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武士道精神入門(7) –武士たちが遺した教え:戦国島津家の家訓–

time 2013/04/12

300px-Nihontou74▽ ごあいさつ

 こんにちは。日本兵法研究会会長の家村です。今回は「武士たちが遺した教え」の第三回目といたしまして、戦国大名島津家の初代として鹿児島の戦国期に大きな役割を果たした武将・島津忠良(出家名“日新斉”)が子孫と家臣団への精神教育として作った「いろは歌」と「みのほどをしれ」を紹介します。

 なお、戦国島津家や島津忠良について詳しく知りたい方は、拙著「戦術と戦略で解き明かす真実の日本戦史 戦国武将編」の第六章をご一読ください。

 それでは、本題に入ります

【第7回】武士たちが遺した教え:戦国島津家の家訓

▽ 日新公いろは歌

『い』 いにしへの道を聞きても唱へても
    わが行ひに せずばかひなし

 昔の偉い人たちの教えをいくら聞いたり唱えたりしても、それを行動に移さなければ何にもならない。

『ろ』 棲(ろ)の上もはにふの小屋も住む人の
       心にこそは たかきいやしき

 大きな屋敷であろうと、草葺(くさぶき)のあばら家であろうと、そこに住む人の心掛けが立派でさえあれば尊敬されるのである。

『は』 はかなくも明日の命を頼むかな
       今日も今日もと学びをばせで

 今日できることを明日、明後日へと延ばしていると結局はいつまでも出来ない。今日できることは必ず今日せよ。

『に』 似たるこそ友としよけれ交らば
       われにます人 おとなしきひと

 自分と同程度の人を友達にしたがるものであるが、なるべくならば自分よりも能力的に優れていて、思慮分別のある人と付き合うようにせよ。

『ほ』 仏神他にましまさず人よりも
       こころに恥ぢよ 天地よく知る

 仏も神も自分の心の中に住んでいるのであるから、自分の良心に恥じることなく正しい行動をせよ。誰も見ていないようで天地は必ず見て、知っているのである。

『へ』 下手(へた)ぞとて我とゆるすな稽古(けいこ)だに
       つもらばちりも やまとことのは

 いくら下手でも稽古をおろそかにしてはならない。「塵も積もれば山となる」の譬(たと)えどおり毎日少しずつ積み重ねれば必ず上達する。

『と』 科(とが)ありて人を斬るとも軽くすな
       活かす刀(かたな)も ただ一つなり

 罪人であっても軽々に処刑してはならない。活かして使うことを慎重に考えよ。

『ち』 智恵能は身につきぬれど荷にならず
       人はおもんじ はづるものなり

 人間の知恵や能力は、どれだけ身につけても無駄にはならないのだから、多くのことを学べ。沢山の能力を身に付けた人を世間の人は尊敬し自分の無知を恥ずかしがるものである。

『り』 理も法も立たぬ世ぞとてひきやすき
       こころの駒の 行くにまかすな

 たとえ理不尽で無法な世の中になっても、やる気を失ったり自分勝手な振る舞いに走ったりするな。常に自分の行動を正し、真直ぐに進むようにせよ。

『ぬ』 ぬす人はよそより入るとおもふかや
       耳目の門(かど)に 戸ざしよくせよ

 盗賊は外から入ってくるものと思いがちだが、本当の悪は自分の内にいる。聞いたことや見たことに惑わされたり、自分を見失ったりしないないように、心の戸締りをしっかりとしておけ。

