「証言 自衛隊員たちの東日本大震災」大場一石

2019年2月6日

「何としても多くの国民に伝えたい」というOBの使命感と
「国民に期待されているのなら、日本人として、自衛隊員
として命の限りつくしたい。そこに自分たちの生きがいが
ある」という現役の使命感が、がっちりかみ合った本です。
著者の大場さんは元空将補ですが、直接災害派遣に貢献できま
せんでした。現役隊員の献身的な活動を目の当たりにし、
「後輩たちのためにできることはないか?」と考えます。
そして、広くその活動を世に伝えようと、1年以上かけ
関係者にインタビューを行ったのです。
そしてできたのがこの本です。
http://okigunnji.com/1tan/lc/isseki.html
▼特徴は3つあります。
1.東日本大震災における海空自衛隊の活動記録
2.現場で活動した隊員の「肉声」で構成
3.ほとんどの国民に知られていない
『オペレーション・アクア』の詳細を初めて明らかにした
とにかく細かい点までよく聞き取られています。
何がどうなってこれがどうしたから大変だった・・・
という感じで、同じ事態が起きた時、何をどうすれば
その時より良い対応が取れるな~ ということが
わかる内容となっています。
聞き取りが行われたのが、震災から3年後であり、
関係者が冷静に当時を振り返る余裕があったため
でしょうか。
なお『オペレーション・アクア』は、海自横須賀
港務隊の曳船(えいせん)による作戦。
福島第一原発の原子炉容器内に真水を注入するため、
原発からわずか200メートルまで近づきました・・
▼書かれているのはそれだけではありません。
・当時の統幕長・折木陸将の悲壮な決意とは?
・「中間指揮官が心配だった」とある一佐は回想しています。
・日米海軍の調整任務はいかに行われたか?
・同盟関係を支えるのは平素から築き上げた両国間の
人間関係とはどういう意味?
・現場力は歴史の積み重ねが培うという教訓
・「災害派遣任務は情報戦」とはどういうことか?
・ある地域に民間の医師が立ち入れなくなったため、
自衛隊病院の歯科医官が出動し、検死の任に当たったこと
をご存知ですか?
・自衛官を支える事務官・技官にもインタビューが
行われています。
・発災一週間後の大混乱状態の中、全隊員に給料を支払う
任務を完遂した事務官がいました
・水深2M、視界1Mほどの水中で遺体捜索の任に
当たった海自「EOD」(水中処分員)の声。
・指揮官として、隊員のストレスへの対処はどうすればよいか?
・空港は確保できた、いつでも運べる。しかし、受け取る側
の組織がない。この事態を受け、指揮官はどういう対処を
行ったのでしょうか?
・各部隊では、経験のない作業にかかわったケースもあり、
トラブルも想定されました。しかし実際は大声を出すよう
な状況は生まれなかったそうです。
・教育訓練で培ってきた自衛隊の力を発揮できる場を得た
との隊員の自覚とは?
