軍事情報トップ  »  本の紹介  »  イラク原子炉攻撃! イスラエル空軍秘密作戦の全貌

イラク原子炉攻撃! イスラエル空軍秘密作戦の全貌

メルマガ登録・解除
軍事情報
読者登録規約
>> バックナンバーpowered by まぐまぐ!
 

「今、われわれはイスラエルの歴史で最大の脅威、人命などなんとも思わない狂気のテロリストの原子爆弾によるわが国民の殲滅と国家の破壊に直面している。

われわれは、あの男に、イスラエルを滅ぼす力を製造する能力を持たせてはな
らないのだ。これが、これから実施するミッションのすべてなのだ。それがこ
の国を守ることなのだ。

イスラエルの将来は原子炉を破壊する君たちの技量と能力にかかっている。
君たちは成功を収めなければならない。そうしないと民族は破滅する。
これはイスラエルの歴史の転換点なのだ。

剣によって生きなければならないならば、われわれは口先ではなく自分の手で
強くなければならないことを示そうではないか」

(イスラエル国防軍参謀総長 ラファエル・エイタン中将 作戦に向かうクル
ーへの訓示の一部)


■一九八一年六月七日。

イラクが建設中の原子炉をイスラエル空軍のF16八機が空爆。
攻撃は成功し、原子炉は完全に破壊されました。

イスラエルの行なった軍事作戦でもっとも有名なものとしては、
ハイジャックされた人質をウガンダのエンテベ空港で奪還した「サンダーボル
ト作戦」、そして、イラク・オシラク原子炉を空爆し破壊しさった「バビロン
作戦」が双璧としてあげられるでしょう。

前者については詳細はすぐに公開され、映画も三つほどできています。目的が
「人質奪還」というわかりやすいものだったからでしょう。

しかし後者は、「国益を図るための軍事力発動」という、まさに軍事の根幹分
野に関わる作戦で、イラクのフセイン政権がああいうかたちで倒れなければ、
こんなに早い段階で公開されることはなかったろうといわれています。


■唯一の本

ですのでこの本は、
現時点で日本語で読める、おそらく唯一の「バビロン作戦」本といえます。
(世界的に見ても、まだそうかもしれません)

面白いのは、作戦に参加したパイロットに直接インタビューした内容が書かれ
ている点です。出撃したパイロットのなかには、その後スペースシャトル事故
で死亡した人も含まれています。

「F16の訓練中におしっこを垂れ流した」とか「爆撃に失敗したのは、中途
で作戦に参加した伝説の撃墜王のみだった」「爆撃時に気を失いかけたパイロ
ットもいた」とか、その場にいた人ならではの生々しい話が満載です。

爆撃のあまりの正確さに驚愕したアラブ諸国は、「モサッドが、原子炉に秘密
にホーミング装置を仕掛けていた」と主張しましたが、参加パイロットたちは
黙って首を振って笑うだけだったそうです。


■参謀総長の言葉

印象に残ったことばをご紹介します。

当時の軍参謀総長 ラファエル・エイタン中将が、作戦に向かうパイロットに
かけた言葉です。

「これは重要なミッションだ。そして危険なミッションだ。みなの安全がとて
も心配だ」

「なにかが起きたとしても、われわれが君たちを助け出すためにできる限りの
手段をつくすことを決して忘れないでいて欲しい。拷問にかけられても、特別
な英雄になろうとしなくていい。必要なことは話してもいい。正気の人間で帰
ってきて欲しいのだ。われわれは、君たちがどんな目に遭うことになるのかわ
かっている。」

「わたしたちの政府とイスラエルの国民は、君たちの努力と犠牲的精神に深く
感謝している。われわれが生存するために自分の命を賭けようとする君たちの
積極的な気持をイスラエルは決して忘れないであろう。これは非常時のミッシ
ョンなのだ。イスラエル空軍はこのような遠距離で、このような緊急の必要性
から攻撃を行ったことはない。国家および国民としての歴史がこのミッション
の成否にかかっている」

実は、参謀総長は作戦発動直前に息子を失っていました。


■この本を通じて一番得られるもの。

この本で書かれているのは、軍事作戦の詳細はもちろんですが、それ以上に
「政治と軍事と情報は不可分一体である」ということ、そして諸国は国益を求
めるためだけに動いているという、国際社会のえげつない姿です。
このあたりのニュアンスがとてもよく伝わってきます。

軍事作戦には準備期間が必要で、バビロン作戦も二年以上が準備にあてられて
います。これは情勢判断を元に、政治が指示したものです。準備期間中に情報
機関モサッドは、世界各地でイラク原子炉に対する各種工作を展開し、軍事作
戦発動の前段階としての役割を十分果たしました。

機密保持の至難さとその本質も、改めて思うところ大でした。
軍事に造詣ある政治家、精強な軍隊、世界に誇る情報機関を有するイスラエル
でさえ、機密の上にも機密を要求された「バビロン作戦」の情報は漏れていた
ようです。

人間には完璧などありえないということですね。
完璧な準備をし、完璧な計画を立て、完璧な情報保全措置をとっても、敵は必
ずそのことを知っているはずだ。そういう前提で、すべての事柄は捉える必要
があるようです。

