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創刊2000年10月のメールマガジン「軍事情報」です。

はじめに
 外人部隊はフランス陸軍の一部ですが、私が在籍している6年半のあいだ、フランス国歌を歌うことも習うこともありませんでした。そこで先日、フランス国歌「ラ・マルセイエーズ」をYouTubeで覚えました。

 フランスは、自衛隊試験に落ちて日本を出た私を受け入れてくれましたし、私はこの国のために自ら進んで生命を危険にさらしました。フランス国歌を覚える価値はあります。
 それにしても歌詞がすごいです。「市民よ、武器をとれ。部隊を結成せよ」など。歴史が反映されています。

 ちなみに、私は「君が代」も大好きです。

戦傷者Part2

 プルキエ少佐とミッサニ伍長は低い体勢で負傷者のもとまで走ってきて伏せた。いつまた銃撃が始まるかわからない。必要以上に高い姿勢はとらないほうがいい。

 2人が負傷者にたどり着いたとき、ブルガリア人のナコフ伍長が負傷者を畑の段差の陰に引きずり込み、仰向けに寝かしていた。すぐそばでブラジル人のダ・シルバ一等兵が、伏せてFAMASを構え、援護している。

「どこを撃たれた?!」少佐がナコフに尋ねる。

「頭です!」
 少佐とミッサニは負傷者の額に小さな射入口を見つけた。血は垂れ出しているが、吹き出すほどの勢いではない。しかし、負傷者の咳により、口からは血が吹き上がっていた。
 2人が治療を始めるのと同時に、ナコフは負傷者のもとを離れ、ダ・シルバの2~3mとなりに伏せ、援護に加わった。

 銃撃戦が再び始まった。

 弾丸の飛び交う下で、少佐とミッサニは伏せたまま負傷者に対処した。まずは頭部のケガだ。額に射入口があるということは、射出口が後頭部にあるだろう。

 少佐が負傷者のヘルメットを外すと、左後頭部に500円玉くらいの大きさの射出口があった。ミッサニは負傷者のアーマーにある、赤十字マークのついた小型ポーチからイスラエル製圧迫包帯を取り出した。原則として、負傷者本人の医療キットを使用する。

 圧迫包帯には出血部位に当てるためのパッドの部分がある。ミッサニはパッドを後頭部の射出口に当てると、バンドを巻き始めた。伏せたまま巻くのは難しい。少佐が頭を支えたりして、ミッサニの作業を手伝う。

 圧迫包帯は、射入口もふさぐように巻かれ、撃たれた穴から流れ出る血は止められた。内出血があるが、ここではどうしようもない。

 内出血により、まぶたが腫れ、鼻孔や口から血が出ている。はやく弾丸の届かないところまで負傷者を運び、やりやすい姿勢で治療をしたいが、銃撃戦のさいちゅうなので、伏せたまま治療をつづけるしかない。

 少佐は気管切開キットをバックパックから取り出した。喉に血が入っており、気道を確保する必要がある。少佐は専用のメスで負傷者の喉に小さな切込みを入れ、そこから気管のなかに直径5mm、長さ10㎝くらいのチューブを差し込む。

 チューブの最後部には、小さなヒレのようなストッパーがついており、チューブ全体が気管に入ってしまわないようにしてある。さらに最後部は、「アンビュバッグ」と呼ばれるラグビーボール状の風船のような、揉むことで空気を送りこむ器具が接続できるアダプターにもなっている。

 いっぽうミッサニは負傷者のアーマーを脱がす作業に取りかかっていた。搬出するのに防弾装備や銃は負担となる。装備類は、搬出する人員以外の者が担当する。

 我々の着用しているパラクリート社製のアーマーは、右胸の端にふっくらした四角いパーツがあり、それをひっぱるとパーツに連結している細いケーブル3本が引き出される。ケーブルがアーマーから引き抜かれると、アーマーは前面と後面の2つに分解され、簡単に脱がすことができる。

 ミッサニはケーブルをひっぱった。アーマーは分解されない。ケーブルが完全に抜けていないのだ。しかし、ミッサニはケーブルを少し引くだけでアーマーが分解されると思い込んでいた。

 ケーブルの分解システムが不良品だと思ったミッサニは、分解をあきらめて、普通にアーマーを脱がせる方法をとることにした。マジックテープによる結合をはがし、アーマーの両脇の連結は解けたが、両肩部分の連結はケーブルにより固定されているので解けなかった。

 ミッサニは、気管にチューブを差し込み終えた少佐と協力し、アーマー前面を持ち上げ、戦車の上部ハッチを開けるような動作で、頭部側に開いた。そうして頭部をアーマーから抜き、やっと負傷者からアーマーを脱がすことができた。