・米軍は東日本大震災発災後、統合支援部隊(JSF)を
組織。司令官に在日米軍司令官(★★★)より格上の
太平洋艦隊司令官(★★★★)を任命したこと。
・発災当日、各地の各級の自衛隊員は、それぞれの
持ち場で、想定される事態に備えて万全の態勢を整えていた。
・災害派遣任務は、防衛任務と両立できた
・制度創設以来初めて実任務招集命令が下った即自(即応
予備自衛官)の話
・下士官兵から統幕長まで震災対応にあたった幅広い人の
肉声
・『オペレーション・アクア』における、海自発足以来
初めてのできごと
などなど、とても書ききれないです。
それではこのオーラルヒストリーブックの内容を見てみましょう。
■もくじ
まえがき
序 史上最大の災害派遣の始まり
 自衛隊の活動
 米軍などの活動
1 自らも被災しながら・・・航空自衛隊松島基地
 全隊員が一つの方向を向いて行動した
  第四航空団司令兼松島基地司令 空将補 杉山政樹
 食事作りで隊員と地域住民を支援
  第四航空団基地業務群業務隊給養小隊 二等空曹 大橋啓智
 手探りで困難に立ち向かった新任女性幹部
  第四航空団基地業務群施設隊 幹部候補生 菅原由里香
 国民のためには技官も自衛官もない
  第四航空団基地業務群施設隊 技官 豊宮一哲
 平素から応援してくれる地域住民のために
  第四航空団広報室長 三等空佐 大泉裕人
 人を大切にすることを第一に災害復旧部隊を指揮
  第四航空団基地業務群司令兼ねて災害復旧支援隊司令 一等空佐 時藤和夫
 部隊行動の命脈の回復に全力を尽くす
  第四航空団基地業務群通信隊 一等空曹 金尾貴之
 被災住民の期待と感謝に支えられて
  第四航空団基地業務群通信隊 三等空曹 庄司あゆ美
 混乱の中で間に合わせた給与支払い業務
  第四航空団基地業務群会計隊 一等空曹 星野潤一郎
 困難な状況下、続行した契約業務
  第四航空団基地業務群会計隊 事務官 柴田直飛
2 EODたちの苦闘と矜持・・・海上自衛隊掃海部隊
 初めて接したご遺体は眠っているようだった
  第四一掃海隊「のとじま」処分士 二等海尉 高橋潤
 水中捜索でふだんの訓練の成果が発揮された
  掃海隊群「ぶんご」水中処分員長 二等海曹 小山彰
 「また行け」と言われれば、いつでも行く
  舞鶴警備隊水中処分員 二等海曹 小北順一
 悔いなしEOD人生
  第四一掃海隊「のとじま」水中処分員 二等海曹 姉崎健也
 我々は特別なことをやったのではない
  自衛艦隊 掃海隊群司令 海将補 福本出
3 遺体検視・・・陸上自衛隊歯科医官
 ご遺体の歯から個人を特定する
  防衛省人事教育局衛生官付医務室歯科医長兼中央病院付 二等陸佐 糸賀裕
 原点に戻れば正しい道は見えてくる
  自衛隊中央病院第一歯科部長 陸将補 片山幸太郎
4 今こそ翼の真価を発揮・・・航空自衛隊航空輸送部隊
 現場の判断を優先せよ
  航空支援集団司令部防衛部運用第一課長 一等空佐 赤峯千代裕
 すべてが限界ぎりぎりで続けた輸送フライト
  第四〇二飛行隊(飛行幹部) 三等空佐 岡安弾
 励みになったガソリンスタンド店員のひと言
  第四〇二飛行隊教育飛行班(空中輸送員) 一等空曹 桑原祐則
5 縁の下の、その下の力持ち・・・海上自衛隊横須賀基地
 現場に行って分かった支援の意義
  横須賀地方隊横須賀警備隊 横須賀港務隊長浦配船掛長 二等海尉 泉田利幸
 直ちに艦艇を出港させなければならない
  横須賀地方隊横須賀警備隊 横須賀港務隊 三等海尉 町野誠
 入浴支援を支えた善意と笑顔
  横須賀地方隊横須賀警備隊 観音崎警備所長 二等海尉 小川昌彦
6 空から目にした感謝の言葉・・・海上自衛隊第二一航空群
 部下たちは「できる」という自信があった
  第二一航空群司令 海将補 山本敏弘
7 初の実任務招集命令下る
 必要とされればいつでも出頭する
  東北方面混成団第三八普通科連隊第一中隊 即応予備自衛官
   即応予備三等陸曹 浅黄耕治
 鍛えられている者は違う
  ジェイアール東日本物流グループ東北鉄道運輸株式会社
   仙台商品センター所長 牛渡勇
