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平和の地政学 ~アメリカ世界戦略の原点~

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■地政学への反感

わが国には、地政学という名前に生理的に反感を持つ学者やエリートが多いよ
うです。
これはドイツのハウスホーファーの悪名と対日弱体化工作の相乗作用がかなり
影響しているようですが、あつものに懲りて膾を吹く典型といえましょう。
その結果、わが対外政策は常に泥縄・机上の空論・責任逃れという方向に行っ
ているようです。

しかし私が知る将校各位はすべて、地政学の真髄を血肉化しておられます。
それが、世界の中のわが国を考えるにあたっての「本(もと)」となっていま
す。ですから、改めて「ハートランドが云々」という「末(すえ)」の言葉を
口に出されません。

国際社会での国家行動の土台にあるのは地政学的感覚で、それを把握できなけ
ればまったく世界が理解できません。そういう感覚のない対外担当者は相手に
されません。


■地政学の真髄は治乱興亡の理と共通する

明治期まで、わが国要路には現在でいえば地政学的とよべる感覚がありました。
武士教養がまさにそれです。西洋的ではありませんが、漢籍の史書や経書、先
輩から聞く武功夜話を通じて彼らが会得した「治乱興亡の理」は、江戸300
年の鎖国というハンデのなか維新を成し遂げた根っことなりました。

楠木正成、源頼朝、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康、高杉晋作、西郷隆盛、大
久保利通、山縣有朋や伊藤博文などといった指導者には、武士教育を通じて、
今で言う地政学的な感覚が常識としてあったとみて間違いないでしょう。

地政学の根本にあるのは「世界を一つの単位で見る」「国家の地理的特徴はほ
ぼ一定で変わらない」「常に動的で総合的」という感覚です。

それがよくわかる本著からの抜粋です。

<地理的面から安保問題を考慮することは可能で、ここからの分析結果は国家
意思決定者にすぐ利用できるものとなる。世界は単一の勢力として見る必要が
あり、自国の平和に影響を与える要素への関心を、地球の地表全体や国家の強
さと弱さに影響を与える全ての要素にまで拡大する必要がある。世界規模の平
和と安保を求めるには、地球の表面全体を一単位として分析されなければなら
ない。
最も顕著な特徴は、静的状態より、パワーの中心地における動的な状況を考慮
する点にある。政治世界の変化は、ある瞬間重要だった要素が時とともに変化
して、その後の物事の成行きに影響を与える。技術面の変化は。特にパワーが
実践される場の状況を変える。これにより、地理的事実は変化しないがそれら
が対外政策に与える意味は変化する。>

<地理、人口密度、国の経済構造、民族構成、政府体制、外相の偏見・好み、
国民の価値観などとの関連なく、要素単独で分析することは不可能。あわせて
「地理」のような「全てを含んだ一般原則」に単純化されてはならない。>

<地球表面全てが政治勢力の活動するたった一つの舞台になった。ある場所の
勢力バランス変化が他地域の勢力に影響を与えるようになった。>

ご覧いただければおわかりのとおり、地政学は対外行動を考察する際に必須の
感覚といえるもので、理論というのとは少し違います。武士たちが学んだ四書
五経が、理論ではなく行動原理を養う注釈に過ぎなかったのとよく似ています。

ですから、地政学を「モデル」とかいう風に理論としてみるのは非常に危険で
あると同時に、その持つ一番滋養に富むエキスを奪う行為と考えます。

ひとりの人間の中で感覚・常識というレベルにまで染み込ませることで、はじ
めて意味を持ってくるもので、一理論としてもてあそぶと、あまりに使いやす
い道具のため、朝から晩までその種の仕事についている人以外、よほど注意し
ないと「硬直公式君」に堕ちてしまうでしょう。一寸先は闇という現実を無視
し、机上の公式に基いただけでいとも簡単に結論づけて良しとする人間を産む
危険があります。この点、十分注意しておく必要があります。

この毒を十分認識した上で、地政学のエキスを身に付けることは、要路にない
我々にとってもきわめて益の多いものとなります。


■地政学の真髄

地政学的な感覚から導き出される現時点の結論のひとつとして、
米には、ユーラシア大陸の東西端にある英国とわが国を自分の側から外すつも
りはない。ということが挙げられます。

日米同盟の現状から見ればそれほど気にならないかもしれませんが、わが国が
おかしくなれば、米は武力を使ってでも押さえにかかるかもしれない、という
ことです。こういうことを書くと言葉尻だけ捉えられて誤解を招くので本当は
書きたくないのですが、以下のとおり、現在わが国を巡る状況はのんびりでき
るものではありません。それほど逼迫した状況にあることをご理解いただきた
いものです。

ユーラシア東部でシナに充てられるのはロシアであり、ユーラシア大陸東側の
パワーバランスはこの両国でとるということです。
現在米が中共に警戒を強めているのは、中共が「海洋進出」を図っているから
です。

