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創刊2000年10月のメールマガジン「軍事情報」です。

□はじめに

こんにちは。長南です。
今週月曜日6月4日、森本敏・拓殖大学大学院教授が民間人初の防衛大臣に任命されました。筆者の修士論文を審査していただき、拓殖大学大学院卒業後も外務省委託研究をご一緒にやらせていただいた経験がありますので、感慨ひとしおのニュースでした。

森本氏には民主党政権下で大きな亀裂が入った日米同盟関係を修復するなど、ご活躍を期待したいと思います。

▽前回までのあらすじ

前々回と前回の二回にわたって、マッカーサーと彼を取り巻く極東軍司令部参謀部の幕僚たちが、統合参謀本部や国務省の反対を押し切ってクロマイト作戦を立案・実施し成功させた経緯を説明した。

その過程で明らかになったのは、マッカーサーが反対意見に耳を貸さないだけではなく、自身の構想に反対する人物を注意深く政策や作戦立案過程から遠ざけていたということであった。その例の1つとして、ジェイムズ・バーンズ国務長官がマッカーサーを監視する目的で派遣したジョージ・アチソン上級代表がマッカーサーから冷遇された事例を説明した。

▼国務省北東アジア部次長ウラル・ジョンソンが見たマッカーサーとその幕僚

以前の連載では詳しく紹介できなかったが、国務省北東アジア部次長ウラル・アレクシス・ジョンソンの回想録『The Right Hand of Power: The Memoirs of an American Diplomat』(『ジョンソン米大使の日本回想』、草思社、1989年)には次のようなマッカーサーの「独裁者」ぶりを示す次のような一節がある。

「彼[ジョージ・アチソン]は用意周到なやり方で、ほとんどあらゆる面からアチソンを締め出そうとした。われわれの事務所はマッカーサー司令部から八ブロックも離れたところに置かれた。それは戦略的措置であり、ワシントンとの交信は、すべて連合国最高司令官(SCAP)を介さねばならなかった。時折、マッカーサーのスタッフがどうでもいいような情報を流してくることはあったものの、われわれは基本的な政策決定からは完全に排除された。」

「マッカーサーの独裁的なやり方とは、[中略] 国務省の人間を権力の中枢から排除し、十分な訓練も受けていない陸軍将校に代替させることを意味した。」

確かに、マッカーサーが政治能力を持たない典型的な軍人であったならば、ジョンソンが指摘するこうした欠点も戦争指導上、大きな災いをもたらすこともなかったであろうが、マッカーサーが「政治的」な軍人であったことが、米国の朝鮮での失敗に大きな影響を与えることにつながった。というのも、マッカーサーは確かに天才的な人物であったが、天才的な人物にありがちなように自己中心的な人物でもあったからである。この点に関し、ジョンソンは次のように書いている。

「彼[マッカーサー]は大変な自己中心主義者であり、小心なごますり連中に取り巻かれていた。そうしたおべっか使いたちは、ひとかどの人物だと認めた者を『部外者』と見なし、そうした人間の助言や質問を極端なまでに嫌悪した。ワシントンからの指令は、あたかもマッカーサーが通常の指揮系統の枠外であるかのように(あるいはむしろその上に位置するかのように)つねに操作され、マッカーサーのイメージにプラスになるような場合にのみ、その指令に従ったのである。」

さらに、ジョンソンの回想によれば、「マッカーサーの宮廷の外にいる将官たちは簡単に解雇」され、そうした将軍たちの功績は「マッカーサーの執念深い自己宣伝によってかき消されて」いたという。

ジョンソンの回想にはマッカーサーとその「取り巻き」が朝鮮戦争で失敗した原因が集約されているといえよう。

▼クロマイト作戦の成功とマッカーサーの増長

さて、クロマイト作戦の成功と同作戦と連動して行われたスレッジハンマー作戦による米第8軍の釜山橋頭堡からの反撃は、朝鮮戦争の性格をマッカーサーに有利な方向へと劇的に転換させた。しかし、この幸運な成功はより不吉な効果も伴っていた。というのもマッカーサーとその幕僚たちがマッカーサーの大戦略に疑義を呈する将校たちを沈黙させる結果をももたらしたからである。

ジェームズ・ドイル提督のような極東軍司令部の幕僚からの反対だけでなく、ワシントンの統合参謀本部からの仁川上陸作戦計画に対する激しい抵抗に打ち勝って作戦を実施し大成功を収めたことで、マッカーサーと彼のお気に入りの幕僚たちは自身の意見とは対照的な意見を以前にも増してますます無視するようになった。

