メールマガジン「軍事情報」のホームページ

創刊2000年10月のメールマガジン「軍事情報」です。

伝統墨守・唯我独尊について

time 2006/06/19

【質問】

3自衛隊を表現することばとしてよく使われる

陸:「用意周到・頑迷固陋」
空:「勇猛果敢・支離滅裂」
海:「伝統墨守・唯我独尊」

について、陸と空は理解できますが、海についてはその意味するところがよくわかりません。関係者の方に解説いただけないでしょうか。

【回答:ヨーソロさま】

「伝統墨守・唯我独尊」ですが・・・「伝統尊重・唯我独尊」という言い方も聞いたことがあります。

どちらにせよ、海上自衛官が自分で言出したことではないでしょうが、三自衛隊の特徴の比喩的表現としてよく使われています。私自身は、海自OBとして、この言葉にあまり悪い印象は持っていません。(^-^;)ゞ

以下に、私の承知している各言葉の由来を書いてみます。

1 まず、陸自の「用意周到・頑迷固陋」ですが・・・

 昭和25年に警察予備隊が発足したとき、旧陸軍を一切否定して米陸軍のやり方を採用することから組織づくりが始りました。これは当時の時代風潮からやむを得ぬ面もあったでしょうが、この雰囲気は陸自時代になってからも継続され、防大卒業生が各部隊に配属され始めた頃でもまだその気分は色濃く残っていました。
 
 旧軍の軍歴のある方々は既に3佐[少佐]以上の階級になっていましたが、歴史観、戦術思想、教育訓練、生活指導等の考え方で旧内務官僚出身の高級幹部と戦後世代の初級幹部からの板挟みにあってイヤな想いをするようなことも随分とあったようでした。
 
 しかし、昭和40年代に入ってからはこの風潮も徐々に薄れ始め、旧軍の良かったところも少しづつ取込まれ、現在ではほゞ落着くところに落着いているように感じられます。
 
 このような言わば「いじめられっ子」のパブロフ的防御反応として、陸自の「用意周到・頑迷固陋」が醸成されたように感じています。

2 次に、空自の「勇猛果敢・支離滅裂」ですが・・・
 
 空自は旧陸海軍の航空部隊の歴史が比較的浅かったこともあり、陸自より更に素直に米空軍方式を取入れました。米空軍自身が戦後になって陸軍から独立し、航空技術革新の速さと相俟って、陸軍とは異なることをことさらに強調していた事情も反映されています。言わば日米共に根無し草的な発足と発展の歴史であったと言えましょう。
 
 これに加えて陸軍航空士官学校出身者と海軍兵学校出身者の対立がありました。旧陸海軍の航空関係者が混然一体となって新空軍の建設に携りましたが、新制度の導入や教育訓練等において旧陸海軍の反目をそのまま引継いだようなテンヤワンヤが展開されました。この後遺症は前述の陸自よりもむしろ長く尾を引いたかも知れません。
 
 この旧陸海軍の亡霊のような競争心と近親増悪が「勇猛果敢・支離滅裂」の由来なのですが、今ではもう少し良い意味に昇華しているようでご同慶の至りです。

3 そして最後に海自の「伝統墨守・唯我独尊」ですが・・・
 
 海自は組織的にも構成人員的にも旧海軍をそっくり引継いで発足しました。昭和20年12月1日の海軍官制の廃止後、外地からの引揚げ・復員輸送や機雷処分・航路啓開のために残された組織が、海上保安庁を経て海上警備隊、警備隊、そして海上自衛隊と一日も途切れることなく引継がれて現在に至っています。
 
 新海軍の再建に協力した米海軍も帝国海軍を好敵手として一目置いていましたので、海自は米海軍の優れた点は積極的に取入れましたが、海軍気質を始め旧海軍の良いところは伝統としてそっくり残すように努めました。昔も今も同じ自衛艦旗が象徴するように、海自は「帝国海軍の正統後継者」を自負しており、これが全海上自衛官のプライドになっています。
 
 以上が「伝統墨守・唯我独尊」の所以ですが、陸空自や内局、警察、海保等の人達にはこのプライドがやゝ鼻に突くのかも知れませんね。

なお上記に関連して蛇足ですが・・・、防衛大学校卒業生の間では上に述べたような陸海空の対立意識は殆どありません。旧軍出身の先輩達の心情的不信感や対抗心がむしろ不思議に思えたものでした。

防衛大学校が50年余にわたって3自衛隊共通の士官学校として幹部自衛官[将校]の養成教育を行い、既に二万人近くの卒業生を出していることの意義を強く感じています。

先般の新統幕組織の発足も、防大の3軍合同教育の成果が結実したものであると言えましょう。

以上、ご質問のお答になっているでしょうか?ヨーソロの管見でした。


down

コメントする




CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

その他

英霊来世

メルマガ購読・解除
 

自己紹介

おき軍事

おき軍事

軍事に関する歴史から技術、戦略・指揮統率、こぼれ話、今の自衛隊事情、インテリジェンス、そして軍事英語まで。軍事に関わる全てのことがらをカバーしている日本唯一の無料総合軍事メルマガです。配信はほぼ毎日。 執筆者は、将軍、提督、元米軍士官、軍制史の権威、ベテランライター、インテリジェンスのプロ、防衛問題研究家など。20年の歴史を持つメルマガならではの、他では得られない粒ぞろいの陣容です。 冷戦構造の崩壊を契機に、千年に一度レベルの大激動時代に入った世界でわが国がサバイバルするには、国民レベルで「現代の武」をわきまえておく必要があります。 それに資する情報を無料で伝えています。

作戦司令部の意思決定ー米軍「統合ドクトリン」で勝利するー

日米中激突! 南沙戦争

情報戦と女性スパイーインテリジェンス秘史ー

猫でもわかる防衛論

『日の丸父さん』石原ヒロアキ


「日の丸父さん」(1)
「日の丸父さん」(2)

脚気と軍隊ー陸海軍医団の対立ー

検証 危機の25年ー日本の安全保障を真剣に考えるー

メルマガ登録

ガントリビア99―知られざる銃器と弾薬の秘密―

図解 孫子兵法ー完勝の原理・原則ー

中国戦略”悪”の教科書ー「兵法三十六計」で読み解く対日工作ー

オリンピックと自衛隊 1964-2020

中国が仕掛けるインテリジェンス戦争ー国家戦略に基づく分析ー

「地政学」は殺傷力のある武器である

戦略的インテリジェンス入門ー分析手法の手引きー

新史料による日露戦争陸戦史ー覆される通説ー

大東亜戦争と本土決戦の真実ー日本陸軍はなぜ水際撃滅に帰結したのかー

誰も語らなかった防衛産業

日本人はどのようにして軍隊を作ったのかー安全保障と技術の近代史ー

あなたの習った日本史はもう古い!ー昭和と平成の教科書読み比べー

兵法の天才 楠木正成を読むー河陽兵庫之記 現代語訳ー

インテリジェンス

アーカイブ

あわせて読みたい

あわせて読みたい

人気の検索キーワード

最近検索されたキーワード

カテゴリー

メルマガ購読・解除
軍事情報
   
バックナンバー
powered by まぐまぐトップページへ


「日の丸父さん」(1~12話)
高速バスの予約 icon