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報道できなかった自衛隊イラク従軍記

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イラクに最初に派遣されたわが陸自部隊には、民間人通訳が参加していました。
ヒゲの隊長こと佐藤正久 退役一佐[退役大佐]が率いる「第一次イラク復興業
務支援隊」の一員です。

今回ご紹介する本は、その通訳の方が書いたイラク派遣陸自部隊の活動記録で
す。中からみたイラク派遣部隊というだけに留まらない内容を持っています。

その方とは長い付き合いのアリーマ山口さんから頂いた「推薦のことば」から、
まずはご紹介します。

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まずは、著者の金子貴一ことタカの思い出話から。

タカと初めて会ったのは、カイロに仕事で移り住んで半年余りも経った頃だっ
たろうか。当時彼は既に、一度カイロを引き払っていたのだが、ガイドブック
の取材でエジプトに来ていたのである。

知人の家で飲み会があって、わいのわいのと飲んだくれていた時、
「だからさあ、誰か一緒に来てくれないかなあ・・・」
と、彼が突然言ったのだ。

いや、酔っ払っていたから私の耳には突然に聞こえただけなのだが、話が途中
で見えなかったから「何のハナシ?」と聞いてみれば、紅海のほうに取材に出
かける、という。

スエズからハルガダに向かって紅海沿いに南上すると、少し砂漠のほうに引っ
込んだところに世界最古の修道院があって、そこに泊りがけで取材に行く、
宿泊の許可は取ったのだそうだ。

「通常交通機関はないところなのだが、今回はスエズから車を一台チャーター
して行こうと思う。
その後は、ハルガダまで行ってさらにあれこれ取材をして、戻ってくるんだよ
・・・」

「聖アントニウス修道院」という世界最古の修道院の存在を、私はそこで初め
て知った。
(一応、以前の記事でごく簡単に触れたことがある。
http://arima.livedoor.biz/archives/50279687.html )

アゴアシは持つから、くっついてきて手伝ってくれる人はいないかねえ、とい
う話に、酔った勢いもあって、私は「ハイ」と元気に手をあげた。

いい中年になった今、しみじみと思い返せば、なんでも酔った勢いで話を決め
てしまえる年頃だった。
例え酔っていなくても勢いだけで、面白そうなものにはなんでも飛びついてい
た当時は、まだ20代半ばだ。
若さとヴァカさが紙一重の、良くも悪しくも楽しい時代である。

これは『地球の歩き方 エジプト編』の取材だった。
タカの処女作でもある。

特に潤沢な資金があったわけでもないし、一泊500円ほどのホテルを根城に
するバックパッカーが、オンボロといえども車を一台チャーターして、メジャ
ーでもないポイントを目指すとは思えないから、これは純粋にタカのジャーナ
リストらしい興味からでた取材だったのだと思う。

で、助手の私は何をやるかといえば、アレはなによコレはなによ、あの人ナニ
しゃべってんのよ、と取材者を通訳にガイドにとこき使い、レストラン選定に
は無闇と熱意を燃やし(別に高級な小奇麗なところでなくても一向構わないが、
食べ物に妙なこだわりが強いのは昔からなのだ)、その他なにかと彼の気持ち
を「和ませる」ことに終始したのだった。

まあ、一人では荷物を置いて周辺を探りに身軽に出ることもできないし、誰で
あろうと人間が一人いればよい、という発想で、そういうヘンテコリンな同行
者を気楽に連れて歩いてくれたのだから、タカも呑気なヤツだと改めて思う。

ただ、食べ物に関しては至ってアッサリした男なので、私の妙なこだわりには
閉口したらしい。
彼には珍しく、いまだにたまに思い出しては「まったくねえ・・・」と呟くこ
とがある。

そんなこんなで、交流は続き、私の結婚式ではカメラマンまで務めてくれた。
これは我が母には不評プンプンで、
「お嫁さん(私のことだ)が、まるっきりカワイク撮れてないっ!」と、あとで
激しいブーイングが出たものだった。

花嫁に関しては、ひたすらドキュメンタリータッチで、やれ忘れ物の処理だ、
記念写真の指示だ・・・とウェディングドレスで仕切りまくる姿を克明に追っ
てくれている。

「ウソでいいから、ソフトフォーカスに優しげな風情の「花嫁写真」を一枚くら
い残してくれてもよかろーが!」

と、改めて思わないでもないが、まあ仕方があるまい。頼んだのは私だ。
それにしては、花婿だけはそれらしい「斜め横顔ポートレイト」などが残って
いるのは不思議でならないのだけれどね。
まあ、いまさら責めまい。

かくのごとく、金子貴一は実に面倒見がよく、フットワークは軽く、寛容にし
て温厚、しかしいい具合に、妙なところでいい加減な男である。
真面目ではあるが、生真面目クソ真面目ではない、ともいえる。

そして彼がひとたびアラビア語をしゃべりだすと、辺りが瞬間でカイロのホコ
リ臭い街角に変わる。
身振り、手ぶり、口ぶりのすべてが、実に見事にエジプト人なのだ。
だから、彼とアラブ料理屋でメシなど食うと、なんとも実に楽しい。