『る』 流通(るつう)すと貴人や君が物語り
       はじめて聞ける 顔もちぞよき

 よく知っていることでも上司や目上の人の話は初めて聞くような態度を取れ。知っているからといって横柄(おうへい)な態度をとるな。

『を』 小車のわが悪業にひかれてや
       つとむる道を うしと見るらん

 人は欲望や情欲につい引かれしまい、何でもないことが辛くなって仕事をさぼり、悪行にはしってしまう。常に感謝の気持ちを忘れず、自分の務めをしっかり果たすようにせよ。

『わ』 私を捨てて君にしむかはねば
       うらみも起り 述懐もあり

 私心を捨て去り、無の心で君主に仕えるようにせよ。私心があれば私利私欲に走り、不平不満を言うことになる。

『か』 学問はあしたの潮のひるまにも
       なみのよるこそ なほ静かなれ

 勉学に励むには、朝でも昼でもよいが、すべてが眠る夜の静けさほど適した時はない。

『よ』 善きあしき人の上にて身を磨け
       友はかがみと なるものぞかし

 他人から善いことは見習い、悪いことは反面教師として自分自身を磨け。その意味で、友達は自分を映す鏡ともなる。

『た』 種となる心の水にまかせずば
       道より外に 名も流れまじ

 欲望の心を捨て、良心に従って行動すれば、道を外さず名も汚さない。いかなる時も心が迷い煩(わずら)うことのないようにせよ。

『れ』 礼するは人にするかは人をまた
       さぐるは人を 下ぐるものかは

 相手に応じて礼を尽くしたり、その逆に見下げたりすることは、結局は自分の価値を下げることになる。誰に対しても謙虚さと礼儀正しさをもって接すること。

『そ』 そしるにも二つあるべし大方は
       主人のために なるものと知れ

 主人を悪く言うのにも、諌(いさ)める心からのものと単なる不平不満からのものがあるが、その多くは主人の為になるのであるから寛大な心で受けとめて、反省すべきである。

『つ』 つらしとて恨みかへすな我れ人に
       報ひ報ひて はてしなき世ぞ

 人から辛い事をされたからといって、自分からやり返してはならない。報復がさらなる報復を呼び、果てしなく争うことになる。

『ね』 ねがはずば隔てもあらじいつはりの
       世にまことある 伊勢の神垣

 嘘いつわりの多い世の中にあっても、真心をもって自分の本分を尽くせば、お伊勢さま(天照大御神)は分け隔てなく守護してくださる。

『な』 名を今に残しおきける人も人
       こころもこころ 何かおとらん

 後世にその名を残すような立派な人も、同じ人間である。自分も努力すれば同じ心になれる。自分の進むべき道でしっかりと修養をつめ。

『ら』 楽も苦も時過ぎぬれば跡もなし
       世に残る名を ただ思ふべし

 人生の苦楽はその時だけのものだが、名は後の世に残る。世のために尽くし、子孫によい名を残すようにせよ。

『む』 昔より道ならずして驕(おご)る身の
       天のせめにし あはざるはなし

 その道に達してもいないのに奢(おご)り高ぶる人には必ず天罰が下る。自信過剰にならず、謙虚に、地道に努力して生きよ。

『う』 憂かりける今の世こそはさきの世と
       おもへばいまぞ 後の世ならん

 今の世の中の苦楽は前世の生き様から来る。今の世を一生懸命、正しく生きることで、来世が素晴らしい人生になる。

『ゐ』 亥(ゐ)に臥(ふ)して寅には起くと夕露の
       身を徒(いたづら)に あらせじがため

 夜は十時に寝て朝は四時に起きるというのは、夜更かしをして身体の健康を不必要に害さないようにするためである。

『の』 遁るまじ所をかねて思ひきれ
       時に至りて 涼しかるべし

 とても逃れることのできないときには思いきって決断せよ。命を捨てる覚悟であたれば、恐れていた時がきても爽やかですがすがしい気持ちでいられる。

『お』 思ほへず違(たご)ふものなり身の上の
       欲をはなれて 義をまもるひと

 私利私欲を捨てて正義、道義を守って生きている人は、何かしら凡人とは違う風格がある。

『く』 苦しくもすぐ道を行け九曲折(つづらおり)の
       末は鞍馬(くらま)の さかさまの世ぞ

 どんなに苦しいことに出会っても、正しい道を進め。曲がった道を進めば最後には必ず自分の身を滅し、憂き目にあうことになる。

『や』 やはらぐと怒るをいはば弓と筆
      鳥にふたつの つばさとを知れ

 優しさと厳格さは、いわば弓(武)と筆(文)の関係であり、鳥が二つの翼で飛ぶようなものである。この二つを上手く使いわける人が、人の心を動かす。

『ま』 万能(まんのう)も一心とあり事(つか)ふるに
      身ぼし頼むな 思案堪忍

 どんなに才能があっても心が正しくなければ役にたたない。人に仕えるときは才能を自慢せず、よく思案して忍耐強く仕えよ。

『け』 賢(けん)不肖用ゐ捨つるといふ人も
       必ずならば 殊勝(しゅしょう)なるべし