 上司や同僚は快く招集に送り出してくれた
  第二施設団第一〇施設群第三八五施設中隊即応予備自衛官
   即応予備一等陸曹 小野剛
 即戦力になる予備自衛官の社員
  第一貨物株式会社 仙台南支店 支店長 菅井勝典
8 非常時には前線も後方もない・・・航空自衛隊入間基地
 現場の部隊のためには何をなすべきか
  中部航空警戒管制団整備補給群司令 一等空佐 鎌田修一
 皆、歯を食いしばって涙をこらえていた
  中部航空警戒管制団整備補給群補給隊総括班 二等空曹 和田肇
 それでも若い部下たちはついてきてくれた
  中部航空警戒管制団整備補給群補給隊燃料小隊 一等空曹 松崎栄一
 現場に出なければ実情は理解できない
  中部航空警戒管制団整備補給群補給隊 三等空尉 黒木久嗣
9 日米調整・・・連絡幹部から見た「トモダチ作戦」
 米軍の救援活動の方針は確立していた
  護衛艦隊第一護衛隊群第五護衛隊司令 一等海佐 岩崎英俊
10 オペレーション・アクア・・・原子炉冷却水海上運搬作戦の実相
 指揮官旗、曳船に翻る
  横須賀地方隊横須賀警備隊司令 一等海佐 井ノ久保雄三
 これは我々にしかできない任務だ
  横須賀地方隊横須賀警備隊 横須賀港務隊 一等海曹 川村武
 「後方全力」―自分たちの努力が災害派遣活動に直結するのだ
  大湊地方隊大湊造修補給所長 一等海佐 黒木忠広
 やるべきことはわかっていた
  横須賀地方隊横須賀造修補給所工作部武器工作科 技官 菅沼昌樹
 試行錯誤で完了させた放射線防護工事
  横須賀地方隊横須賀造修補給所工作部武器工作科 技官 三上聖
 曳船乗員の安全は我々の手で
  横須賀地方隊横須賀造修補給所工作部武器工作科 技官 三島一介
 躊躇したならば作戦は実行できなかった
  横須賀地方隊横須賀造修補給所長 一等海佐 吉田伸蔵
11 司令部・指揮官たちの決断と試練
   「全隊員は本当によく期待に応えてくれた」
 東北へ急行しろ、責任は俺がとる!
  陸上幕僚長 陸将 火箱芳文
 海上自衛隊のすべての能力を活用した
  統合任務部隊海災部隊指揮官(横須賀地方総監) 海将 高嶋博視
 司令部は被災者と現場のために
  横須賀地方総監部防衛部長 一等海佐 内嶋修
 任務を完遂するためには・・・・
  統合幕僚長 陸将 折木良一
いかがでしょうか?
より突っ込んだ現場報告の聞き取りであり、自衛隊関係者
はもちろん、防災、防衛、安保、自衛隊周りで仕事を
している人は目を通しておいたほうがいいと思います。
また自衛隊ファンはもちろん、わが自衛隊が未曽有の
災害にどう立ち向かったか?を知りたい日本人すべてに
おススメできる本ですね。
こちらです↓
http://okigunnji.com/1tan/lc/isseki.html
「証言 自衛隊員たちの東日本大震災」
著:大場一石
単行本: 362ページ
出版社: 並木書房 (2014/2/10)
ISBN-10: 4890633146
ISBN-13: 978-4890633142
発売日: 2014/2/10
詳しくはこちらで↓
http://okigunnji.com/1tan/lc/isseki.html
エンリケ
余談
≪ブックガイド≫
”東日本大震災に出動した自衛隊”2部作
2冊そろえば、
あの未曾有の災害に出動した自衛隊現場の
全貌をつかめます。
陸を主に取り上げた、
荒木肇さん『東日本大震災と自衛隊』

今回紹介した、海空を主に取り上げる
大場一石さん『証言 自衛隊員たちの東日本大震災』
です。
もう一歩踏み込みたい、という方は、
史上最大の日米共同作戦「トモダチ作戦」を詳細に解説した
『写真で見るトモダチ作戦』(北村淳)をあわせ読むと
いいと思います。
『証言 自衛隊員たちの東日本大震災』
http://okigunnji.com/1tan/lc/isseki.html
『東日本大震災と自衛隊』
http://okigunnji.com/1tan/lc/arakisinsai.html
『写真で見るトモダチ作戦』
http://okigunnji.com/1tan/lc/optomodachi.html