海洋進出、米の警戒強化が何を意味するかといえば、「●シナ海確保にあたる
責任があるのにぐずぐずしてきた日本に対するシナの攻勢が、ついに具現化し
た」ということです。本来ならば米が云々ではなく、標的にされているわが国
が、もっと以前から真剣に捉え、世界平和に貢献するために対処すべき問題な
んですね。

しかしそういう声を上げているのは一握りの政治家、軍人・民間の一部、有名
どころでは平松茂雄先生くらいです。

改憲をして、日米同盟を強化して、ユーラシア大陸東の押さえとして、シナと
ロシアのパワーバランスを維持させ、豪州との協力関係を強化し、アジアの地
中海にあたる●シナ海を敵の手に渡さないようにする努力を世界に見せること
が必要なんですね。その行動こそが、国際社会に「日本は世界平和に貢献して
いる」と理解してもらう、もっとも手っ取り早い方法なんですが・・・


■本著を見れば、いろいろな事が見えてきます

たとえば、最近の英メディアが「ジンバブエ」を臨時ニュースやトップニュー
スで報じている理由が理解できます。

英にとって重要なのは地中海を維持することなんですね。
(地中海要衝のジブラルタルは未だ英領です。)
そのためにはアフリカの情勢安定が重要になります。

英の志向は、まさに「唇滅べば歯寒し」という治乱興亡の理に基づくもので、
地政学的な観点からみて本当によく理解できます。

英のアフリカ重視は、わが国の場合豪重視になります。
その根幹にあるのが、本著によれば「地中海」という感覚です。

安倍前政権は豪州を重視し、同盟関係強化を行いました。
地政学を十分理解・把握した行動といえましょう。

アジアの緊要である地中海とはどこでしょうか?
本著の中でお確かめ下さい。
ヒントはシナのつく海です。

そういえば、シナの最新鋭原潜「晋級(094型)」が、●海艦隊の主要基地で
ある●●島基地に配備されたとの新聞報道がありましたね。この海で展開する
ためですね。

あわせてわが国は、幾度も煮え湯を飲まされているのに、アフリカを必要以上
に重視する対外政策を変えていません。なぜこんなことになるのでしょう?
どうも、心理的「錯覚」が要因の一つにあるようなんですね。
本著では目に見える形でそれが示されています。是非ご覧ください。

わが国にとってのアフリカは、●シナ海と豪州ほど重要ではありません。
アフリカに向ける力があれば、豪州、●シナ海に向けるべきなんですね。


■活きた示唆を汲み取れる

第二次大戦、大東亜戦争終結後、アメリカは対外政策をいかにすべきか?
という内容の本で、昭和十九年に出版されたものですが、今も活きる極めて
示唆に富む内容があちこちにあります。

特に数年前に米が国防方針として発表した「不安定の弧」ということばは、
名前は異なりますが本著の中で同じ概念が出ています。

現在の米国は本著でかかれているとおりの行動をとっているように思えてなり
ません。

もう一つ重要なのは、海外の国・勢力は全てここで書かれている原理を理解吸
収していると思われることです。特に西洋諸国の場合はそれが顕著に顕れてい
るようです。
ロシア、中共、アルカーイダ、ハマス、イラン、北鮮、韓国、台灣、フィリピン
・・・も皆、同じ原理で動いていますね。

これは何を意味するか。
先ほども書いたとおり、この原理に基かない行動は理解・評価してもらえない
ということです。

本著を読み、地政学的感覚を血肉化する人が増えることを望みます。

なお、本著で導き出された米の対外方針提言は、概略以下のようなものです。

・対外戦略の根本は、ユーラシア大陸東西で圧倒的なパワーを持つ国が出ないよ
う警戒すること。
・ユーラシア大陸にある国が欧州とアジアで圧倒的かつ支配的な立場を獲得する
のを不可能にする。
・自らの安全を図るため、欧州・アジアの政治に積極的に協力しなければなら
ない

■抜書き

以下、ご参考までに抄録を一部ご紹介します。

・地政学者により一般化された理論が実際の政策に適用される場合には、常に
善悪の倫理判断が考慮される必要がある

⇒過度の一般化は学者の弊です。それを鵜呑みにすることなく、意思決定者た
る政治は自らの見識・胆識で決心すべしということですね。

・ユーラシアの国々のパワーは実質的に海を通じてしか我々に届かない。
エアパワーが発達してもこれは変わらない

⇒海運に取って代わる輸送手段が出てくるまで、この言葉は通用することでし
ょう

・国家のパワーにとってより重要なのは鉱物埋蔵量よりも実際の産出量

⇒中東ではサウジが何より重要ということですね

・根本的で変化しない要因では地理的要素が最も重大。歴史的に、人があふれ
かえるところに強力国家は出現する。そして、もっとも国力と近い関係にある
のは工業生産力である。人口密度と工業生産力の間には一定の関係がある。

⇒わが国の少子化、中共・インドの人口増大は無視できませんが、アフリカの
人口爆発は少なくとも国家のパワーという点で見れば無視できるということで
す。

・歴史の理論を一括して適用するのは間違い

⇒先ほども書きましたが、現実をモデルや公式で解こうとする姿勢は不可です。


■オススメします

これだけの内容なのに、ビックリするほどの薄さです。(全152ページ)