 賢い人を使い、愚かな人を捨てるのであるが、人柄や才能をできるだけ公平に見て必ず殊勝(けなげで、特に優れている)な人物を取り立てるようにせよ。

『ふ』 無勢(ぶぜい)とて敵を侮(あなど)ることなかれ
       多勢を見ても 恐るべからず

 小人数だからといって敵をあなどってはならない。大人数だからといって敵を恐れてなはらない。

『こ』 心こそ軍(いくさ)する身の命なれ
       そろふれば生き 揃(そろ)はねば死す

 将兵の心こそが戦いの勝敗を決定する。皆の心がひとつにそろえば勝ち、バラバラであれば負けるのである。

『え』 回向(えこう)には我と人とを隔つなよ
       看経(かんぎん)はよし してもせずとも

 戦死者は敵味方の分け隔てなく供養して冥福を祈れ。こうした慈悲の心さえあれば、経文は読んでも読まなくてもよい。

『て』 敵となる人こそはわが師匠ぞと
       思ひかへして 身をも嗜(たしな)め

 気の合わない人や敵意を抱いている人には近づきたくないが、そういう人こそ師匠なのだと思うことで、我が身を悟すようにせよ。

『あ』 あきらけき目も呉竹(くれたけ)の此世より
       迷はばいかに 後のやみじは

 物事を公正に見ていた目も、目先の欲にとらわれて曇れば迷うことばかりになる。こうして犯したこの世の罪は来世にまでも暗い影響を及ぼすことになる。

『さ』 酒も水ながれも酒となるぞかし
       ただ情あれ 君が言の葉

 飲み交わす酒もただの水となって酔えず、酒は無くても心から酔いしれることもある。大切なのは君主の言葉の一つひとつに深い情(なさ)けが感じ取れることなのである。

『き』 聞くことも又見ることもこころがら
       みな迷ひなり みなさとりなり

 耳で聞き、目で見て得られることは、全て受け取る側の心がけで変わる。我を通せば迷いになり、謙虚に受け入れれば悟りになる。

『ゆ』 弓を得て失ふことも大将の
       こころひとつの 手をば離れず

 大将の心ひとつで軍の意気が上がったり、衰退したりするのであるから、よく部下の心をつかんで離れていかないようにせよ。

『め』 めぐりては我が身にこそは事(つか)へけれ
       先祖のまつり 忠孝の道

 先祖を供養すれば、やがて子孫も自分を供養してくれるように、先祖の霊を祭り、君主に忠節を尽くし、親に孝行を尽くすことが廻(めぐ)って我が身にかえってくる。

『み』 道にただ身をば捨てんと思ひとれ
       必ず天の 助けあるべし

 自分が進むべき道に身命を捨てる覚悟であたれば、必ず天が助けてくれる。何事にも命がけで当たれ。

『し』 舌だにも歯のこはきをば知るものを
       人はこころの なからましやは

 舌でさえ歯のかたいことをよく知っているから歯に噛まれない。ましてや人は心に抱く怨嗟(えんさ)の念がいかに恐ろしいかを知らずにいられよいうか。常に相手の立場をよく考えて心を害さぬように心がけよ。

『ゑ』 酔(ゑ)へる世をさましもやらで盃(さかずき)に
       無明の酒を かさぬるは憂し

 国家百年の大計も無いまま目先の繁栄に酔いしれる世の中において、ものごとを知らず真理に暗いままで酒びたりになっているのは憂うべきことである。

『ひ』 ひとり身をあはれと思へ物ごとに
       民(たみ)にはゆるす 心あるべし

 一人身で孤独に生きる者をあわれむようにし、あらゆることにおいて民衆に対する慈悲と赦(ゆる)しの心を持つようにせよ。

『も』 もろもろの国やところの政道は
       人にまづよく 教へならはせ

 いろいろな国や地方の政治の道というものは、まず人民に十分な教育を施し、よく知らしめなければならない。

『せ』 善に移り過れるをば改めよ
       義不義は生れ つかぬものなり

 人の善し悪しは生れつきのものではないのだから、自ら善人になるよう努め、過ちがあれば改めるようにせよ。

『す』 少なきを足れりとも知れ満ちぬれば
       月もほどなく 十六夜(いざよい)のそら

 月が十五夜に満月になっても翌日の十六夜からはかけ始めるように、欲深くならずにほどほどで満足するようにせよ。

▽ みのほどをしれ

『み』 見きくこと人の上とてそしるなよ
       後は我身に むくひこそすれ

『の』 のがれ得ぬ命を惜しむ人はただ
       真の道を 知らぬゆえなり

『ほ』 ほしくとて無理をいひとる人の身は
       只、霜枯の 草の如くに

『と』 ともだちと思ひながらも敵を見よ
       親子ならでは 心ゆるすな

『を』 怠らず我が道々をする人は
       何につけても たのもしきかな

『し』 知らぬことものいひだてをする人は
       後は我身の あだとこそなれ

『れ』 連々(つれづれ)に主人親子の間には
       ただ忠孝の 道を案ぜよ

(「戦国島津家の家訓」終り)

(いえむら・かずゆき)

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