朝鮮戦争に従軍し、1950年当時、南部・東部支援群(Southern and Eastern Support Groups)を率いたジョン・ヒギンズ海軍少将は、1960年に当時の様子を以下のように書いている。

「あまりに容易であまりに劇的な成功の後に続いてやってきた酩酊状態が代償を要求することになるであろう」

ヒギンズ提督のいう代償は、ウイロビーとマッカーサーが毛沢東の目前に迫っていた反攻作戦を無視することにより、1950年11月に朝鮮半島北部の山岳地帯で支払うことになった。

▼クロマイト作戦の成功がもたらしたワシントンの影響力低下

クロマイト作戦の成功はマッカーサーが自身の戦略能力に自信を深めるだけではなく、ワシントンの政治・軍事の指導者層が現地で野戦軍を指揮する野戦軍司令官に対し行使可能な影響力を減少させる結果をももたらした。当時の陸軍長官フランク・ペースは、ペースに与えた仁川上陸作戦の効果について次のように書いている。

「統合参謀本部が、一様に、仁川上陸が間違ったアイデアであると考えていたことを、私は思い出す。私は統合参謀本部がマッカーサー将軍にその感覚を通知したと思います。 私が言えることは仁川上陸が成功した後、それがマッカーサー将軍の野戦指揮官としての能力に関し、私に対して非常に深い印象を与えたということである。」

つまり、クロマイト作戦の成功に幻惑されたのはマッカーサーとその寵臣ばかりではなく、ワシントンの政権中枢にいる人々もそうであったというのである。

しかし、陸軍次官補カール・R・ベンダーソンの意見はペースのマッカーサー観とかなり異なる。ベンダーソンは、「中国の大規模介入の事前準備に関するとても不利な情報報告」に直面しながらもマッカーサーが朝鮮半島に展開する部隊をクリスマスまでに欧州に再配置する約束をしたことに大きな衝撃を受けたという。ベンダーソンの見方では、マッカーサーは「クロマイト作戦の成功の後から自身を無敵」と見なすようになったという。

陸軍長官ペースのマッカーサーに対する評価が仁川上陸作戦の成功以降、劇的に向上した一方で、統合参謀本部はマッカーサーに対し慎重な評価を崩すことがなかったが、統合参謀本部はマッカーサーを統制するために本来統合参謀本部が持っている権威を発揮することができなくなった。

▼「マッカーサーを止めるものはなにも存在しない」

この点に関し、国務省フィリピン・東南アジア局に勤務していたアジア問題の専門家ジョン・メルビーはアジア問題のエキスパートとしての観点から観察して次のように述べている。

「この問題で私が疑っていたのはマッカーサーが統合参謀本部との関係である種の神秘的雰囲気を漂わせていたということである。それはマッカーサーがそうすることを望んでいたことであり、誰も「ノー」とは言うことができなかった」

メルビーはこれに続けて仁川上陸作戦が統合参謀本部に対して与えた衝撃について以下のように述べている。

「仁川上陸は素晴らしいまぐれであり、それはうまくいってしまった。仁川上陸以降、マッカーサーを止めるものは何も存在しない」

クロマイト作戦の成功は、国連軍が38度線を越えて北朝鮮に侵入したときに、中国の戦略方針についてマッカーサーの評価と異なる分析結果をもたらすことになったであろう人々の口を封じる上で大きな効果を発揮したのである。

▼国連軍38度線越境に対するトルーマン政権の懸念

マッカーサーが仁川上陸作戦の完全成功によって外部の批判から自身を遮断する一方、38度線を越えて北朝鮮に侵攻するというマッカーサーの決定は、ワシントンの政権中枢に国連軍の前身の結末に関する懸念を生じさせた。

この懸念は朝鮮半島での武力行使に関する国連安全保障理事会のマンデートから生じていた。国連安全保障理事会は、国連軍に「韓国が武力攻撃に対して自衛するのを支援する」ことしか許可していなかったのである。

トルーマン政権は、本来の北朝鮮と韓国の国境を越境して北朝鮮軍を追跡する権限も含まれるというようにこのマンデートを拡大解釈していた。しかしながら、国際法の専門家によるこうした法的意見にもかかわらず、トルーマン大統領とその補佐官たちは、国連軍による北朝鮮領への侵攻はソ連や中国が戦争に参戦することを促すことになるかもしれないとの懸念を抱いていた。

(以下次号)

(長南政義)

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