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本当の特殊潜航艇の戦い―その特性を封じた無謀な用兵

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<あの小さな特殊潜航艇が、日本海軍のみならず、日本の名誉を守ったことを、
まず最初に紹介したい>

この言葉で始まる本著は、プロの目から見た帝国海軍特殊潜航艇の概要解説・
戦史・用語辞典の三つの柱から成り立っています。
それなのに、千円でお釣が来る「文庫」です。

著者の中村秀樹氏は海上自衛隊の退役将校で、本にあったプロフィールを参考
にさせていただきますと、以下のような経歴の方です。

昭和25年 福岡県生まれ
昭和49年 防衛大学校卒業(18期)
昭和50年 海上自衛隊幹部候補生学校卒業(74期)
海上自衛隊入隊、護衛艦隊幕僚、潜水艦艦長、幹部学校教官等を務め、防衛研
究所戦史部を最後に平成17年退役。


中村さんといえば、『本当の潜水艦の戦い方』(*)で、潜水艦に関する一般
向け教科書を書かれた方として有名です。

特殊潜航艇といえば、「甲標的」「回天」が有名ですが、その他に「海竜」
「特型運貨筒」「運貨筒」「運砲筒」というのもあります。

よく勘違いされるのが「潜水艦じゃないの?」という点です。

中村さんは本著の中で
<特殊潜航艇(甲標的)は、小型潜水艦と思われる人が多いだろうが、実態と
しては、弾頭のない大型の有人魚雷と考えた方がいい>
と解説しておられます。

少なくとも初期型は、性能面から見てもそう見るのが妥当なようです。

また、正確に伝わっていないようですが、
特殊潜航艇には海軍選り抜きの人材が集められたようですよ。

<甲標的要員への選抜は、志願ではなく任命であった。存在を秘匿していた兵
器だから当然である。しかし、選抜された搭乗員はそれを光栄だと感じていた。
(中略)兵学校を出て間もない若い士官たちから粒よりの人材を選んだ形跡が
見られる。若い彼ら艇長を補佐する艇付の兵曹も、古参の優秀者から選抜され、
人格技量とも優れていた>


●だまし討ちではなかった

昭和十六年十二月七日(日)深夜
真珠湾外に待機していた特別攻撃隊(特攻)五隻の潜水艦から、
一隻づつ、計五隻の甲標的が発進しました。

真珠湾周辺に防御海面を設定していた米軍は、当日も哨戒を行なっていました。
飛行艇による空中からの哨戒も行われています。

そして運命の十二月八日。
0342に、米海軍の掃海艇が甲標的を発見しましたが、見失いました。
しかし、0630に再度発見されます。
0645、甲標的に対し、米海軍掃海艇「ウォード」が射撃を開始。
   水中の甲標的から漏れた油が水面に浮かびました。

その一時間ほど後、わが航空部隊が真珠湾に空襲を仕掛けました。


以上は本著の中から抜粋したものです。
もっと詳しい記録が、本著の中では紹介されてます。

わが空襲より前に米軍艦の攻撃が行なわれたことが、米海軍の記録には特に
明記してあるとも書かれています。


●シドニー

甲標的については、マガジンで二度ご紹介したことがあります。
ひとつはマダガスカル、もうひとつはオーストラリアでの活躍についてでし
た。

本著でも、ページを割いて詳細な解説がされています。

なかでも、シドニー湾進入作戦に失敗して戦死したわが海軍軍人たちを、最高
度の礼である海軍葬で処遇しようとした当時の豪海軍司令官 G・C・ムアヘ
ッド=グルード少将のことばは胸を打ちます

「敵を海軍葬にするなどとんでもない」と激昂する世論に対し、同少将はラジ
オを通じて呼びかけました。

「・・・あの鉄の棺桶のようなもので出撃するには、最高度の勇気を必要とす
る。・・・これらの勇士は最高の愛国者である。われわれの中の幾人が、これ
ら日本の勇士たちが払った犠牲の千分の一を払う覚悟を持っているだろうか」


●回天

回天も特殊潜航艇のひとつです。

人間魚雷というおどろおどろしい名前で、戦後左翼勢力から格好の標的にされ
ました。こんな戦後の風潮をぶった切る回天隊員の言葉も紹介されています。

言葉の紹介後中村さんは

<このような当事者の回想にこそ、尊重すべき真実があるはずで、実情を知ら
ない人間が、思想や政治信条で勝手な脚色をすることは、回天搭乗員に対する
この上ない非礼であるばかりか、歴史の歪曲になると思う

