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日本人は戦略・情報に疎いのか

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日本人は戦略・情報に疎いのか
太田文雄
芙蓉書房出版

本来持っている実力・能力に気づかず、自虐的になっているわが国民に大きな
勇気を与えてくれる本が出ました。

ひとことでいえばこの本で書かれているのは、
日露戦争が終わってからわが国は、一貫して「もっといいものはないか?」
「もっとすばらしいものはないか?」と外にばかり目を向けていた。
しかし実は、一番探し求めている答えは足下にあったのではないのかという問題提起です。

戦略も情報もそうです。足下にあるものに気づかず、あれやこれや遠くまで探
しに行って、勝手に絶望してたということです

日露戦争以後、百年以上にわたってそのことに気づかない国民に、
「こんな立派な歴史と先人を持っている国」
に改めて気づかせてくれる本です。


著者の太田文雄さんについては幾度も紹介し、各位に置かれては既によくご承
知のことと存じます。

この著者の新刊は問答無用で手に入れる。
私にとって太田さんは、そんな存在です。

防大卒の退役海将で前情報本部長。
剣道七段

現在は防大安全保障・危機管理センター長兼政策研究大学院大学安全保障・国
際問題博士課程連携教授というなんともいかめしい肩書きで近寄りがたい雰囲
気ですが、05年に退役されてのちは、一貫して後進への指導、国民に向けた啓
蒙活動に当たっておられます。

ひとことでいえば、国民本来の資質に根ざした視点を忘れることなく、養分を
取り入れやすい有機的な内容を通じて、情報分野における経験に即した提言を
行なっておられる方といえましょう。

今回の著書は一般国民向け著書の第三弾となりますが、おそらくこれまでで
もっとも社会に受け入れられやすい内容であるとともに、もっとも冒険を試み
たものであると推察します。戦略・情報に関する理論や概念を外国から取り入れよ
うとする風潮に対する強烈な批判であるともいえます。


太田氏は、国史を省みてわが国には極めて高度な戦略・情報能力があると結論
付けています。

私もそのとおりだと思います。
日露戦争勝利以後、傲慢になったために戦略情報能力がゆがめられ、終戦につ
ながった。戦後は極端に自信を失った結果、戦略発想ができなくなっている、
との見方にも全く同意です。

特にユニークなのは、わが国第一の古典である「古事記」を戦略・情報眼を養
うための格好の素材とし、読み解くことを<知識としての情報から智恵として
のインテリジェンスを生み出す基礎的な実習>と見ておられる点です。

<古代日本における国家戦略、安全保障、国際政治、地政学、外務・内務問題、
直接侵略、間接侵略、情報、諜報等のキーワードに満ちている事象・事績を抽
象的に言語化したものが『古事記』です。>

私も「古事記」を愛読する者ですが、ここで示されている解釈は実に参考にな
りますね。また、わが情報本部のシンボルマーク「雉」の意味もここではじめ
て理解できました。

聖徳太子から源平時代、楠公、戦国時代、吉田松陰先生、東郷元帥、乃木大将、
秋山真之中将、大東亜戦争と時代を下る中で、戦略・情報能力に関するエッセンス
を抽出し、適切な解釈をされているところも非常に学ぶ点が多いです。


戦後日本は、乃木大将の偉大さを全く理解できていません。
軍事常識をもたず、素人にすぎない小説家の表層的かつ時代に媚びたこじつけ
解釈が大手を振ってまかり通っているからです。
本著を通じて、その面のリハビリをしていただきたいものです。

また、戦略家として知られる秋山真之と石原莞爾の対比も面白いです。
いずれも天才と評価しながらも太田さんは、石原には致命的な弱点があると指摘
し、秋山を圧倒的に評価しています。この理由も知っておいていただきたいもの
です。

楠公の話もとてもすばらしいですね。楠公さんは本当にご立派な方で、名前を
書くだけで涙が出てしまいます。本当に
湊川神社には週に一回はご挨拶に伺ってますが、
本著で書かれているとおり、確かに能楽堂があるんですよね。
この本を読んで、改めてその意味を理解しなおしたところです。

吉田松陰先生についても、戦後はろくな本が出ていませんから、松陰先生の
「治己・知彼・応変」に言及されているこの本は頼りになるでしょう。

余談ですが、世界一の商品先物市場であるシカゴのCBOTが、江戸時代に大阪で
行なわれていた米市場に倣って作られたことにも言及されています。


その他以下のようなことが書かれています。

<・・・変化に応じていく柔軟な想像力は、私の体験から言えば「古典や短歌
を通じて育まれる豊かな感性」から発達してきます>(P111)

<すなわち、戦略の真髄はどこにあるかというと、諸外国を探し求めてみたけ
れども見つからず、家に帰ってみて自分の目の前にあることを再発見した、と
の意です。戦略・情報観にしても、そして倫理観にしても、日露戦争後から先
の大戦までの短期間の拙劣さをもって「日本人の戦略・情報観は・・・」と蔑
む必要はないと思います。>(P179)

