【Q&A】FX選定について

(FXの選定対象となっているF-22)
Q:氷屋さん
「お聞きしたい事が有ります。FX選定についてです。

新聞紙上ではF-22が有力としつつも、米議会のもったいぶった態度、そして技研での開発情報の発表など、素人目にも両国間で盛んに綱引きが行われているなと感じるのですが、皆様の見解をお聞かせ願えませんか?
採用に当っても、輸入なのか国内ライセンス生産なのかによって我国の武器産業(防衛産業というんでしたっけ?)に対する影響もあろうかと思いますが、軍事に精通された方から見てこの問題はどのように捉えて居られるのでしょうか?」
A:おき軍事
お世話になっている方々から頂いたご高見をまとめました。
■FXの選定といえばなんだか大げさな話に聞こえますが
要は「お父さんの車購入のようなもの」と考えればすっきりします。
家族構成や使用目的などを考えて「スポーツカータイプなのか?」「セダンタイプなのか?」など車種を選定した上で、我が家の財務大臣(一般的には奥様?と相談して、購入する車を決める、というのが基本です。
ただ、息子がニッポン自動車のセールス社員であるこの家では、父親としてはニッポン自動車の車を買ってやりたいが、アメリカ自動車は自分の会社の系列です。
会社での立場上、息子には納得させた上でアメリカ車を購入することとし、購入後の整備などを息子の会社系列の工場でやってもらうことにする・・・といったように、人間(国際)関係上の考慮をする必要があるということです。
日米の政治・経済バランスの影響を強く受けているといえましょうか。
■背景はFSX問題と酷似
この件の背景は、90年代初頭に起きたFSX問題と酷似しています。米国の対中傾斜が今回の場合も陰に陽に影響しています。
今回空自は、老朽化しつつあるF-4の後継としてF-22を最有力候補としました。しかし米議会筋は、例の慰安婦問題の動きと絡めて慎重な姿勢をとりました。
また、イージス事案(機密漏洩疑惑)もこれに大きく影響したことは否めません。
これに関連して六月、在日米軍司令官のライト空軍中将は「非常に深刻な問題」と述べ、七月二十五日には、太平洋コマンド司令官・キーティング海軍大将も「自分は日本へのF-22供与を支持しない」と発言しています。
(”Stealth Play F-22 vs Japan” 『アビエーションウィーク・アンド・スペーステクノロジー』 2007年7月30日号)
米国自身がロシアや中共のスパイに相当にやられていますので、日本の機密保護意識の低さが心配でならないのは「米国の本音」でしょう。
単にFXのみでなく、政治、経済、軍事、科学技術の全分野において気が揉めるようです。
何故かと言えば、米国自身が日本国内で相当なスパイ活動をして成果を上げているので、敵性国も当然やっていると分かるからです。
情報技術も科学技術と同じで、自分が出来ることは相手も出来るのではないか、既にやっているのでないか、と心配になるのです。
90年代初頭に発生したFSX問題は、手嶋龍一氏の著書(*)に詳述されていますが、この副題にあるように、10年後の現在、再び“日米同盟の危機”の象徴としてF-22が脚光を浴びた訳です。
(*)「ニッポンFSXを撃て、たそがれゆく日米同盟」
背景にある米国の対中・対北鮮・対韓姿勢の現状は改めて触れるまでもないことですが、米空軍高官にもF-22の対日開示には慎重な見解があるようです。
ですので、当面寛解することは無いようですね。
F-86からスタートした空自は、F-104、F-4、F-15と当時入手し得る最高の米国製戦闘機を導入して現在に至りました。
その途上でT-2改の国産支援戦闘機[爆撃機]F-1を開発するまでは米国も容認しましたが、FSXでは態度を硬化させ、自主研究成果(*)を盛り込んだ国産支援戦闘機FSXの技本/三菱重工案は“撃墜”され、F-16C Block40改であるF-2“開発”を呑まされました。
(*)CCV:control configured vehicle 運動性能向上技術機および制御機能組込技術
それから10年を経て、政府や省もステルス機の自力開発を言い出し始めています。技本なども再び国産の戦闘機開発に着手しつつあります。我が航空工業界の悲願と言えましょう。
■ステルス零戦
F-22対日開示を拒否した米国は、この動きに対してFSXと同様の否定的な対応をする訳には行くまいと思います。
極めて巨額の開発費が必要なプロジェクトですが、P-XやC-Xも羽ばたこうとし、YS-11後継機誕生の息吹きが見られる昨今、今度は、ステルス零戦をロールアウトさせる絶好の機会が訪れつつあると感じます。
こんなご意見もあります。
「日本独自の開発や研究が阻害され、米国兵器の失敗作や余剰品を買い取らされる状況が長きに渡り続いているのが現状といわれています。
必要の無い装備品や関連性の無い装備品が後を絶たず、戦闘時にどこまで役に立つのか疑問を感じるものも少なくありません。
これは空自に限定されたはなしではありません。
本当に我が国で純粋に主力戦闘機を開発できる日がやってくるのか?
その日こそ、我が国が純粋に独立できる日なのではないでしょうか」
■とはいうものの
義理立てを優先する日本社会の中で、これまでの考えがそうそう変わることはないでしょう。
郵政民営化と同じく我が国の懐を当てにしている国家が存在していますし、実際どこまでやれるかは疑問です。
過去のFXやミサイル等の例で何度も出たように、こちらが本気で開発を始めると先方は必ず「売る」と言ってきます。本音は売りたいんですよね。
同盟国が同じ規格の武器を装備しているということは作戦上も後方支援上も非常に有利なのです。
ですから、我が国にとって自国の兵器産業の保護育成は国家ロジ(国家レベルの後方支援)にとって極めて大切です。
これが弱体化すると、「武器輸出の四つのメリット」にもあるように、ちょうど逆の輸入国の立場になるわけで、政治的軍事的従属国になってしまうからです。
貿易も、技術も、情報も、相手と対等に渡り合える「もの」や「こと」を持っていなければ、結局は高い買い物をせざるを得ないのが現実です。
そのためには、まずなによりも、国家の確固たる対外戦略が必要ですね。
余談ですが、おとなりの韓国では、2012年からはじまる空軍の「第3次FX事業」の対象機種に、米ロッキード・マーティン社のF-35と来年から開発をはじめるとされる国産ステルス機(KFX)をピックアップし、いずれかを選ぶようだ、と伝えられています。
■ライセンス生産について
ライセンス生産も輸入も結局は海外の商品を購入することに変わりありませんが、ライセンス生産は部品の生産や調達を国内の企業が行える割合が高いので、丸々輸入ということよりは国内に対する還元は大きいと思います。
ただし、重要な部品は購入させられると思います。
また、戦闘機の部品のような、高価で精度の高いものを国内で生産することは、いざと言うときに部品の供給という点で経験を積めますので、非常に有効であると考えます。経験上、国内で生産された部品の方が精度が高く優秀です。
海外で生産された兵器と国内でされたものとでは、同じ兵器でもいろいろな面でかなり差が生じています。
ただし、開発については運用経験がないためか、「残念」「?」なものが多いのが実情です。開発される方には、実際の運用の経験が不可欠だと感じます。
以上
2007年10月12日配信