あわせてうれしいのが、訳者奥山氏の解説にある「参考文献」(149~152ペー
ジ)ですね。

また、地政学という内容の特性上、地図の数が豊富です。
なかでも、目次のあとにあるカラーの地図は、非常に有益ですね。
私はここを切り取って別とじにしました。一部には現在の状況を書き込んでい
ます。


コンパクトで中身が濃く、より実際的な地政学入門書です。
全ての方にオススメします。


本日ご紹介したのは

『平和の地政学 ~アメリカ世界戦略の原点~』
著:ニコラス・スパイクマン 訳:奥山真司
発行;芙蓉書房出版
発行日 2008/5/20

でした。


(エンリケ航海王子)

追伸
地図を見るだけでも面白いですから、目次紹介には掲載されている地図をすべ
て書きました。


もくじ

序文に代えて
  イエール大学国際研究所ディレクター フレドリック・シャーウッド・ダン

地図(原著の色刷り地図)

地図26 石炭と鉄鉱石の埋蔵地
地図27 一九三七年の石炭と鉄鉱石の生産量
地図28 一九三六年の水力発電の推定潜在量 
地図29 石油生産の中心地
地図35 ユーラシア大陸の地政学地図
地図40 「統一性」対「複数性」
地図41 戦闘区域 一九四三年
地図45 ユーラシアの紛争地帯
地図46 ハートランドVSリムランド
地図47 リムランド内の紛争
地図48 海洋国家と両生類国家の紛争
地図49 エアパワーと周辺の海
地図50 北極越えのルート
地図51 未来の西半球の様子?


1.戦時と平時における地理
 平和のための、もう一つの選択肢
 地理と対外政策
 地理と安全保障

2.世界の地図化
 地図を作る際に発生する問題
 地図の投影法の種類
 世界地図の選択

3.西半球のポジション
 対外政策の枠組みを作る要因
 ロケーションと世界権力
 潜在力の分布状況
 アメリカと世界

4.ユーラシア大陸の政治地図
 マッキンダーの世界
 ハートランド
 リムランド
 沖合の陸地
 ユーラシアの政治のダイナミックなパターン

5.安全保障の戦略
 世界戦争
 第二次世界大戦の戦略パターン
 ユーラシアの紛争地帯
 アメリカからユーラシアへのアクセス
 アメリカの対外政策

【解説】米国の世界戦略とスパイクマンの理論  
    ー訳者あとがきと解説ー    奥山真司

 スパイクマンの経歴とリベラルな思想
 本書の内容
 現代の世界情勢を見るために
 訳文・訳語について
 謝辞


収録地図一覧

地図1 円錐図法
地図2 心射図法
地図3 正射影図法
地図4 等距離方位図法
地図5 シヌイソイダル図法
地図6 マローヴェイド・ホモグラフィック図法
地図7 メルカトル図法
地図8 ガルの立体図法 
地図9 ミラー図法
地図10 伝統的なヨーロッパを中心においたメルカトル図法
地図11 極点を中心においた等距離方位図法による地図
地図12 西半球を中心にしたミラー図法
地図13 セントルイスが中心
地図14 北極が中心
地図15 パナマ運河が中心
地図16 東京が中心
地図17 ベルリンが中心
地図18 ロンドンが中心
地図19 モスクワが中心
地図20 地理的な方位 1938年のチェコスロヴァキア/1939年のポーランド/
1941年のユーゴスラビア
地図21 世界の地形
地図22 気候のベルト
地図23 降雨量の分布
地図24 小麦の生産地帯
地図25 米の生産地帯
地図26 石炭と鉄鉱石の埋蔵地
地図27 一九三七年の石炭と鉄鉱石の生産量
地図28 一九三六年の水力発電の推定潜在量 
地図29 石油生産の中心地
地図30 人口密度の分布
地図31 1929年の毎日の労働量
地図32 包囲された西半球
地図33 マッキンダーの世界地図
地図34 ハウスホーファーの世界地図
地図35 ユーラシア大陸の地政学地図
地図36 世界の耕作地
地図37 ドイツと日本の最大拡大範囲 1914~1921年
地図38 第一次世界大戦直後のドイツと日本
地図39 ドイツと日本の最大拡大範囲 1931~1942年
地図40 「統一性」対「複数性」
地図41 戦闘区域 一九四三年
地図42 パワーVS空間
地図43 ハートランドへの入り口
地図44 枢軸国の障壁
地図45 ユーラシアの紛争地帯
地図46 ハートランドVSリムランド
地図47 リムランド内の紛争
地図48 海洋国家と両生類国家の紛争
地図49 エアパワーと周辺の海
地図50 北極越えのルート
地図51 未来の西半球の様子?


本日ご紹介したのは

『平和の地政学 ~アメリカ世界戦略の原点~』
著:ニコラス・スパイクマン 訳:奥山真司
発行;芙蓉書房出版
発行日 2008/5/20

でした。

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(投稿日:2008年6月27日 10:55
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