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「たら」「れば」で読み直す日本近代史―戦争史の試み

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『「たら」「れば」で読み直す日本近代史―戦争史の試み』

  黒野 耐
 講談社 (2006/8/2)
 ASIN: 4062130009

歴史理解には軍事常識・知識が不可欠です。
歴史は戦争と平和の繰り返しだからです。
平和の時期に戦争の種が生まれ、戦時に平和の種が生まれる。
それが飽きることなく延々と繰り返されているのが歴史です。

特に近代史の場合、軍事理解を必要とする度合はより深くなります。
戦争が軍隊だけのものから国家国民全体に波及する度合が急激に増大したからで
す。すなわち、人の日常生活と戦争が不可分一体になったんですね。

歴史上のひとつの出来事も、軍事常識がなければ全く見当外れの理解しかできず、
歴史から学んで現代に活かすという人間にしかできない特性を使えない羽目に陥り
ます。

著者が題名に「戦争史の試み」というひとことを付け加えたのは、こういう観点か
ら眺めると非常に興味深いことです。この言葉は、歴史不全に陥っている現代国民
へのメッセージではないでしょうかね?

考えてみれば、一般向けにこういう形でまとまった歴史書(戦史ともいえる)が出
たことはないように思います。(自衛官や研究者、元軍人向けにはいろいろ出てま
すけど、通勤電車の中で読めるものではないです)

本著は、戦後教育を受けた大多数の人にとってブラックホールとなっている日露戦
争から大東亜戦争までの時代に関する解説本です。

「世界の中の日本」という観点から、11個のシチュエーションを切り取り、「あの
ときもしこうしていたら?」を軍事常識に基いて検討する過程で歴史を解説してい
ます。

歴史シミュレーションは「しょせんはあと講釈」との感を否めないものです。
しかし国際的に見ると、優秀な歴史家は結構やってるんですよね。
たぶん、わが国で展開されているシミュレーションなるものが、あまりにお粗末か
つ幼稚なのでこころある人はそっぽを向いている、というのが現状なのでしょう
ね。

でもこの著書は、私と同じ思いをしている方にもたぶん楽しめると思います。
理由は2つあります。

1.日露戦争から大東亜戦争に到るまでのわが歴史を知ることができる
1.国家指導部の意思決定に必要な軍事的知見を知ることができる


全部で十一章あり、

第一章では、日清戦争時に行われることのなかった「北京占領が行なわれていた
ら」について検証されています。
「日清戦争は列強監視下の戦争であった」との見方が面白いですね。最終的に著者
は、伊藤博文の戦争指導は利にかなっていたとの結論を出しています。

第二章では日清戦争後の「三国干渉を拒否していたら」についてです。
陸軍部隊には、シナ大陸で干渉国の軍と戦う実力は十分にあったが、問題は海軍兵
力が十分ではないという点にあった。英国も日露の戦を望んでいなかったため海軍
の支援を受けることは望めなかったとしています。
結論として著者は、「日清講和時の最良の選択はイギリスの勧告を受け入れて、朝
鮮の独立を列強に保障させ、台湾の領有と三億両の賠償金を獲得することで矛を収
めること」としています。

第三章で取り上げられているのは、日露戦争の奉天会戦後「ハルビンまで攻撃して
いたら」どうなっていただろうか?です。
日露戦争ミニ事典ともなっているこの章で著者は、東京の大本営より満州軍司令部
のほうが情勢を冷静に洞察していた、との結論を下しています。ただ、日露戦争最
大の失敗は、戦争の意義を開戦前に国民に十分伝えていなかったことだとしていま
す。これが次章でも触れる満州経営の失敗につながり、ひいては昭和20年8月15日
の終戦を招いたのかもしれません。

第四章では「日米共同の満鉄経営が実現していれば」という項目が採用されていま
す。
実に興味深い内容です。山県有朋など維新生き残りの元老が支持し、桂首相が覚書
まで交わしたこの構想は、小村外相の猛反対でつぶれました。
著者も書いていますが、鉄道王ハリマンによる満鉄買収問題は、わが近代史の分岐
点ともいえる重大な出来事ですね。日米対立のきっかけを産み、満州事変の前触れ
になったわけですからね。でもほとんどの国民は知りません。ぜひこの章はじっく
り読んでいただきたいです。

以下、詳細は省いて見出しだけ並べます。
時代を追って続いていきます。

第五章 第一次世界大戦-「日本軍欧州派遣へのラブコール」
第六章 第一次世界大戦-「欧州戦場に本格参戦していれば」
第七章 満州事変-「塘沽戦協定を厳守していれば」
第八章 日中戦争-「「たられば」もない構図」
第九章 太平洋戦争前-「三国同盟を破棄していたら」
第十章 太平洋戦争前-「初期の日米交渉で妥協していたら」
第十一章 太平洋戦争-「真珠湾を攻撃していなかったら」

通読しての感想ですが、
たしかにシミュレーションですが、歴史書とよぶ方がいい感を持ちます。
先ほども書きましたが、戦後教育を受けてきた人間には本著で取り上げられて
いる期間の歴史知識(その前提となる軍事常識)がほとんどありません。
あったとしても著しく歪められたものです。

脳のリハビリという観点からも、本著を手にとって頂きたいと思います。


 『「たら」「れば」で読み直す日本近代史―戦争史の試み』
  黒野 耐
 講談社 (2006/8/2)


(エンリケ航海王子)


黒野 耐
1944年愛知県生まれ。防衛大学校機械工学科卒業後、陸上自衛隊入隊。
陸上幕僚監部調査部部員、第二特科群長などを経て99年、陸将補で退官。
教官として防衛庁防衛研究所入所、04年まで戦史部主任研究官。
現在、武蔵野学院大学国際コミュニケーション学部講師。日本国際政治学会評
議員。著書『参謀本部と陸軍大学校』(講談社現代新書)は、日本軍の敗因を鮮
やかに解き明かした書として注目を集め、ベストセラーとなる
 
 
 『参謀本部と陸軍大学校』(講談社現代新書)
 黒野耐氏の全著作
 「黒野耐」でググってみると

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(投稿日:2006年10月30日 19:05
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