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空母の運用に関する常識

time 2007/11/24

空母「葛城」

【質問】
「わが国にとって適性と思われる空母の保有数と、これらの運用に関する一般的基礎知識を教えてください。「外交における示威力」と直結するわが国には必要不可欠な兵器と思っています。

【回答】
これは難問です。(^-^;) 空母に期待される機能を対潜にするか、パワー・プロジェクションにするか、単なる示威広告塔か、により考え方が大きく異なります。

キーワードは「4」

一般論として、同型艦艇は4隻或いはその倍数の隻数を揃えることが理想とされてきました。世界に冠たる大海軍を保持していた英国が源流の考え方ではないか、と思います。同型艦4隻単位で部隊を編成して運用し、状況に応じて柔軟に部隊を2~4分割することもできる、という考え方です。戦艦華やかなりし頃がその全盛期でした。部隊行動の際に各艦の能力に差異があれば一番低い艦が全体の足を引っ張るうえ、補給造修面でも余計な手間が掛かるので、同型艦が最も望ましいわけです。

この考え方を発展させて、部隊を4の倍数にしてローテーションを組む考え方も生まれました。例えば、即応態勢、任務可動、整備休養、およびオーバーホールです。護衛艦隊の4個護衛隊群、潜水艦隊の潜水艦16隻などもこの考え方でできていますし、現在インド洋で無料ガソリンスタンドをやっている補給艦もこれに近い運用がなされています。(日本近海での本来任務に使う必要もあるので、とてもやりくりに苦労しているようですが……)

このように考えると、空母の場合も一隻だけでは単に周辺国への示威機能しか期待できず、実効的オペレーションためには最低三隻、理想は四隻以上が必要になると考えます。(この理想が実現できたのは過去に米海軍と帝国海軍だけ…)

随伴護衛艦の必要性

更に、現代の空母は(逆説的ですが)単艦では自艦防空能力が弱く、敵潜水艦の攻撃目標にもなりやすいので、対空、対潜能力を有する随伴護衛艦が必要ですし、長期行動に伴う高速補給艦も必須です。この対空、対戦脅威への脆弱性は空母の軍事的価値の高さの裏返し(金持ちほど強盗に狙われ易い)ですが、そのために米空母機動部隊(業界用語でCVBG)が本邦近海で行動する際の、海自の高い対潜能力への期待は大きなものがあります。

冷戦時代、有事にはソ連軍からの脅威の軽減のために空母が走り回れるような大きさの湾(例えば北海道噴火湾)の中に空母をソックリ入れて出入り口を護衛艦で塞いでしまうことも考えられていましたし、時と場合により複数空母を固めて運用することもあり得ます。一隻が着艦不能の被害を受けても僚艦で補うためですね。

一般に空母は艦載機の離発着時に風上に向かってフルスピードで航走する必要があるので、莫大な燃料をドカ食いします。燃料補給のため補給艦と併航しているときは長時間変針(走る方向を変えること)が難しく、敵からの攻撃に対して一番弱いときです。(猛獣もエサを食べているときが一番弱点ですよね)原潜の核動力は空気と縁を切って長時間連続潜航するためですが、空母のそれは洋上補給時のリスク軽減が最大の狙いです。

おそるべき金食い虫

一方、航空機は点検や整備をすべき事項も多く、必要な部品等の種類や量も半端ではないことから、「機体」も「搭載機器」も即応状態に維持することが容易ではありません。(「単に飛べる状態」と「作戦行動ができる状態」は別です)三段階ある航空機整備のうち、空母の上でできる整備は第二段階(業界用語で「O(オー)段階」及び「I(アイ)段階」整備)までで、オーバーホールのような「D(ディー)段階」整備は母基地(母港とは別の母航空基地)でなければ出来ません。

したがって、空母に搭載できる航空機の数は母基地に保有する機数の半分程度と言われています。裏返すと、空母に搭載する機数の約倍の数を母基地に揃えておく必要があることになります。(恐るべき金食い虫!)

また、予備機ばかりでなく、予備の搭乗員チームも必要です。通常、固定翼機では保有機数の約1.3倍、回転翼機では約2.1倍のチーム数を用意する必要があると云われており、それに沿った搭乗員の養成がなされます。

離発着訓練

母基地が必要なもう一つの重要な理由は離発着訓練です。

空母への着艦は例えて云えば「数メートル離れた床の上に置かれた切手の上に降りる」ようなものです。「切手」が「ハガキ」に見えた次の瞬間には着艦しています。まして夜中には着艦を誘導する僅かな照明だけが頼りです。着陸法はストール・ランディングと呼ばれ、航空母艦の艦尾で失速状態になるように速力を落とし、最後は飛行甲板の上にドスンと落ちるような着陸法です。

熟練度が低いと危険なので母基地で繰り返し練習して初めて、実際の空母に降りる資格が得られます。聞くところでは、毎月二回の夜間着艦ノルマが果たせないと資格が切れて母基地に返されるそうです。厚木基地の騒音問題になっているNLP(夜間着陸訓練)は艦載機搭乗員にとって命に関わる必須の訓練ですね。

長期的視野に立つ必要性

蛇足ですが、イザというとき、飛行機はお金さえ出せば同盟国からでも買えますが、搭乗員の養成には長い期間と高額の費用がかかり間に合いません。帝国海軍は陸軍のような徴兵依存でなく、基本的に志願兵で足りていたので、知らず知らずのうちにベテランの職人芸に依存する体質になっていました。ミッドウエイ海戦で多くのベテランを失った後の航空戦闘能力はガタ落ちでした。爆弾命中のバラツキを示すCEP(狙った弾の半数が入る範囲円)の半径が倍以上広がったと言われています。

長期的視野に立った要員養成計画が必要ですし、名人芸のようなベテラン戦力に期待するのではなくて、凡人が平均的な力を出しても戦果の上げられるような兵器や戦術の開発、並びに可能な限り短時間で練度の向上が期待できる教育訓練法やマニュアル類の整備もまた極めて重要です。

以上、ヨーソロの管見でした。

【解説:ヨーソロさま】

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コメント


  • ちょっと待ってください。空母の規模云々以前に、日本に何が必要か、という点が抜け落ちているのでは無いのでしょうか?空母を保有、配備することで、それ以上の国家的利益があるのなら、防衛費を増額してでも配備するでしょうし、そうでないのなら空母を持たないだけです。肝要なのは空母を保有することで、何ができ、それがどう日本の軍事的、経済的メリットを生むのか、という点です。それを置いて「まず空母ありき」の議論では無意味なのです。空母保有の議論では、なぜか戦術効果や打撃力だけで語られることが多く、経済的得失や商船側の事情を真剣に考えてくれていないと思います。シーレーン防衛を語る場合、商船側がどう考えるかを考察しない議論には意味が無いと思うのですがね・・・

    by T.N. €2006年5月8日 1:25 AM

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