ある晩ある時、そんな調子で食事をしていたら、
「サマワにいるときにさあ」
などと口走ったので、ナンダナンダと首を傾げたところ、
「自衛隊と一緒に通訳で行っていたんだ」と、いとも簡単に言う。
「あ~、でも、民間人が一緒だったなんて今マスコミに知れると大変だから、
間違っても変なところで書いたりしゃべったりしないでね」

ウン、ワカッタと言ったついでに、聞いてみた。

「・・・ところで、タカって、フスハー(正則アラビア語)できたっけ・・・?」
「できないよ」
「・・・イラク方言、わかったっけ・・・」
「わかるわけないじゃん」
「じゃあ、いったいどうやって・・・」
「ええっとねえ、まず相手に『僕、イラク方言わかんないし、フスハーもでき
ないから、エジプト方言でしゃべってちょうだいね』って頼んじゃうと、向こ
うが適当に調子あわせてくれるんだよね」

以上、あっけらかんと笑って言っていたが、実はやはり大変だったのだろうな
あ、と思ってはいた。
そして、今回上梓された従軍記を読んで、よくもまあ軽く言ったもんだと、な
んだか頭痛がしてきたくらいである。

それにしても、通訳の人選にあたって、自衛隊もかなり慎重にいろいろ調査し
たはずなのだが、敢えて彼を選んだプロセスにはちょっと興味がある。

アラビア語がいくら難解だと言ってみても、それを流暢にこなすアラブ世界の
専門家は、巷に決して少なくはない。
肩書きや表向きの経歴、という部分では、この金子貴一よりもむしろ「適任に
見える」候補者がいたはずだ。

しかし敢えて彼が選任されたのは、言ってみれば「人間力」のようなところを
きちんと評価されたが故だろう、と私は思う。

マスコミも世論も「イラク派兵問題」には相当喧しく騒ぎたてていた、あの当
時の情勢下で、よくこの判断が下せたものだな、とつくづく思う。

そして、その期待に応えて、立派に任務をやり遂げて戻ってきたタカも、実に
誠に立派な男である。

書籍自体については、既に拙ブログでいろいろと書いたので、そちらをご参照
いただきたい。

だが、この一冊は単なる民間ジャーナリストの従軍記に留まらないことだけは
お伝えしたい。
異文化の狭間に立って何事かを調整する立場になったとき、どんな資質と発想
と感性が必要とされるか?
それが随所に読み取れる、実に秀逸な「異文化対応マニュアル」である。

http://arima.livedoor.biz/archives/50742482.html

実に個人的な感慨ばかりの「推薦の辞」となったが、彼の人となりを想像する
一助になれば幸いだ。

そんなわけで、この一冊は彼がいままでの人生を通じて、ひたすら前向きに、
他の人間にはなかなかできないスタンスで努力し、学んできたことの
ひとつの集大成になっている。

これから先へ、そしてさらに高きへと、まだまだ進んでいくのは間違いないと
思うだけに、ジャーナリスト金子貴一のターニングポイントとなる本書を、ま
ずは皆様に御一読いただきたい、
と、切に願う次第である。


(アリーマ山口)

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⇒私もこの本を非常にオススメします。

とはいえ
アリーマさんもおっしゃるとおり、単に当時を振り返った記録・思い出話では
ありません。イラクの部族社会、アラブとの交渉のしかたなど、現地で活動す
る実務家にとって大変有益な「活きた知識」満載の「アラブとの接し方マニュ
アル」になっています。この点で異彩を放っています。

と同時に感じたのが、金子さんのプロ意識です。
佐藤一佐に意見具申したが、聞き入れられなかった。しかしその後の状況を見
ると佐藤さんの方が正しかったようだ・・という趣旨の言葉があります。

これ、四半世紀にわたって現地とかかわりつづけた人が、なかなか口にできる
言葉ではありません。フリーであれ、学者であれ、軍人であれ、官僚であれ、
会社員であれ、長い経験を積んだ自分の経験から出た言葉を否定する相手を肯
定できる人って、あまりいないんですよね・・・

この正直な言葉を見て、私は著者を「信頼できるプロ」と感じました。
正直さはプロ意識の顕れで、それが全編を通じて伝わってきます。

そしてもうひとつ、
「上意下達の命令系統」「個人ではなく組織が一単位で動く」自衛隊という軍
組織のタテ線と、その一員として参加し、「横のネットワークで仕事する」
「個人レベルで動く」著者のヨコ線が、交わったり交わらなかったりする微妙
な揺らぎが、非常にうまく描き出されています。

今後自衛隊は海外でも国内でも、民間の専門家と協力して各種オペレーション
を遂行する機会が増えると思います。
民間の専門家の能力を軍組織内でいかに発揮してもらうか、という点から見て
も非常に学ぶところが多い本ではないでしょうか?

