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ウェーク島会談でのトルーマンとマッカーサー

ウェーク島会談でのトルーマンとマッカーサー

□はじめに

 前々回、前回の二回にわたり、マッカーサーやトルーマンとその補佐官たちがウェーク島会談で示した見解についてみてきた。マッカーサーのように「クリスマスまでに」戦争は終わるとの楽観論を示す者もいれば、ウィロビーの情報評価を信じてマッカーサーに対し朝鮮半島に展開する「第二師団か第三師団を1月までに欧州へ投入するために利用できないだろうか?」と圧力をかけた統合参謀本部議長ブラッドレー陸軍元帥のような人物もいた。

 一方、軍人たちの楽観論とは別に、ディーン・ラスク極東担当国務次官補は、国連軍が38度線を越えたら中国は米国に対し宣戦布告をするという周恩来らの中国政府要人が発した警告を重視して、中国の朝鮮戦争への介入を危惧する意見を述べた。

 大別すると、軍人たちの楽観論と国務省官僚たちの慎重論に分かれるようであるが、両者の意見が検討された結果、ウェーク島会談に参加したアクターたちは最終的にどのような結論を持つにいたったのだろうか。

 今回は、ウェーク島会談が国連軍に対して持った意味について考察し、本連載の最初で指摘した3つの問題点のうちの2つ目の問題点である「制度的機能不全」の考察を締めくくりたいと思う。

▼ウェーク島会談での結論

 ウェーク島会談で、東京の極東軍司令部首脳からワシントンの政策中枢まで一致した結論は、毛沢東率いる中国がいくつかの理由から朝鮮戦争に介入しないであろうというものであった。
 
しかし、ワシントンの情報担当者がウィロビーにより提供された情報日報(Daily Intelligence Summary:DIS)を鵜呑みしたため、ワシントンが独自の情報源に基づいてウィロビー提出の情報日報を精査することがなかったため、これらの理由は、インテリジェンスの専門用語でいう「使いまわされた情報(the circular nature of the reporting)」という欠陥を抱えていただけではなく、ウィロビーのミラー・イメージングを反映させた内容でもあった。

 たとえば、大規模な人民解放軍が満州に集結中であるなどの、中国が朝鮮半島に人民解放軍を投入するかもしれないことを示す多くの兆候を前にして、中国が朝鮮戦争に介入する意図を示すものではないとの結論を出した主たる論拠は、

1、毛沢東が、中国共産革命の成功に脅威を与え、中華人民共和国の国連加盟の可能性(この当時、国連から正式な中国政府と見なされ国際連合の代表権と安全保障理事会常任理事国の座を保持していたのは台湾に逃れた蒋介石率いる中華民国であった)を低下させる米国との大規模軍事衝突

を恐れるとともに、

2、中国政府指導部が、近代化された装備を有する米国と人海戦術に頼る人民義勇軍との軍事衝突はソ連からの大規模な空軍力および海軍力支援がない限り人民義勇軍に大損害を発生させる結果になるだろう

ことを恐れた点にあった。

 会談に参加したすべてのアクターが、「朝鮮での戦争は間もなく終わる」と信じて、ウェーク島会談は閉幕した。マッカーサーは鴨緑江を最終進出地点とする攻勢計画のプランニングをこれまで通り継続したし、統合参謀本部は朝鮮半島から冷戦が激化し戦略的懸念が高まりつつあった欧州への部隊の再配置を待ち焦がれていた。

 しかし、ウェーク島会談が終了して間もなく、ウェーク島でマッカーサーがトルーマン大統領やブラッドレー統合参謀本部議長らに示した楽観論は、不気味に迫りつつあった11月の人民義勇軍の反攻を受けることになる国連軍の運命に重要な影響を与えることになった。

▼戦後の占領計画:作戦計画202

 ウェーク島会談からわずか5日後、マッカーサーの司令部は、「作戦計画202」と名付けられた戦後計画を出した。作戦計画202には、事実上、極東軍司令部の指揮下にある国連軍部隊が、北朝鮮をどのように占領するのかが書かれていた。

 マッカーサーは、作戦計画202において、米陸軍の一個師団・韓国陸軍部隊・米軍人顧問団で構成される第10軍団を北朝鮮占領部隊に指定していた。作戦計画202によれば、これ以外の米軍および国連軍部隊は、欧州戦域へ迅速に部隊を移動させるために「可及的速やかに」朝鮮半島を引き揚げることになっていた。

 作戦計画202に見られるこの作戦コンセプトは、統合参謀本部議長ブラッドレー陸軍元帥がウェーク島会談でマッカーサーに対して発した要請に答えるものであった。そして、作戦計画202が出されてから1日後、米第二歩兵師団および米第三歩兵師団は、部隊を必要としているほかの地域に投入されるため、朝鮮半島における戦闘行動が終了したら即座に太平洋戦域から引き上げることになると、統合参謀本部は極東軍司令部に通知した。

統合参謀本部議長ブラッドレー陸軍元帥はウェーク島でマッカーサーに対して要求した「第二師団か第三師団を1月までに欧州へ投入するために利用できないだろうか?」という自己の方針を、朝鮮戦争が中国の参戦によりこれから本格化しようとするまさにその時に実現しようと試みたのである。

