しました。
ここには、化学学校ホームページで掲載中の4コマ漫画
『CBRNロボタマ子さんが行く!!』を毎週1話ずつアップしていきます。
このホームページは部内用なので普通閲覧できませんが、
CBRN(シーバーン)の啓蒙も兼ねて化学学校の許可を得て
掲載しています。ぜひご覧ください。