 少佐は、畑の隅の土塀にいる第4小隊の副小隊長オラチオ上級軍曹に、負傷者搬出のために2人の戦闘員を回すように要請した。ここから数十メートル移動すれば、弾丸の飛んでこない通路に入れる。

 2人の人員を待つ時間を無駄にしないため、少佐は点滴を実施することを決めた。負傷者は多量に吐血したため、失った血を補う必要がある。

 ミッサニが負傷者の右袖をハサミで切りはじめ、少佐が近くに転がっていた負傷者のバックパックから点滴キットを取り出し、生理食塩水の入った輸液バッグにチューブを取りつけ、準備をする。

 ミッサニが負傷者の右上腕にゴム製の駆血帯を締めると、静脈がくっきりと浮きでてきた。前腕の静脈に狙いを定め、カテーテルを刺す。カテーテルは外れることなく静脈内に刺し込まれた。

 ミッサニは、刺した部分より数センチ上の静脈を指で圧迫し、カテーテル内の誘導針を抜いた。圧迫しなければ、誘導針を抜いたところから血が垂れだす。

 少佐は輸液チューブの先端をミッサニに差し出す。ミッサニはあいている右手で受けとり、カテーテルに接続し、駆血帯を外した。そして、少佐がクランプ(輸液チューブを圧迫し、液体が流れるのを止める部分)をゆるめると、点滴筒(チューブ上部にある直径2㎝くらいの筒)のなかを生理食塩水がポタポタと流れはじめた。ちゃんと静脈内に注入されている。

 ミッサニと軍医はカテーテルが前腕から外れないように、テープを貼ったうえに包帯を巻き、しっかりと固定した。そして、2人の戦闘員が到着すると、医療バックパックを背負い、4人で負傷者を運びはじめた。どのように運んだか聞いていないが、ほとんど引きずる感じになっていただろう。

 少し畑を進み、土塀を越え、20mほど離れた通路に負傷者を寝かした。通路は壁に挟まれ弾丸は届かないと思われる。

 少佐とミッサニは負傷者を見て愕然とした。そんなに粗い搬出をしたつもりはなかったが、頭部の圧迫包帯も、喉のチューブも、点滴も外れて無くなっていた。いちからやり直しだ。

 負傷者は声を出さずに、モゾモゾと苦痛にもがいている。鼻孔や口、そして喉の切込み穴からは、血が出てきて泡を立てたり、また内部に戻ったりしている。血に少々邪魔されながらも呼吸しているということだ。

 少佐はミッサニに再度点滴を施すよう指示すると、医療バックパックから縫合キットをとりだし、後頭部の射出口を縫い始めた。搬出のために来た戦闘員の1人が頭部を支える。

 ミッサニが新たな点滴を施し、カテーテルやチューブをテープや包帯で固定しているあいだに、少佐は射出口の縫合を終えた。3針縫った。あとは射入口だ。

 そんなとき、再び銃撃音が響いた。段々畑のほうだ。ここは壁があるので大丈夫だろう。

“ビシッ”

 大丈夫ではない。土壁の上部に弾丸が撃ち込まれた。少佐はもう少し遠ざかるべきだと判断し、4人で負傷者を運び、さらに5mほど進み、角を曲がり、10mくらい進んだ。

 負傷者を降ろし、少佐とミッサニは再び愕然とした。また点滴が外れていた。平らな通路を15mほど進んだだけなのに・・・。もしかしたら、誰かの銃やポーチがチューブに引っ掛かって外れたのかもしれない。

 ミッサニが3個めの点滴の準備を始めようとすると、少佐は言った。
「点滴チューブを切って、15㎝くらいのチューブを何本か作ってくれ。」

 ミッサニは不思議に思いながらも、チューブの切り出し作業を始めた。いっぽうの少佐は射入口の縫合を始める。2針縫った。これで「圧迫包帯が外れる」などの心配はいらなくなった。

 ミッサニが15㎝ほどのチューブができたことを伝えると、少佐はチューブを1本とり、負傷者の喉の切込みに刺し込み、最後部と喉の皮膚を安全ピンで刺して留めた。チューブが気管内に入りこむことを防ぐためだ。しかも抜けることもないだろう。

 ミッサニは少佐のこのアイデアに驚愕したという。2人の医療装備に1個しかなかった気管切開キットを紛失し、どうしようもないと諦めるのではなく、別のもので即製する少佐を彼も私も尊敬せずにはいられない。

 少佐が2本めのチューブをとる。1本では、直径が小さく、通る空気の量はわずかだろうが、何本か差し込めば、より多くの空気が通る。注射針を何本か刺して助かった例もあるくらいだ。

 そんなとき、少佐とミッサニは20mほど離れたところから大声を聞いた。

「少佐殿、今行きます!」

こうして私が応援のため、合流した。

(つづく)

(のだ・りき)

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