それと、政治家のリークのせいで作戦が当日に中止となったことも紹介されて
います。これがクルーに大変大きなショックを与えたことも生々しく書かれてい
ます。

機密を知る立場にある政治家がもつ各種の「欲」が、「機密は上から漏れる」
事態を生む真の原因のようです。これを除去することは、人間である限りおそ
らく不可能ではないか?との思いももちました。

作戦後、当然のことながらイスラエルは世界中から罵倒されます。
しかしベギン首相は、
「わたしは一秒たりともこの決心を後悔したことはない」
と世界に向けて断言します。

評価はいろいろあるでしょうが、「政治家の決心」という点でこの国は、見る
べきものを持っているようです。今もその伝統は脈々と受け継がれているので
しょう。

個人的に関心があったのは米との関係ですね。
作戦に絶対に必要であったF16を米から購入した際の裏話や、攻撃を知った
当時のレーガン大統領のことば「やれやれやつらは子供だな」など、イスラエ
ルという国の特殊性、一種異様な姿も見事に描き出されています。

イスラエルは米との関係をどういう形で維持したのか?
その後の経過はどうなったのか?
ということもよくわかりました。


■身につまされる本

ことほど左様にこの本は、単なる軍事作戦を戦術面から取り上げただけの、
マニア向け作品ではありません。隣国に当時のイラクと同じような国を抱える
わが国にとって、ひしひしと身につまされるところの多い本ではないでしょうか。

対内面では
・政治と軍事と情報のトライアングルが国益を護ること。
・軍事作戦発動にあたっては、政治家が対処しなければならないさまざまな課
 題があること。
・軍事・情報分野で完璧を求めるのはよくないという現実。

といったことを

対外面では
・国益を図るためには、軍事作戦をとる必要もある
・近隣国が原子力製造能力を持つことにはどういう意味があるのか
・情報工作・謀略活動がもつ真の意義

といったことを深く考えさせられます。

「軍事・対外関係・情報」の本質を読み手に照らし出させる素晴らしい内容で
す。ご一読をおすすめします。


■さて要望です。

というか、
これはいつも思うのですが、翻訳書には必ず「登場人物一覧」がありますね。
でも、気になるたびにページをひっくり返すのは、想像以上に骨が折れるんで
す。ちなみにわたしの場合、趣味もありますが手で書き抜いていますが、しお
りのような形で、本体とは別にしていただければ嬉しいですね。

ちなみに本著では、十四ページに「要人一覧と登場人物表」があります。


■最後にひとこと、

実はわたしはこの本を、数年前に原書で読んでいます。
すばらしいと思いましたが、当時は「邦訳は出ないだろう」と思っていました。
この種の総合的な内容を持つ本格書籍は、適切に訳せる人もいないだろうし、
日本社会でこの種の本はまだ受け入れられないだろうから、出版社も手がけな
いだろう、と思ったからです。

しかし退役将校の高澤一郎さんの適切な翻訳と流れるように読みやすい文章は、
わたしの管見を見事に打ち破ってくれました。
「こんなに複雑で本格的な内容」なのに、実に読みやすく理解しやすいです。

双方を見ているものとしては、「大満足」というのが感想です。

高澤さんと並木書房編集担当者の軍事教養、緊密かつ適切な連携が生み出した
賜物なのでしょう。おかげさまで、日本語で読めるようになりました。
これにはほんとに感謝したいですね。

刊行された並木書房さんには、敬意を表するばかりです。

これまで明らかにされることのなかったバビロン作戦を余すところなく記し、
それを通じて、中東情勢、国益、国防、安全保障のなんたるかを考えさせてく
れるこの本を、皆さんすべてにオススメします。

(エンリケ航海王子)

追伸
「訳者あとがき」も必読です。


今回ご紹介した本は


『イラク原子炉攻撃! イスラエル空軍秘密作戦の全貌』
著者:ロジャー・クレイア
訳者:高澤市郎
出版社:並木書房
発行年月:2007年07月09日

でした。


■以下は全目次です

はじめに

プロローグ バビロンへの道

第一章 フセインの野望

第二章 モサドの破壊工作
 
第三章 F16戦闘機到着!

第四章 二つの飛行隊

第五章 息子たちの出撃

第六章 原子炉空爆!

第七章 全機帰還!

エピローグ 二十年後の再会

訳者あとがき

【070713配信 メールマガジン「軍事情報」(本の紹介)より】

ソーシャルブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク Yahoo!ブックマークに登録 この記事をクリップ! この記事をイザ!ブックマークに登録する この記事をFC2ブックマークに登録する この記事をニフティクリップに登録する この記事をGoogle Bookmarksに登録する



(投稿日:2007年7月13日 13:17
イラク原子炉攻撃! イスラエル空軍秘密作戦の全貌の関連記事 楽天市場ランキングで見る


このページの先頭へ

メールマガジン「軍事情報」

 RSSリーダーで購読する

軍事情報のコンテンツ

 RSSリーダーで購読する