陸自は、イラク派遣時に起こったさまざまなケーススタディをデータベース化
したと思いますが、できるなら、この本の内容も追加いただきたいものです。

最後に、私がもっとも感銘を受けた言葉を記します。

<このような彼らの考えは、頭では理解できても、本当の意味でわかったこと
にはならない。(中略)双方のこのような感覚を主観的に感じ取り、橋渡しが
できる人物のアドバイスがきわめて重要なのである>

しつこいようですが、この本、オススメです。


(エンリケ航海王子)


以下、全目次です。
☆はついているところは、特におすすめです。

(地図)
イラクとその周辺、イラク・ムサンナ県とその周辺、サマワ市街地とその周辺

第一章 わたしは異文化コミュニケーター 

  異文化間コミュニケーションの橋渡しの仕事を
  言葉が通じないだけで生じる摩擦
  公にされていない民間人の同行者
  お守り、御札を持つ隊員たち
  政府専用機という不思議な乗り物
  クウェートの米陸軍基地へ到着する
  連合軍の一員としての自衛隊
  砂漠の中に忽然と生まれた街
  プライバシーの一切ない軍隊というところ
  実戦向きに作られている米軍の装備
  報道機関向けのパフォーマンス
  複数の宗教のためのチャペル
  旧日本軍の名残を感じさせられる
  天と地ほども差のある日米の戦闘糧食
  
第二章 イラク戦争の爪痕

  イラクのキャンプ・スミティへ
  トラブル続きの車列走行
  サマワまで目と鼻の先の地点で野宿する
  警備中隊に守られ装甲車で移動する
  はじめて目にした宿営予定地
  上層部から来るのは命令だけ
  自衛隊はあくまで独自に活動する
  自衛隊つき通訳は米蘭軍のおこぼれ
  人の心を完膚なきまでに打ち砕いたイラク戦争
 ☆複雑極まりないサマワの部族構成
  至近の迫撃砲攻撃も遠い世界のこと
  オランダ軍のパーティでの「情報交換」
  米兵の多くは海外経験のない予備役
  イラクのために何ができるのか
  オランダ軍の復興支援の方針と実際
 ☆天幕内で起こった一大事件
  土地の賃貸交渉の準備が本格化
 ☆影響力を持つ宗教指導者をリストアップ
  日本人が見えない
  オランダ軍のジープに突っ込んだ軽装甲車
 ☆陳情の住民から情報を引き出す
  住民のストレスは時限爆弾のようなもの
 ☆時と場所で異なるアラブのアイデンティティ
  アメリカ政府高官の表敬訪問
 ☆トラブル続きの宿営地建設作業
 ☆ロシアンルーレットのような復興支援活動
  「省」昇格のための実績づくりと現地の思惑
  自衛隊は米軍のようになってほしくない
  
☆第三章 大部族の中の支部族"ジエイタイ"

  アラブ流交渉術への戸惑い
  両極に位置する敵と見方の存在
  フセインは部族制度を利用して統治した
  市場でかわされた自衛隊員とマスコミの珍問答
  部族の気高いプライドが崩壊してしまった
  アル・ザイヤード大部族の中の支部族ジエイタイ
  千二百年以上前の土器が発見される
  地権者との話し合いは延々と続く
  宿営地の前にできた黄色い小山の正体
  宿営地に発令された高度のアラート
  ギクシャクしていた外務省と自衛隊の関係
  隊員たちの疲労はピークに達していた
 ☆思いがけなく高校の後輩に出会う
  精神の衛生を保つための一日一回の電話
  エアコン完備のコンテナハウスへの引越し
  地権者のアイドルとなる
  さまざまな思惑を持つ地権者たち
  オランダ軍とのサンキューパーティ
  人事監督者との交渉から理髪店の交渉まで大忙し
  次から次へと訪れる地元の訪問者
 ☆少し改善されたトイレで見たものは
  アッラーと日本人だけが母を救える
  日本とアメリカがすぐに直してくれるという誤解
  マスコミの動きが気になる
  取材という名を借りた「ゆすり」
  破壊されてしまっていたサマワ唯一の観光地
  毎年交渉をやり直さなくてはならない契約形態
  眼前に立ちはだかる見えない壁
  現地小学生との交流は成功裡に終わる
  就寝ラッパをバックミュージックに日記を書く
 ☆「ジエイタイ」という異文化の一員になれたか
  メシと夜寝るときだけが幸せ
  サマワとクウェート、それぞれの厳しさの事情
  任務が完了して民間人に戻る


終章 憎しみの連鎖を断ち切るために

 ☆自衛隊・防衛庁の存在意義を高めるための一大イベント
  互いに憎しみを募らせるイラクとアメリカ
  治安が急速に悪化していったサマワ
  米軍の無理解が増幅させた憎しみの連鎖
 ☆イラク人は自爆テロをしないはずなのに
  素朴な一般市民が過激派に変わる
  アラブ流の交渉術で香田氏は解放可能だった
  ますます危険度を高めるアメリカの新戦略
  パレスチナ問題をアメリカは避けて通れない
  本当の意味での国際貢献が今始まる


今回ご紹介した本は


報道できなかった自衛隊イラク従軍記
 金子貴一 (著)
 学研 

でした。

【070316配信 メールマガジン「軍事情報」(本の紹介)より】

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(投稿日:2007年3月16日 14:16
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