<伝統的な国家対国家の戦いの時代において、戦略的思考を必要とする人は、
ごく限られたトップの人達だったでしょう。しかし、非国家であるテロリスト
やゲリラを相手にするときは、中隊長レベルから、情報のセンスと戦機を見据
えた戦略的判断力、そして倫理観を養っていかないと、常に上司に判断を委ね
ていては間に合わない時代になっています。否、戦闘員個人のレベルに至るま
で適切な情報・戦略眼を持っていなければならないかもしれません。
(中略)現代は各人が一人一人が楠公、信長、秀吉のような想像力豊かな発想
が求められる時代になってきていると言えましょう。>(P179)


かならずやあなたの人生に資する本です。
お薦めいたします。


日本人は戦略・情報に疎いのか
太田文雄
芙蓉書房出版


(エンリケ航海王子)

追伸
本著あとがきのなかで、以前メールを下さったメルマガ読者の方の名前を見ま
した。こういう発見ってうれしいですね。お元気そうで何よりです。


目次

第一章 日本人は戦略・情報面で劣等生なのか?
 第一節 はじめに
 第二節 主要国の戦略文化比較
  戦術面に長けても戦略面で劣っていた第二次大戦時の日本
 第三節 教育面での日米比較
 第四節 日本人が戦略的志向に乏しいのは先天的か後天的か?
  日清戦争時代の日本人の戦略・戦術観/日露戦争時代は?/心理テストによ
  る比較/先天的か後天的か?

第二章 日本人の戦略・情報観
 第一節 日本語の「情報」
  日本語の「情報」とは「心を報ずること」/「みち」という日本語とネッ
  トワーク
 第二節 古事記に見られる「情報と戦略」
  言挙げについて/合議制民主主義の神々/高天原の間接戦略/外交努力と「戦
  わずして勝つ」/「間(スパイ)」の用法/情報部隊の派遣/古代のスパイ
  合戦/出雲の謀略テクニック/外交から武力戦へ/出雲側の見事な戦略/アイ
  デンティティーの歌/情報漏洩の戒め/日本最古の諜報機関
 第三節 聖徳太子
 第四節 制海権、海上交通・機動
  源平の戦いにおける水軍利用/戦国時代の海上交通・機動
 第五節 楠公戦史
  楠公の諜報組織/南朝側の情報戦/ゲリラ戦と「卿間」/楠公の雄大な戦略
  構想/大局的な戦略眼
 第六節 戦国時代
  頼山陽が命名した三快戦/毛利元就/武田信玄/織田信長/姉川の戦い/長篠
  の戦い/豊臣秀吉/土俵(戦略環境)造りの見事さ/内線の戦い方/徳川家康/
  家康の情報戦略/「先ず勝ってしかる後戦う」戦略的手法
 第七節 江戸時代

第三章 幕末以降の戦略・情報観の変化
 第一節 吉田松陰
  「己を治める」/「彼を知る」/「変に応ず」/最大の眼目は「己を治める」
 第二節 ペリー来航
  予想していなかったのではなく待ち望んでいた来航/黒船来航以前からあ
  った技術革新の動きと海軍構想
 第三節 東郷元帥
  東郷元帥の精神・モラル・感情面/チリ海軍の英雄アルトゥーロ・プラット
 第四節 乃木大将
  困難な環境を克服して勝利に導いたのは乃木大将の全人格
 第五節 秋山真之と石原莞爾
  石原莞爾の「世界最終戦総論」/秋山真之の「戦争不滅論」/世の中の進展
  は直線的には進まない
 第六節 アジア・太平洋における第二次大戦
  日本のすべての暗号が解かれていたとするのは間違い/同盟戦略の不適切
  さと精神面での堕落/戦略の誤りに武人の倫理観が影響

第四章 日本武人の倫理観
 第一節 古事記・万葉・十七条憲法・歴代天皇御製
  「慢は悪の極なり」
 第二節 武士道
  弱者、劣者、敗者に対する仁愛の精神/山縣有朋の軍人訓戒
 第三節 軍人勅諭
  捕虜虐待と日本人本来の倫理観/日露戦争後から始まった精神的弛緩/戦勝
  に伴う傲慢さ
 第四節 五省・戦陣訓
  戦陣訓の失敗
 第五節 自衛官の心構え・防衛大学校学生綱領
  「廉恥」「真勇」「礼節」
 第六節 軍人倫理に関する国際セミナー
  コアリションにおける軍人の倫理標準

今回ご紹介した本は

日本人は戦略・情報に疎いのか
太田文雄
芙蓉書房出版

でした。

【071222配信 メールマガジン「軍事情報」(本の紹介)より】

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(投稿日:2007年12月22日 12:10
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