▼国連軍全体に広がる楽勝ムードという感染症
  ~「韓国に既にある弾薬だけで北朝鮮を始末できる」~

 朝鮮半島では、ウェーク島会談が重要な戦術的意味合いを持った。というのも、ウェーク島会談が、朝鮮半島に展開する国連軍に所属する部隊指揮官たちの間で、戦争はもうすぐ終わるという敵軍に対する優越感に満ちた勝利ムードを共有させる結果をもたらしたからである。

 1950年10月22日、ウォーカー陸軍中将を司令官とする米第8軍は、もはや砲弾が朝鮮半島では必要とされていないことを理由に、韓国の港へ向けて砲弾を運搬している途中にあった6隻の輸送船を米本土に引き返させたいとの要請をした。

ウェーク島会談後に感染症のように朝鮮半島にも拡がった戦争は最終段階にありもう間もなく終了するという悪性流感は、仁川上陸作戦実施の際にマッカーサーに対し反対意見を述べたウォーカー陸軍中将にも感染し、米第8軍の兵站準備をおろそかにさせたのである。

この点に関し、本連載でも何度か登場した、ジェームズ・シュナーベルは、次のように書いている。

「韓国に既にある弾薬だけで北朝鮮軍を始末できるし、戦後の需要も賄うことができるとウォーカーは信じていた。」

 マッカーサーの司令部はこの要求に応じる形で輸送船の針路をハワイへと転進させた。そしてそれからわずか3日後には、米第2歩兵師団長のローレンス・カイザー陸軍少将は、当師団はクリスマス前に本国へ移転せよとの命令を受領したと、配下の将校たちに告げている。この師団長の発言は、数週間に及ぶ激戦で疲れ切った師団将兵たちの間に燎原の火の如く拡がった。

 国連軍を構成する米軍以外の各国も、朝鮮戦争は終末期にあるというイメージを共有した。英国は、機甲連隊である第8騎兵連隊の撤退を検討すると共に、すでに部隊の一部が10月4日に韓国に派遣されていた第29歩兵旅団の残部部隊の派遣見合わせを検討した。

英国軍首脳にとっても第8騎兵連隊の朝鮮半島撤退は、理に叶った処置のように思われた。というのも、戦車が必要となるような局面はもはやはるか過去のもののように思われたからである。

 しかし、その後の国連軍にとって幸運なことに、米陸軍参謀総長ロートン・コリンズ陸軍大将が、英軍の説得に乗り出し、第29歩兵旅団の残部を韓国に派遣させることに成功した。同旅団に残された戦車や装甲車といった装甲車輛は後に英軍の危機を救うことになった。

▼制度的機能不全はなぜ生じた?

 十数回の連載で考察してきたように、毛沢東率いる中国共産党は朝鮮戦争に介入しないであろうというウィロビーによる致命的な分析ミスを惹起させた主たる制度的要因は、

(1)朝鮮半島での情報収集活動をウィロビー率いる極東軍司令部参謀第二部が中央集権的に独占していたこと

(2)極東軍司令部内に存在した「よそ者」の意見を嫌悪し排除しようとする排他的な組織風土

(3)マッカーサー主導の攻勢作戦を実施し、戦争を可及的速やかに終結させたいという焦燥感

(4)仁川上陸作戦の大成功が、ウィロビーに代表されるマッカーサーの寵臣たちをして、極東軍司令部内に存在したマッカーサーの方針に異議を唱える声を沈黙せしめたこと

などである。

 ウィロビーは朝鮮半島におけるCIAによる情報収集活動を意図的に妨害し、その結果、マッカーサーとウィロビーが発する声のみがワシントンの政府要人の耳に入ることを確実にした。

 こうした環境が、朝鮮半島におけるCIA独自の情報源に基づく情報収集分析活動を妨げる効果を産み出し、結果として、独自の情報収集活動を妨害されたCIAの報告書はウィロビーの分析結果をただ単に反映させる内容となってしまった。つまり、複数の情報収集組織から別々の調査報告書が提出されているように見えて、実際は、同じ内容が繰り返させるという「使いまわされた情報」という典型的な「情報の失敗」が生じたのである。

 そして、このような欠陥がさらに増幅される結果をもたらしたのが、ウェーク島会談であった。中国は朝鮮戦争に参戦しないというウィロビーの分析は、ウェーク島会談の参集者たちに対し強い印象を与えるとともに、やがて襲いくる人民義勇軍の反攻作戦を撃破するために必要な国連軍の戦闘能力を劇的に減少させる二次的効果を創出した。

 既述したように、ワシントンにまで蔓延した楽勝ムードは、統合参謀本部に朝鮮半島からの戦闘部隊抽出を決断させ、米第2歩兵師団のような戦闘部隊の中に油断を惹き起こし士気の弛緩を発生させた。
 
そして、朝鮮半島に到着するはずであった数千万トンの弾薬輸送中止の決定は、人民義勇軍が人海戦術を使用し北朝鮮の凍てついた山岳地帯に展開する疲弊しきった国連軍を攻撃した際に、国連軍に高い代償を支払わせる結果となった。

 中国の参戦可能性に関してウィロビーの分析結果と正反対の見解が書かれた情報分析報告書が入手できず、極東軍司令部の寵臣がマッカーサーに無条件の支持を与えたことで、マッカーサーは鴨緑江へ向かって破滅の道を歩み出したのである。

次回からは人的・政治的要因問題の分析に入ることとしよう

(以下次号)

(長南政義)

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