また、兵学校出身の将校が予備学生を苛めたという「神話」も虚構であり、毎
日の訓練後の研究会では、技量の向上が最優先で、出身、階級に関わらず、技
量の高い者が重んじられる雰囲気であったという。これは甲標的でも共通する
証言である>

「ある通信兵のおはなし」でも、同様の雰囲気が描写されていました。
おそらくこれが当時の真実であり事実だったのでしょう。


●秀逸なあとがき

一部を紹介します。

<人は勝手なことを言うものである。特にきれいごとを言う人は多い。
自分が実行できないことを主張する人を私は信用しない。言うだけで実行しな
い(できない)主張など、何の価値もない。何かを実行するということは、何
がしかの犠牲をともなう。その犠牲が大きいほど、実行されたその主張と行為
の質は高いのではないだろうか。

人それぞれの主張や正義の評価は難しく、特に反対意見の理解は困難である。
しかしいかなる主張にもとづいいても、実行するために払った犠牲の評価はで
きるはずだ。

大切なものは、人によって違うだろうが、生命の価値を否定するものはないだ
ろう。特殊潜航艇の搭乗員たちはその生命をかけて訓練し、戦って散った。

決死的兵器であることを承知の上、開戦前から猛訓練に励み、困難な条件を甘
受して生還を期さない作戦を戦争全期間を通じて、終始実施したのは甲標的の
みである。日本海軍の中で最も士気の高い部隊のひとつとしてあったといって
よいだろう。>

これをお読みになれば十分でしょう。


●要望

文庫本として読めるのはありがたい限りですが、
これだけの内容(戦史・装備・用語辞典が一冊の中に入っている)ですから、
ハードカバー版も作って、よりボリュームを出してもいいのではないでしょう
か。

また、次に出される本とあわせて
「潜水艦三部作」
としてハードカバーを出していただきたいものです。

それと思うのですが、見出し付の本ってできないものですかね。

用語集が最後にあるので、本文⇒用語集⇒本文・・・という無限サイクルに陥
る人が出てくるかもしれません。

小口に指で繰れる見出しがあれば、とてもいい気がします。
よろしくご検討ください。


どちらかといえば、特殊潜航艇という専門的な対象を取り扱ったものですが、
想像以上に「すらり」と読めたのは意外でした。
肩が凝ることもありませんでした。
電車に三十分乗っている間に読み上げたほどです。

読み終わった印象は「またひとつ貴重な軍事常識・知識を学べた」
という感じです。

電車の中で、ぜひどうぞ


(エンリケ航海王子)


今回ご紹介した本は


『本当の特殊潜航艇の戦い―その特性を封じた無謀な用兵』
 中村 秀樹
 光人社
 発売日: 2007/05 

でした。

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でどうぞ。

■以下は全目次です

はじめに

第一章 特殊潜航艇の実態
 性能(諸元)と性格(作戦能力)
  機動力
   速力
   航続力
   運動性能
   障害克服能力
  攻撃力
   火力
   探知測的能力
  防御力
  通信力
  隠密性
  依存性
 作戦能力総合評価と最適用法
  作戦能力総合評価
  最適用法
   航行船団攻撃の場合
   泊地攻撃の場合

第二章 甲標的の誕生
 発案
 誕生
 実戦に備えて

第三章 甲標的作戦の実態
 攻撃作戦
  真珠湾作戦
   松尾中尉の手記
   発進
   空襲開始前
   空襲開始後の港内
   空襲開始後の港外
  ディエゴスワレス/シドニー攻撃
   準備
   ディエゴスワレス
   シドニー
  ガダルカナル作戦
 防御作戦
  フィリピン作戦
  沖縄作戦
 その他の甲標的作戦
  ミッドウエー
  キスカ
  ラバウル
  ハルマヘラ
  サイパン
  父島
  高雄
  奄美
 本土決戦準備

第四章 甲標的以外の特殊潜航艇
 海竜
 特型運貨筒
 運貨筒
 運砲筒
 回天

付録
 海軍及び特殊潜航艇関連用語

おわりに


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【070525配信 メールマガジン「軍事情報」(本の紹介)より】

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(投稿日:2007年5月25日 13:54
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